独断専行
キリアヒーストルの城の中にある、豪華だが広すぎない一室。おそらく王が私的な用事で使うための部屋だろう。俺との会談もある意味密談の内に入るのかもしれない。そう言ってしまえばピッタリの部屋だった。
丸テーブルを囲んで王とイシュニジルとトーリアンスと俺とアンナが座る。
エリやミリエたちは兵と共に大広間に待機してもらっていた。
「それで、どんな要件かの?」
俺は単刀直入に言う。
「王様はイリシュアールで起こった反乱がキリアヒーストルによって扇動されていた件についてはご存知ですよね」
あまりにもストレートな内容だが、俺はこの場に世間話をしに来たわけではない。
相手の腹を探るにはとりあえずど真ん中の直球を投げて反応を見てみようと思った。
王はまず目を見開き、すぐに苦しそうな顔をイシュニジルのほうに向ける。
まあ当然知っているよな。
リズミナの話では俺が国やらなんやらと関わるようになるずっと昔から、そうした工作活動は行われていたということだし。
「なるほど。筆頭政務官殿はまともに話し合う気がないと見える。いきなりなにを言い出すかと思えば。侮辱もはなはだしい」
白々しくもあざけりの笑みを口元に浮かべるトーリアンス。
「先ほど王様はよき盟友と言ってくださいました。盟友相手にいつまでも隠し事をしていても先には進めませんよ。キリアヒーストルとイリシュアールはよい関係を築けるはずだと俺は考えています」
もちろんアンナを利用したことについての怒りもあるが、それよりも切迫しているのがリズミナの件だった。
王の目配せを受けてイシュニジルが口を開く。
「つまり筆頭政務官殿はなにが言いたいのかな?」
「アンナを利用してイリシュアールに混乱を発生させた件については、個人的な感情を抜きにすれば糾弾するつもりはありません。俺たちがイリシュアールへ赴いたのも、解放軍に協力して戦ったのも自らの意思だったわけですからね。国の対外戦略がきれいごとだけではないことも知っています。しかし一つだけ許せないことがあります」
許せない。
一歩間違えれば戦争にすらなりかねないような不穏な単語。
俺は体にあざを作って逃げて来たリズミナを、泣きながら自ら命を断とうとしていたリズミナを思い浮かべた。
あれはダメだ。
絶対に許すことは出来ない。
もしあの件に王が関与していたのだとしたら。
それなりの代償は払ってもらう必要がある。
「アンナ――フェリシアーナ女王を暗殺しようとしたことです」
全員の顔に緊張が走る。
王はテーブルに両手を突いて身を乗り出した。
「なんじゃと!?」
もしかして王は知らないのか?
「そして暗殺の下手人には俺たちの警戒がゆるいリズミナを選んだ……」
「わしゃ知らんぞ!」
叫び、イシュニジルとトーリアンスを交互に見比べる王。
「あの役立たずがっ……」
思わず漏れてしまったトーリアンスのつぶやきははっきりと聞こえた。
全員の視線がトーリアンスに集まる。
「ちっ、違う! 知らない! 私は知らない! その筆頭政務官――いや魔術師の少年の妄言でしょう。誰がお前の言うことなど信じるものか! 王よ、騙されてはいけませんぞ」
失言に気付いて慌てて弁明するがもう遅い。
「そう、役立たず……と。ご推察の通りリズミナは暗殺に失敗し、俺にすべてを話してくれましたよ。証言は取ってあります」
「トーリアンス、お主なんということを……わしの命もなくそのようなこと」
「重罪ですな。軍の命令権は王にある。要人の暗殺など独断で行っていいことではない」
イシュニジルもあごに手を当ててするどい視線をトーリアンスへ向ける。
「リズミンにあんなひどい命令をして泣かせて……許せない!」
アンナも怒りをあらわにする。
「ぐぅぅぅっ……!」
トーリアンスはテーブルの上に置いた拳をブルブル震わせて顔を歪めた。
そしてはっとしたように顔を上げて叫んだ。
「証拠! 証拠がないではないか! 女の証言? そんなものがあてになるものか。金を積んで懐柔して言わせたものではないとどうやって証明する? ええっ、筆頭政務官よ」
トーリアンスは完全に冷静さを失っていた。
事実今の言葉の中にも失言があることに気付いていない。
「女……? なぜ暗殺者が女だとわかるのです? 俺は性別については言及していませんが」
「そ、それは……」
トーリアンスの狼狽っぷりは誰の目にも明らかだった。
こんな簡単なカマかけにも気付いていないほどなのだ。
リズミナは本来俺の護衛の任務に当っていた。つまりそれを任命したのが軍――トーリアンスなら性別など知っていて当たり前なのだ。
トーリアンスが気付く前にたたみかける。
「それに、こんなことで嘘をつくメリットなど俺にはありません。ヘタしたら戦争に発展しかねない。国力差で言えばイリシュアールはキリアヒーストルに及ばない。そんなリスクを取る必要がない。そしてこれが一番重要なのですが、俺はこの件を公にするつもりも、キリアヒーストルに賠償金を請求するつもりもないということです」
最後の言葉は王に向けてのもの。
トーリアンスに味方しなくてもリスクはないと伝えるためだ。
そして俺は決定的な証拠をもう一つ握っている。
これをトドメに突きつければ、トーリアンスを完璧に追い詰めることができるはずだ。
「こほん、ならば――」
王が一つ咳払い。
そのときだった。
トーリアンスは勢いよく席を蹴立てて立ち上がった。
「まだだ! 私は認めない!! 王は騙されておられる。私がこの国にしてきた貢献をお忘れか! 私の忠義をお疑いか! 私の行動はすべてこの国のため! 王のため! 見ていろ魔術師のガキ。このままでは済まさない」
そのままものすごい勢いで部屋を飛び出していってしまう。
「まずい! 軍を動かすつもりだ! 王様、いいですね?」
王は厳かにうなずいた。




