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転入児・野々下 灯枇

 近所の同級生である灯枇(あけび)ちゃんと、俺の関係はつい最近始まったばかりで、本当に幼馴染でも何でも無い。一応同じヒヲス保育園出身ではあるけれど、組も違ったし、そもそも灯枇(あけび)ちゃんは年中になってから、他の年下の子達と一緒に途中入園した。それまでは公務員の母親が弟の産休育休だったから、今現在、俺達が通ってるヒヲス小学校からはすぐ近くの、ヒヲス幼稚園に通っていたらしい。



 一人称で下の名前を使うのは、子供っぽくて恥ずかしいことだと先生は言う。女なら私、男なら僕を使いなさい。お友達を呼ぶ時は、下の名前に“ちゃん”付けじゃなくて、これからは上の名前、つまりは名字に、相手が女だったら“さん”、男だったら“君”を付けて呼びなさい。


 小学校に来て1番初めに言われたその言葉に縛られて、灯枇(あけび)は未だに人をあだ名で呼ぶのが苦手だ。誰とも大して親しくなれず、クラスのほぼ全員からは、ずっと野々下さんとしか呼ばれないのも遠因かも知れない。最初の登校日、家に帰ってから、「何だか今日は大人しくしちゃったな」と思った覚えはあるのだが、それが身に染み付いてしまった原因を求めるには、灯枇(あけび)の物心がついた5歳の、暗黒のヒヲス保育園時代まで遡らなくてはならない。


 当時のヒヲス保育園には、下から順にひよこ組、りす組、うさぎ組、パンダ組、きりん組という年齢区分があって、乳幼児のひよこ組は2階の独立した大部屋で世話をされ、大きくなってある程度走り回れるようになると、1階のりす組部屋に移される。そこから更に大きくなると、A・B・C組の3クラスに分かれて各クラス同程度の人数ずつ、きりん組・パンダ組・うさぎ組をバランス良く取り揃えたクラス分けが行われ、各クラスに1人ずつ担任保育士が付く。


 後々近所に住んでいたことが発覚する柾谷(まさや)君は、その当時はナホちゃんと呼ばれるA組の男の子で、B組の灯枇(あけび)との接点など全く無かった。同じB組のパンダ組同士、灯枇(あけび)はルミちゃんという女の子と仲良くなり、いつも一緒に遊んでいた。ルミちゃんは色白のよく笑う女の子で、彼女を介して主にC組の女の子達とも遊んだ。


 灯枇(あけび)は当時保育園くらいの女の子なら誰もが見ていたであろう、女の子向けアニメの設定や、灯枇(あけび)の従姉が要らなくなって譲られたTV絵本の内容を参考に、『爆弾ごっこ』なる遊びを開発し、最初はそれでルミとだけ遊んでいたが、ルミが他の女の子達も誘った事で、一気に遊びの規模が拡大した。


 それは参加者一人ひとりが何かしらの色を役名として名乗り、園庭のどこかに隠されたという設定の爆弾を見つけ出して解除するという遊びだった。

役名の振り分けも、爆弾の場所も、全て発案者の灯枇(あけび)に委ねられ、リーダーのショッキングピンク役が1番人気だった。


 爆弾探しをしばらく行った後、毎回最後に爆弾の在り処を訊ねられる灯枇(あけび)は、慌てていつも思い付きでそこら辺の壁や物陰を指差し、ヒヲス保育園は毎度毎度、女の子達の中で中心的役割を果たす子が演じるショッキングピンクの手によって、架空の爆弾危機から救われるのであった。




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