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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
五章

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外交訪問

 俺は王宮内の執務室の一室でルイニユーキと会っていた。


「外交訪問ですか……」

「ああ。ちょっとキリアヒーストルには一言言ってやらなければならない事情が出来た」


 リズミナから聞いた話ではアンナ暗殺の命令は選挙が始まる前に下されたらしい。つまり俺が国政のトップに就いたことで、ひとまずの時間稼ぎにはなると見ていいだろう。ターゲットをアンナのままにするか俺に変えるか、それとも中止になるのか向こうは考える必要がある。

 そして俺は相手に考える余裕を与えるつもりはない。

 こちらから先に動く。その一手が外交訪問だ。

 イリシュアールの元女王と筆頭政務官がそろって訪れるとなれば、暗殺どころではない。対応を協議するだけで手いっぱいになるはず。少なくともリズミナやリズミナの人質の処遇などは二の次三の次に追いやられるだろう。

 まさかキリアヒーストルも工作員一人のためにイリシュアールが動いているなどとは夢にも思わないはず。

 その隙を突いて人質を保護する。

 それが作戦だった。

 キリアヒーストルがチャンスとばかりに俺とアンナを始末しようとしたら、キリアヒーストルの風通しのいい城が今度は野ざらしになるだけだ。

 そもそも俺はキリアヒーストルとは個人的にいい関係を作れていたと思っていたんだけどな。術符の技術供与を申し出たときには英雄扱いされたし、王宮暮らしの間は国賓(こくひん)待遇だったくらいだ。

 そこが腑に落ちないと言えばそうだった。

 まあとりあえず行ってみるしかないだろう。 


「まあ我が国とキリアヒーストルは表向きは友好を保っているので問題はありませんが」


 執務机の上は大量の書類が積まれていて、ルイニユーキは書類に埋もれるように仕事をしていた。

 政務官になってからはさらに仕事量が増えたようで、俺と話をしながらもペンの動きを止めない。


「イリアとミリエは手は空いているか?」


 そこで初めてルイニユーキは手を止めて、皮肉げに口の端を上げて俺を見た。


「今手の空いている者など一人もいませんよ。こうも国内の情勢があれこれ変わっては、仕事は積み上がっていくばかりです」


 この書類の山を見ろとばかりにサッと手で示した。


「ということは……」


 しかしルイニユーキは再び書類に向き直るとつまらなそうに言った。


「構いませんよ。筆頭政務官の訪問なのですから当然護衛は必要になります。あの二人なら適任でしょう。大軍を引き連れるわけにはいきませんが、精鋭の兵を用意するべきでしょう。ひとまずは使者を送ってキリアヒーストルへ訪問の打診を行います。手配はこちらでさせていただいても?」

「ああ、任せた」

 




 使者を送ってから一週間後。訪問を歓迎する旨の返事をもらい、俺たちはキリアヒーストルの王都へとやってきていた。

 俺とアンナとエリとミリエ。あとは精鋭の兵士四十人ほど。

 まあ普通の兵士など何人いても意味はない。もしもの事態になれば俺が力を振るえばそれで済む。護衛の兵が少ないほど表向きの友好ムードを演出することにも繋がるだろう。ルイニユーキがしつこく言うので一応最低限の兵は連れてきたが。

 イリアとリズミナはキリアヒーストル北東の村ピクタラへひそかに向かっている。その村にはリズミナの妹リリアナがいるはずだ。

 リズミナの話ではリリアナは特に軍に捕らわれていたりということはないらしい。村で普通に暮らしているのだそうだ。しかしリズミナが裏切るようなことがあれば命はないという脅しを受けたという。

 俺の見立てではリリアナの身柄は重要視されていないはずだ。そしてリズミナとイリアの腕は言わずもがな。国中の注目が俺に集まっている間に上手くやってくれるはずだ。


「はー。ここがキリアヒーストルの王都かぁー。イリシュアールも立派だったけど、こっちはまたすごいね」


 エリの意見には俺も同意だ。

 人の数が多いし、なにより建物が立派だ。

 転生前のヨーロッパの観光地のような白塗りの建物群。二階建て三階建ては当たり前。歩く人々もどこかあか抜けていて華やか。


「リズミン、上手くいくといいね」


 心配そうなアンナ。


「そうだな」


 アンナとエリにはリズミナの件はすべて話してある。

 俺はその日のことを思い出していた。

 自分が暗殺の対象になっていたと知ってアンナは少しは驚いていたようだが、それがリズミナに与えられた命令だと知るやにっこりと笑ったのだ。


『リズミンがそんなことするわけないもん』


 そのときアンナは言ったのだった。

 下を向いたままアンナをまともに見れないリズミナを、アンナはやさしく抱きしめていた。

 俺たちは大通りをまっすぐ歩いて、やがて城の門の前に着く。そしてあっさりと中に迎え入れられた。

 王のいる大広間まで通されて、そこでやはり大きな歓迎を受ける。


「いやあこれはこれはフェリシアーナ女王。いや、元女王じゃったかな。そしてクリストファー筆頭政務官。まさかこの国に術符の福音をもたらしたお主がいまやイリシュアールの国主とはのう」


 にこにこと能天気な笑顔のキリアヒーストル王。

 玉座の横にはやはり宮廷魔術師イシュニジルが控える。こちらは厳しい顔つきのまま無言だ。

 そして玉座を挟んでイシュニジルの反対側には、立派な銀の鎧に真っ赤なマントを羽織る大男がいた。キリアヒーストルの軍のトップを務める大将軍だったはずだ。王宮暮らしのときに何度か目にしていた。名前はトーリアンスだったかな。


「王様もお元気そうで。この度は突然の訪問の申し出、お受けいただきありがとうございます」

「なになに。お主とは知らぬ仲でもないじゃろう。いくらイリシュアールの国主になったとはいえ、お主なら事前の確認なしに来てくれても大歓迎じゃよ」


 どういうことだ?

 王のこの喜びようは演技とは思えない。

 まるで俺がキリアヒーストルで王宮暮らしをしていたときと同じような態度だ。

 俺の後ろから兵士たちが仰々しいしつらえの箱をいくつも運んで来て、俺と王の前に積む。

 一応あいさつ代わりの贈り物。貴人用の衣服や装飾品等だ。イリシュアールの特産品は貴金属や宝石だが、さすがにそれをくれてやるのは無駄遣いが過ぎる。イリシュアールの前王キリリュエードは馬鹿馬鹿しいくらいに財を貯めこんでいたが、国庫はできるだけ国民のために使いたい。


「これは我が国からの贈り物でございます。お納めください」

「ほっほっほ。素晴らしい! 我が国とイリシュアールはこれからもよき盟友として力を合わそうぞ! お主が国主ならなおさらじゃ! じつにめでたい! のう?」


 そう言ってとなりの面々に目を向ける王。


「本当に素晴らしい贈り物の数々で」


 丁寧に頭を下げるイシュニジル。


「……」


 おや?

 トーリアンスは無言。そしてあろうことか俺をにらんだ気がした。

 が、それは一瞬のことですぐに俺に向かって頭を下げる。


「ええと、それでですね。今日は王様に重要なお話があって来たのですが」


 王は片眉を跳ね上げた。


「せっかちじゃな。外交の話なら食事の後でにも……それともなにか、火急の要件かのう?」

「ええ、それはもう。できれば人払いをお願いしたいのですが」


 俺は真剣にうなずいた。

 これに声を上げたのはトーリアンスだ。


「ダメだ。王に万が一があってはならぬ。筆頭政務官殿は魔術師。ならばその気になれば……」


 そう言ってトーリアンスは大広間の横壁に目を向ける。そこには以前俺が空けた大穴がぽっかりと口を開けていた。こんなに巨大な穴が開いた城は大陸中を探しても見つからないだろう。トーリアンスはあの場にはいなかったが事情は知っているらしい。


「これ、トーリアンス。そうじゃな……では部屋を移そう。イシュニジルとトーリアンスも同席するが、構わんかね?」

「お願いします」


 苦い顔を崩さないままだがこれにはトーリアンスも口を挟まない。

 俺としても大勢に聞かせるつもりの話ではない。その提案は都合がよかった。

 王と二人きりというのは現実的ではないからそれで十分だ。

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