44 監禁
部屋の扉へ椅子を投げる。
脆い作りをしているのか椅子は半壊して砕け散る。
まったく使い物にならない!
「おい! 開けろ! 女が男を監禁するなんざいい度胸だな! この所業をお前の父母が知ったらどうなるか知りたくはないか!? ええ?」
憤懣やるかたないといった荒い足音がバタバタと扉の向こうから聞こえてきた。その中でひときわ高いヒール音が響く。つまり、二人以上の足音が混在しているのだ。
『うっさい! あんた馬鹿もほどほどにしろ! 身一つで閉じ込められてるってことをいい加減理解しなさいよ! 携帯も持ってないのにどうしてそう粋がれるの!? 馬鹿じゃない!? 馬鹿でしょ!?』
『ドリュー!? ドリュー、そこにいるの!?』
聞こえたのは喧しくも、懐かしい声だ。
パニックになったような声が外の廊下に反響するのが聞こえる。
『このっ馬鹿娘を連れて行きなさい!』
男の声で、制止する声が聞こえる。
『やめて! 放してよ!』
『多少手荒でもいいから、この子も部屋に放り込んでおきなさい!』
疲れ切ったリーリンの声が下男たちに指示するのが聞こえた。
いったい何が起こっている?
『やだ! やだよ、ドリュー!』
悲鳴を上げながら、名前を呼んでくるアマンダ。
裁判から寄ったリーリンの屋敷で閉じ込められて数日が経っている。
その間に一体外で何があったのか。
『ドリュー! ドリュー! お願い、お願い助けて!』
嗚咽も混じった、切迫した声音だった。
『あたし、そんなつもりじゃなかった! そんなつもりじゃ……』
『静かにしてよ! あんたのドラッグの後遺症だけでも面倒だってのに!』
耳を疑った。厚顔無恥にもほどがある。
人を勝手に閉じ込めておいて、治療行為をしているつもりらしい。
『違うよ! あれは安全だもん! でも……』
『でももクソもあるか! あんたの持ってた薬のせいでドリューがこんなことになってんのよ!?』
『そんなはずない!!!』
やけに、はっきりとした声だった。
流石の高飛車女もたじろいだようだ。
しかしすぐに口調険しく問い詰める。
『なら黙ってたけど言ってやるわ! あんたの彼氏が言ってたやつ! あれは今どんな騒ぎになってると思ってる!?』
……マイクが言っていた?
途端、火が付いたような鳴き声が響き渡る。
『あぁぁあ………マイクぅ……姐さんたちだって言ってたじゃん……ああぁ』
それが赤子か何かであればわかるが、成人の女がやっていると知っていると狂気じみたものを感じた。知り合いだと分かっても、薄気味悪さを覚える。
『泣くな! 悪気がなかったのも分かってるけど! でもここまで来たんじゃね庇いきれないったら………ああもう泣くな! あんたたちさっさとこの子を連れて行きなさい! もう、私の周りはいったいどうなってるわけ!?』
アマンダの声が遠ざかりつつ、とうとう我慢が噴出したように甲高いヒールの地団太を踏む音と、ヒステリックになったリーリンの悲鳴が合わさり反響している。知らないうちに精神病棟に来てしまったのかと疑う。たとえ今まさに扉が開いたとしても、あれほど希った外には出たくないと感じるほどだ。
『今頃、面倒な女を法廷台で追い込んで、レギーとランデブーしてたあたしだってのに!』
「………それは無いだろ」
ふいに零れた、あまりに荒唐無稽な発言を聞き、愕然としつつ冷静になる。どうやら外は外で何かが起こっているらしいが………連絡手段をすべて取り上げられ、外部の情報を知る手段のテレビもパソコンもないような部屋で数日間閉じ込められているアンドリューよりも理不尽で悲惨なことがあるか?
窓の外へ目を向けるが、頑丈な格子が嵌っている。
さらに3階以上の部屋だということは分かっている。
悪態をついて椅子を蹴った。
「――何が起こってる?」




