泥団子こわい
ヒヲス保育園特産の伝統工芸品は、泥団子だった。それは一度、A組の担任保育士の発案で保育園のバザーにも出されたことがある程だ。
公立保育園で狭くて遊具も少なく、時折安全の為に数少ない遊具の一つであるブランコも取り外される保育園の中で唯一と言っていい程、男女問わずハマる者が続出した遊びが、泥団子作りである。
まずは適当な団子状に丸められる土を探し、必要に応じて水を加えて球体の団子を作ると、どこかに隠して乾かす。割れることなく乾燥したら、優しく表面を撫でて余計な砂を落として磨く。次にサラ粉と呼ばれる細かい砂を探してそれを磨いた泥団子にまぶす。そしてまた磨く。
完全に磨いて光らせる者も居れば、形を重視してサラ粉をまぶして良しとする者、大きさなど拘る点は人それぞれだったが、もろく崩れやすい泥団子は完成させるのにも時間が掛かり、家に持ち帰ることは至難の技で、何より泥団子に美を見出す園児達の価値観は、殊更言うまでもなく親達には通用しない為、そのかけがえのない土くれは、園の敷地内のあちこちに隠されて、時には園児同士で盗難の対象にもなっていた。
灯枇は園庭の片隅で作成途中の乾燥した泥団子を発見すると、勝手に取って磨いた。するとその誰かが作って隠した泥団子は、徐々に黄金色に光り出した。
「すげー、黄金団子じゃん」
黄金の泥団子は園内のパンダ組の間で評判を呼び、A組の女の子から1人弟子入り志願者が現れてしまった。灯枇はほとほと困り果て、彼女に嘘八百の作成方法を教えたが、もちろん再現は不可能だった。失敗後、作成方法を忘れてしまったのだとA組の女の子に謝る灯枇の横で、一応黄金団子に近い物を、園庭にある黄土色の土を使って、A組のナホちゃんやその友達が作っていた。