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〜過去編三回目断罪〜



「マグリット公爵令嬢。今この時をもって俺はお前との婚約を破棄する!!」

 マグリットの婚約者であるマクシミリアン皇太子殿下が声高に告げる。




 何故家から出る事さえ叶わなかったのに、こんな所でまたこの断罪を聞かなければならないのか。


 無理矢理連れて来られた学園の卒業パーティーの会場。


 本当は震えが止まらない、筈だった。

 実際此処まで連れて来られるまでの道のりではずっと震えていた。


 むしろ今でも気が抜くと、震えで立っては居られなくなるのも気付いている。

 それでも自分は公爵令嬢だという矜持だけで、ここで震えもせずに立てている。


 無様な姿だけは見せずにすみそうだと、こんな場面だが少し安心する。


 それでも留学をしている事になっているマグリットをわざわざこの場に連れて来たという事は、おそらくそういう事なんだろう。

 震えで歩けなかったのもあるが、此処まで連れて来たのは皇宮勤務の衛兵で、もうすでに罪人であるかの様に引きずられながら連れて来られたのだ。


 当然、家の者一同止めた。

 しかし皇太子殿下の命令だと言われたら、引き止める事は出来ない。

 悔しそうにみんなが見送ってくれるのを見て、マグリットは少しだけだが久しぶりに笑った。

 皇太子殿下の命令だろうと拒否しようと抵抗してくれた。それだけで充分嬉しかった。

 だからこそ大丈夫だと、そう思えた。

 あんなに怖かったのに。




 そして会場に着いた瞬間。既に衛兵に挟まれた状態でマクシミリアンに婚約破棄を告げられたのだ。


「どうぞお好きにして下さいませ。」

 もうすでに何も期待しない。

 優雅に、優美に、誰よりも美しく、カーテシーをしながら答える。


 マグリットの様子に眉間に皺を寄せ、マクシミリアンは不快そうに眉を顰める。


「何の弁解も無いのか?」

「・・・・・・・・・弁解??

 何を弁解するのでしょうか?今の今までこの学園に通っても居なかったにも関わらず弁解とは、何を仰るのでしょうか?


 私がこの学園に居なかったのは恐らく全ての方が知っている事。居なかった事に対して弁解をしろとでも?



 それとも居なかった事を無視して、皇太子殿下の横に居る方を虐めたと、断罪でもなさろうとでもしているのでしょうか?」

 どうせ牢屋に入れられて殺されるのだ。

 もうどうでもいい。


「「!?!?!?」」

 マグリットの言葉にマクシミリアンとジェシカは驚愕の表情を浮かべる。


「この学園に一度も来た事があろうと無かろうと、本当に貴方方には関係無いんですね。

 わざわざこんな風に引きずられて連れて来られるなんて思ってもみませんでしたわ。」

 持っていても余り今までは使わなかった扇をバサリと広げて顔の半分を隠す。本音は全て隠してしまいたいが、そうはいかない。

 此処まで来て仕舞えば、これが今世での最大の見せ場。恥じる事ない様に二人を見据える。


「っ!?留学なんてしていなかったではないか!留学が嘘だったお前が何を言っても、言い訳にしかならん!!」

 まるで悪役であるマグリットから守ろうとでも言わんばかりに、マクシミリアンはジェシカを抱え込む様に抱きしめている。


 婚約破棄の手続きさえもしていない。破棄しなければまだ婚約者であるマグリットの前で他の女を抱きしめる。


 いい加減にしろ!と怒鳴ってやりたい。

 それが未来の皇帝陛下がする事かと!!


 二人の仲に嫉妬する必要などカケラも無い。

 それでも全ての民に見本を見せるべき皇族が、婚約者が居るにも関わらず婚約者でも無い別の女を抱きしめる事に、恥は無いのかと。


「事情があり、どうしても学園へと通う事が叶わなかったので皇帝陛下に許可を貰い、留学という事にしてもらっていました。」

 公爵家側からは体裁が悪いからと留学にしてくれと言った訳では無い。皇族家の方から今は留学という事にしてくれと頼まれていたのだ。

 本音は留学なんて事にせず、家に引きこもって出て来れなくなった情けない皇太子の婚約者、と言ってくれても良かったが。


 そうすれば皇太子妃を狙っている者達がこぞって、マグリットを皇太子の婚約者から引きずり落とそうとするだろう事は火を見るよりも明らかで。それが一番自分にとって平和では無いのか、とマグリットは思ってはいたが、それを容認してはくれなかった。


「事情だと?婚約者である俺が知りもしない事情とは一体何だ!?

 何を企んでいる!?」

 その言葉を聞いて今世では余り動かなかった表情が動く。

 目が点になるとはこういう事を言うんだな、と他人事の様に思う。


「皇太子殿下は何も知らないのですか?」

 流石に婚約者という立ち位置に居るだけあって、マグリットの事情は知っているものとばかり思っていた。


「何故俺がお前のことを知っているんだ!?」

 いやいや、婚約者だろ!と周りにいる卒業パーティーに出ている全ての人達が、口には出さずとも心の中で突っ込む。


「余程誰にも信用されてないのでしょうね。」

 不敬である事は承知の上だが、思わずポツリと口に出してしまう。

 小さな声だったがホールという場所柄、周りも静かに話を聞いている為か思いの外響いた。


 マグリットも流石にマクシミリアンが何も知らないなんて、考えてもみなかった。だからこそマクシミリアンからの接触は無かったのかと納得する。


 マグリットが引きこもる、なんてマクシミリアンにとっては婚約破棄をする絶好の機会だった筈だ。実はマグリットが屋敷に居るというのを知ったのは最近なのであろう。


「信用されて、ない、だと!!!」

 顔を真っ赤にしながら激怒しているのを見て、あぁ聞こえたんだな、としか思わなかった。

 どうせ何を言おうと牢屋に入れられて殺されるのは変わらない。それなら言いたい事を言うのも悪くないのかもしれない。


「政務もせず、民の事も考えず、皇帝陛下となる為の勉強、いえ貴族としてのマナーでさえも習わず、好き勝手に毎日過ごされて、誰に信用されると言うのでしょう。」

「貴様!!!!」

 掴み掛からんとするも、流石にそれは皇族といえど外聞が悪い。

「おやめ下さい。」とマクシミリアンの側近達が背後から羽交い締めにしている。


「さぁ、どうぞ。お好きになさって下さいませ。

 今までと同じ様に。

 馬鹿みたいに自分への甘言だけを信じる愚かな皇太子殿下。


 私が何も言わなくても、どうせ牢屋に入れようと思っていたでしょうから。」

 扇を閉じて腕を大きく広げて、好きにしろと、無抵抗を示す。


「何故、俺がお前を牢屋に入れると・・・・・・」

 驚愕かなんなのかわからないが、呆然とした顔でマグリットを見つめる。


「何故わかるのか、と?何故知っているのかと?聞きたいのでしょうか??

 さて、何故でしょう。貴方方が単純なのもあるのでしょうが・・・」

 そこまで言って言葉を一度止め、フフフと笑う。


 単純、と聞いて又マクシミリアンは怒り出しそうだったが側近達が再度止めているのが見える。


(本当、単純で馬鹿な人。)

 話も聞かず、言われた言葉をそのまま受け取って、情報を探ろうともしない。こんなのが皇帝陛下になるなんて。


 何度も何度も思った。

 それでもきっとそんな事は無いと信じていた。


「マクシミリアン皇太子殿下!!!

 貴方が皇帝陛下となれば、この帝国も破滅へと進むでしょう!!!」

 もう信じれない。



「貴様!!!ジェシーを虐めるだけに飽き足らず、この俺でさえ侮辱するか!!!」

 側近達が止めるのももう限界だったようで、かなり激怒しながらマグリットの方へと向かってくる。


 腐っても皇族。

 マクシミリアンは魔力が多いと言われる他の貴族よりも魔力は多い。それが怒りにより制御出来ずに身体の周りを渦巻いている。


 制御されていない魔力は、本人の意思とは関係無く魔力暴走を起こしているため、誰も近付く事が出来ない。

 制御されていない魔力は、ただの暴力と何ら変わりはない。


 しかしマグリットは動かない。

 マグリットも魔力は多い。そしてマクシミリアンよりも魔力精度が良くコントロールも出来る。


 その為マクシミリアンの魔力に充てられたりもしない。


「やはり貴方方は私をそこに居る方を虐めた事にしたいのですね。


 何と浅はかな。


 私を悪役に仕立て上げ、皇太子殿下の横にいる方が虐められながらも健気にいらっしゃる、という台本でもあるのでしょうか。そうでもしなければ、たかが男爵令嬢が皇太子殿下の婚約者にはなれないのでしょうね。


本当拙い、馬鹿みたいな計画ですこと。


 私が皇太子を侮辱したとして、不敬罪で牢屋に入るだけでは足りない。だからこそ私という悪役が貴方方には必要、と言う事がよくわかりました。


 私は何をしてもこうして断罪の場へ連れて来られて殺されるのですね。」




 アハハハハハハと狂った様にマグリットは嗤う。








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