表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界ガールズパーティー、男は俺だけ?』  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/26

20話 再会の予兆 ― 白き花の記憶 ―

封印都市エル=リュミエールで明かされた女神の「影」。

それは神々の真実に触れる“禁忌の扉”だった。

崩れかけた聖堂でリュウたちは、自らが歩んできた旅の意味を問われる。

失われた光の中で、新たに見えたものは「女神なき世界」でなお輝こうとする、人間の意志だった――。


そして、旅は続く。

滅びを迎えた都市の瓦礫を越え、彼らは再び立ち上がる。

それぞれが抱える傷と誓いを胸に、次なる迷宮へ。

だがその先に待つのは、選ばれし者にしか辿り着けぬ“真なる祭壇”だった。

風が静かに吹き抜ける草原に、一輪の白い花が揺れていた。

 その花びらは淡く光り、夜の帳に浮かぶ月を映していた。


 アレンはその前に立ち、膝をついた。

 王都を離れて三日。彼は目的もなく歩いていた。ただ、胸の奥にある“何か”に導かれるように。


 「……この花を見ていると、胸がざわつく」

 言葉は誰に向けたものでもない。

 だが、彼の声に応えるように風が吹き、花がふるりと震えた。


 次の瞬間、微かな声が響く。

 ――アレン。


 彼は振り向いた。

 だがそこには誰もいない。

 ただ、月光に包まれた草原の中央に、白い衣をまとった少女が立っていた。


 「……だれ、だ?」

 アレンの声が震える。

 少女はゆっくりと振り向いた。

 その瞳は透き通るような銀色――かつて、誰かの瞳と同じ色をしていた。


 「わたし……誰なんでしょうね」

 少女は自分の胸に手を当て、首をかしげる。

 「気がついたら、この花のそばに立っていました。

  名前も、どこから来たのかも、なにも思い出せないのです」


 アレンは息を呑んだ。

 彼女の声の響き、仕草、そして目の奥に宿る微かな光――。

 すべてが、“あの人”に重なっていた。


 「……そうか。じゃあ、俺が探してたのは……」

 彼の言葉が途切れた。胸の奥が焼けるように熱くなる。


 少女は首を傾げて笑った。

 「あなた、泣いてますよ?」

 「……わからないんだ。ただ、どうしても……涙が出る」


 彼女はそっと近づき、アレンの頬に触れた。

 その瞬間、淡い光が二人を包む。

 アレンの脳裏に、断片的な記憶が流れ込んだ。


 ――焚き火。

 ――夜風。

 ――そして、“また、逢おうね”という声。


 アレンは立ち上がり、少女の手を握った。

 「……君の名前、俺が思い出す。だから、一緒に来てくれ」


 少女は目を丸くしたあと、ふわりと微笑んだ。

 「……ええ。あなたの隣なら、怖くない気がします」


 そして、二人は歩き出す。

 草原の向こうに広がるのは、かつての王都ヴァルティアの廃墟。

 女神なき世界で、彼らは再び“運命の円環”を歩み始めた。



 同じ頃、王都の北方。

 セレナとカイは、崩壊した神殿跡で奇妙な光を目にしていた。


 「……これは、まさか“女神の欠片”の再結晶?」

 カイの目が光る。

 セレナはその光を見つめながら、かすかに笑った。

 「リリア……あなた、やっぱり消えてなかったのね」


 空に浮かぶ月が、再び輝きを取り戻していく。

 それは、世界がゆっくりと“再誕”の予兆を見せている証だった。



 夜明け前。

 アレンの隣を歩く少女が、ふと立ち止まった。

 「ねえ、アレン……」

 「どうした?」

 少女は微笑み、胸に手を当てた。


 「私、思い出したの。……この花の名前。『女神の涙』。

  そして――あなたの名前も」


 アレンは息を詰まらせた。

 少女の瞳が、光の粒を湛えながら彼を見つめる。


 「……アレン。あなたに会うために、私は生まれたの」


 風が吹き、白い花びらが夜明けの空へと舞い上がる。

 それはまるで、失われた誓いが再び結ばれる瞬間のようだった。


 アレンは微笑んだ。

 「おかえり、リリア」


 少女の頬を涙が伝う。

 彼女は静かに頷いた。


 「ただいま、アレン」


 朝の光が二人を包む。

 世界はまだ壊れかけていたが――確かに、そこに新しい命の息吹があった。

封印都市での戦いは、リュウたちにとって「信仰とは何か」「守るとは何か」を問う試練だった。

女神の影――それは存在しない神にすがる人々の幻想か、それとも絶望の底に差すもう一つの光か。


今回で物語はひとつの区切りを迎えたが、真実はまだ霧の向こうだ。

彼らの歩みは止まらない。

新たな仲間、新たな迷宮、そして“封印された希望”が彼らを待つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ