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雨だれのような僕らは  作者: K・ケイ
9/52

9 夏実&瞬一

「ねえ、人を好きになったこと、ある?」

「え、まあ…そりゃあるだろ」

「ほんとに?ライクじゃなくてラブのほうだよ」

「分かってるよ。いや、どうかな。分かってねえかも。ライクとラブの境界線って何」

「え、そこ?そこ突っ込む?」

「いや、分かるんだけどさ」

「うん。…分かるよ、言いたいこと」

「人によるよな」

「うん」

吐く息が白かった。それでも神社は混んでいて、長い長い列の中に私たちもまた並んで立っていた。

「やっぱり、ピンクかな」

「え?」

「恋なら、ピンクだろ。他はまあ…一色に決められない」

「ああ…なるほど、色か。…難しいな」

「…難しいか?」

「普段そんなこと意識しないから。っていうか、そういう発想がなかった」

「…そうだな。変なこと言ったわ、俺」

「別に変じゃないけど」

「夏実はどうなんだよ。どこが境界線だったの」

「…どこって…」

「ライクじゃないから付き合ったんだろ」

どうなのだろう。境界線。あったんだろうか。

しばらく答えられなかった。列が進み、また止まる。それを三度くらい繰り返した。

「だめだ、分かんない」

「分かんないのかよ。こんだけ考えといて」

「うん。…告白してきてくれたの、向こうだし」

「あー。…まあ、好きなら何でもいいよな」

「…」

てらいなく、好きだと言える瞬一は、きっとまっすぐな恋をするだろう。ずるずると複雑な思いを抱えて、途方に暮れている私には、少し眩しい。

「瞬一はさ」

「ん?」

「好きな子と付き合えたら、私とは会わなくなっちゃうよね」

「…」

どうして突然、こんなことを言い出したのか分からなくて、言った瞬間後悔した。

違う。

こんなことが言いたいんじゃない。

いや、何を言っているんだろう?というか、何を言いたいんだろう?瞬一と会えなくなるのは寂しいけれど、引き止めるつもりなんてないのに。誰よりも応援したいのに。どうしてうまく言えない。

「…ごめん。何でもない。中学の時から、瞬一はすごく、近くにいたから。だから…ごめん、忘れて」

こんなんじゃ、また瞬一に気を遣わせてしまうかな。でも「寂しい」は、言っちゃいけない。言ったら瞬一は、私のことも大事にしようとしてしまう。

「…俺、好きな人なんていねえし」

「…」

「もし、もしも、いつか誰かと付き合うとしても、夏実には会いたい」

「でも」

「そうじゃないと、俺が寂しい」

なんて答えればいいか分からず、瞬一の視線を避けるように俯く。

私はいくつ、瞬一に小さな噓を重ねさせるのだろう。

でも、だめだ。瞬一が私を大事にしたら、彼女はやっぱり嫌だろうから。

もし本当に、瞬一に彼女ができたら、その時は私から離れるから。

だから今は、もう少しこのままで。

参道を進みながら、私は思う。

瞬一の好きな人はどんな人だろう。

可愛い子だろうか。

素直な子だろうか。

瞬一の優しい噓に気づいてくれる子だろうか。

それとも、瞬一に噓をつかせない子だろうか。



だんだん神社の本坪鈴が近づいてくる。前に人がいなくなる。

僕らは並んで、鈴を鳴らす。

今年も幸せでありますように。

何かあったの、なんて聞かない。

夏実が、辛い時ほどよく笑う夏実が、強がりでなく、ただアホみたいに笑っていますように。

どうか、彼女の恋が、実りますように。

たとえその時、隣で笑うのが、僕じゃなくても。

僕はきっと、笑っていられる。


ずっとそばにいて、なんて言わない。

不器用な瞬一が、人の幸せばかり願う優しい瞬一が、自分の幸せを掴みますように。

どうか、彼の恋が、実りますように。

たとえそれで、私が隣にいられなくなるとしても。

私はきっと、笑っていられる。



僕らはただ、黙って手を合わせた。


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