22話 空からの贈り物 ― 祈りの果てに ―
世界が闇に包まれてから三日が経った。
女神樹の暴走と共に大地は裂け、空は黒い雲に覆われた。
リュウが“奈落の果実”を選んだことで、神々の均衡は崩壊しつつある。
だが――その絶望の空から、何かが降りてくる。
それは“贈り物”なのか、それとも“罰”なのか??
崩れた森の上、黒い雲の裂け目から光の帯が射し込んだ。
ひびきは傷ついた腕を抱えながら空を見上げた。
「……あれ、見て……リュウの、あの時の光と同じ……」
エリカが魔力探知を展開する。「違う、これは……神界からの干渉。誰かが、こちらへ降りてくる」
バンが剣を構えた。「敵か味方か、どっちだ?」
その瞬間、光の柱が地面に突き刺さり、静かな衝撃波が森を包み込む。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
銀色の髪、淡い金の瞳。
衣はまるで夜空を編んだような光の布で、背には羽が折れていた。
「……あなたたちが、“奈落の継承者”?」
彼女の声は、どこか懐かしい響きを持っていた。
リュウがかつて夢の中で見た“女神”の声に似ていたのだ。
「俺たちは……リュウを助けに来た。お前は誰だ?」
「私は、“贈与”を司る天使――エルミナ。
女神の欠片が生み出した“最後の守護者”よ」
彼女の手には、一冊の古びた本があった。
表紙には“アーク・コード”と刻まれ、黒と白の光が交錯している。
それは、かつてリュウが封印都市で一瞬だけ見た“創造の書”に酷似していた。
「この本は……何だ?」
「これは、世界を再構築する鍵。
リュウ・アルト=レーン……彼の魂と契約しているの」
仲間たちは息をのむ。
リュウの“魂”がその中に封じられているのだ。
「リュウはまだ……生きているのか!?」
ひびきが泣きそうな声で叫ぶ。
エルミナは静かに頷いた。「ええ。だが、“奈落”と“黎明”が拮抗している。
どちらかが崩れれば、彼は永遠に“消える”。」
その言葉と同時に、本が震え始めた。
ページが勝手にめくられ、そこにリュウの記憶が浮かび上がる。
――仲間と出会った日。
――ひびきの笑顔。
――初めて料理をした夜の笑い声。
――そして、最後に女神の声を聞いた瞬間。
だがその記憶の最後に、暗い影が忍び寄る。
“アル=ラグナ”の手がページを汚していく。
「ダメ、もう時間がない!」
エルミナが叫び、本を抱きしめる。
「この世界は二つに裂かれる。神々の“天”と、人間の“地”。
再び繋ぐには、リュウ自身が“空の書”を開かねばならない!」
空が再び光に裂け、そこから羽の雨が降る。
ひとひら、ひとひら――その羽が触れた場所は、緑を取り戻していく。
「……リュウ、聞こえる? みんな、待ってる……!」
ひびきが空に向かって叫んだ。
光の中、本がゆっくりと開く。
そこから、少年の声が響く。
『――俺は、まだ終わってない。
この“空の贈り物”に誓って、もう一度……お前たちと、生きる。』
そして、眩い光が全てを包み込んだ。
第22話「空からの贈り物」では、絶望の中に差し込む“希望”が描かれました。
“奈落の果実”を選んだリュウが完全に堕ちる前に、彼へと差し伸べられた“天”からの手。
それは“救済”か、それとも“再び試される運命”なのか――。
エルミナという新しい存在は、これまでの女神像とは異なる“純粋な祈り”の化身です。
彼女が持つ“アーク・コード”が、次なる大いなる転換の鍵となります。




