2.1話 奈落の果実 ― 禁断の女神樹 ―
21話では、物語がついに“神の領域”へと踏み込んだ。
リュウの選択が正しかったのか、それとも運命の歯車を狂わせたのかは、まだ誰にも分からない。
“奈落の果実”の継承者となった彼が、次にどんな世界を創るのか。
それを見届けるのは、もはや人ではなく、神でもない存在たちだ。
夜明けの光が差し込まぬ森――そこは“世界樹の裏側”と呼ばれる禁断の地だった。
かつて神々が捨てた実験場。
リュウたちが足を踏み入れた瞬間、空気が凍りつくような静寂が広がる。
「……ここ、本当に“森”か?」
バンが呟いた。足元には黒く腐敗した根がうごめき、ところどころに赤黒い果実が実っている。
その果実は、まるで心臓の鼓動を持つかのように脈打ち、近づく者の意識を引きずり込む。
エリカが警戒の構えを取った。「魔力反応が強すぎる……何かが、呼んでる」
「呼んでる……? まさか“女神樹”が?」
リュウは胸の奥に感じる重い鼓動を抑えきれなかった。
それはまるで、遠い昔から彼の中にあった“欠片”が共鳴しているようだった。
森の奥、光も届かぬ中心部に一本の巨木がそびえていた。
それは“禁断の女神樹”――女神の心臓を封じたという神話の木。
幹の中央には巨大な傷跡があり、そこから溢れる黒い液体が地面を蝕んでいた。
リュウが近づいた瞬間、視界がぐにゃりと歪む。
――『お前はまだ、何も知らぬ』
声が響いた。
誰のものでもない、だが確かに“女神”の声。
リュウの意識は引きずり込まれ、目の前に“二つの果実”が現れる。
ひとつは白く輝く“黎明の果実”。
もうひとつは黒く脈打つ“奈落の果実”。
選んだ果実によって、この世界の命運が決まるという。
「選べ……リュウ。お前は“世界を救う”のか、それとも“人を守る”のか」
その問いに、彼の心は激しく揺れた。
かつて守れなかった仲間、女神に裏切られた者たち、そして――エリカとひびきの笑顔。
全てが頭を駆け巡る。
「俺は……」
手を伸ばしたその瞬間、背後からひびきの叫び声が響く。
「ダメ! その果実は――!」
しかし、間に合わなかった。
リュウの指先が黒い果実に触れた瞬間、世界が砕けた。
空は反転し、大地が裏返る。
“禁断の女神樹”が悲鳴を上げ、幹から無数の腕が伸びてリュウの身体を絡め取る。
「リュウーーーッ!!」
仲間たちの叫びが、遠くに響いていく。
そして次の瞬間、全ての光が消えた。
暗闇の中、リュウは一人、声を聞く。
――『ようこそ、“奈落の果実”の継承者よ』
その声は、女神に似て、女神ではなかった。
“女神の影”――封印都市で見た幻が、今や現実として彼の前に立っていた。
「お前は……何者だ」
「私はかつて“救い”を願い、神に見捨てられた者。名を持たぬ女神、“アル=ラグナ”。
お前の選択により、私は再び目覚めた」
リュウの瞳が、わずかに黒く染まっていく。
世界は静かに軋み、何かが確実に変わり始めていた――
リュウとアル=ラグナ、二つの魂が交錯する。




