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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
五章

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増長した将軍の末路

 俺とアンナが大広間へと駆けつけると、ミリエとイリシュアールの兵士四十人はキリアヒーストルの兵たちに囲まれ、剣を突き付けられていた。


「ミリエ!」


 俺は剣を構える兵の囲みを無視してミリエたちの下へ走った。


「クリスさん!」


 まさに一触即発といった状況。


「なにがあった?」

「あの人です! あの人が急にやってきて命令したんです」


 見れば玉座脇の定位置に立つトーリアンスが顔に歪んだ笑みを浮かべていた。


「やっぱりか……」


 俺はトーリアンスに向けて声を張り上げた。


「もうあきらめろ! お前の独断は明らかになった! 王を無視して凶行に及んだ罪は裁かれるべきだ!」


 兵たちの間にわずかな動揺が走る。

 王を無視して軍を動かすことはとてつもない重罪。過去幾多の国々で軍事クーデターがあり、将軍の権力増大と軍の独断専行はやがてそこへ行きつくからだ。


「うるさい! 今ここでお前を始末すればイリシュアールはガタガタだ。いよいよ悲願だったイリシュアール併合が実現するのだ!」


 兵たちはさらに動揺する。

 今のトーリアンスの言葉ははっきりした宣戦布告だったからだ。

 想定していた事態ではあったが、これは最悪のものよりはかなりマシだ。

 なぜなら王は暗殺には加担しておらず、会談の流れはトーリアンス糾弾に傾いていたからだ。


「やれ」


 トーリアンスが命じる。

 事情はどうあれ兵は上から命令があれば動かなければならない。

 ついに俺たちに襲い掛かってきた兵士たち。

 俺は叫んだ。


「兵たちを殺すのはまずい! みんな集まれ!」


 俺たちはあくまで平和的な外交訪問でこの国へ来ている。

 守りに専念して王の到着を待つのが正解だ。

 キリアヒーストル兵の剣はすべて、俺が円形に展開した障壁符の壁に阻まれる。


「術符だ!」


 トーリアンスの号令。

 今度は兵士たちは術符を構える。

 が、俺もあの頃より多くの強力な魔法を使うことができる。

 放たれた火球もすべて不可視の壁を破ることは出来なかった。


「この大広間に風穴を開けたあの場にいなかったのが運の尽きだなトーリアンス。お前は俺の実力を見誤っていたんだよ」

「ぐうぅっ!」


 悔しそうにうめくトーリアンス。

 そこへイシュニジルを伴って王が到着した。


「みなの者、剣を収めよ」


 兵たちはピタリと動きを止めて、王の言葉に従った。


「大将軍トーリアンス。貴殿が今までに行った独断専行の証拠はここにある。今回の件以外にもずいぶんと好き勝手に動いていたようだな」


 イシュニジルは手にした紙の束を掲げた。

 遅れてやってきたのはあれらの書類を取りに行っていたからか。どうやらイシュニジルもトーリアンスのことをひそかに調べていたらしい。


「イシュニジルっ……! 貴様ぁっ!!」

「軍の暴走は国が最も危惧するべき事柄。王の監視の目がまったく付いていなかったとは思わないことだ。今回の件についての証拠はここにはないが……」


 イシュニジルはちらりと俺に目を向けた。

 俺はうなずく。

 トーリアンスのいる玉座へと歩いて行く。

 俺が目の前まで来たところで、腰の剣に手をかけるトーリアンス。

 俺は無視して一枚の紙を取り出した。


「どうやら軍では工作員への重要事項の伝達には口伝(くちづた)えではなく暗号で書かれた文書を使っていたようだな。証拠は残るが読んだらすぐに燃やせとでも指示していたんだろう。それよりも万が一にも伝達ミスが起きることのほうを恐れていた。これが証拠の指令書だ。本物であることは他の文書と照らし合わせればすぐにわかるはずだ」

「貴様、一体なにが目的だ? なぜ失敗した暗殺ごときの些事(さじ)でわざわざこの国へ来たんだ? お前が来なければ私はこんな目には……くそっ!」

「いいや、俺が来なくともいずれはイシュニジルが、集めた証拠で弾劾(だんがい)していただろうよ。俺の目的はただひとつ。リズミナを苦しめたやつが許せなかっただけだ」

「なっ……ばかなっ!? どうしようもない下っ端の工作員たった一人のために……こんな大それた真似をしでかしたというのか!?」

「大それた真似?」


 俺は視線に怒りを込めてトーリアンスを見据える。


「大それた真似ってのはな、トーリアンス。お前がリズミナにした仕打ちのことを言うんだよ」


 俺は拳を振りかぶる。

 突き付けた紙で視界を遮りながら、紙ごと一気にブチ抜いた。


「ぐがぁふげぇあふぁぁっっ!!!」


 トーリアンスの意味不明な絶叫。

 顔面に思いっきり手加減なしの一撃。

 体をくの字に折ってひっくり返るトーリアンス。

 倒れたトーリアンスは制止するように右手を突き出した。


「ま、待て。たった今例の工作員の妹を確保するよう指示を出したところだ。私になにかあればそいつの命は――」


 (あと)も残らずきれいに完治したとはいえ、リズミナに付けられたあざは顔だけではなかった。

 トーリアンスのわき腹に蹴りを一撃。


「ぎゃぼっ!!」


 つま先が深々と腹部にめり込む。トーリアンスは再び声を上げた。

 面倒くさい。

 俺は衝撃符をコンパクトに放ってリズミナが叩かれた箇所をすべて打った。


「ぐぎゃああああああっ!!」


 大広間にトーリアンスの絶叫が響き渡る。


「…………」


 この場の全員が無言で俺を見つめていた。

 やべっ。さすがにやりすぎたか。


「あー、あとはお願いします」


 気を失ったトーリアンスに背を向けて投げやりに言った。


「お、お前たち! トーリアンスを牢へ!」


 思い出したような王の声に、兵たちは慌ててトーリアンスを連れて行った。

 証拠の指令書を渡すためにイシュニジルのところへ行く。

 そこで王に耳打ちされた。


「もしわしがこの件に関わっていたら……」


 王は以前に大広間に大穴を開けられた件ですっかりビクついている。


「聞かないほうがいいですよ」

「は、は……」


 王は顔をひきつらせて笑った。

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