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44 委員長と副委員長

すみません、43にこたろー視点を割り込み投稿しました!

すでにお読み下さった皆様、本当にすみません><

飛ばしても影響はありませんが、お時間のある時にちょろりと目を通して頂ければと思います!

お手数をおかけして、本当に申し訳ございません。


ぼんやりと、窓の外を眺める。

冬の空はどこか冷たく、それが今の自分には調度いい。



茅乃さんに会ったあの日から、意識的にこたろーちゃんを避けていた。

毎日の図書室通いも当番の日以外はやめ、中学の頃によく通っていた公立図書館に変えた。

それは別に理由があったからだけれど、目の前の女子高生には通じないだろう。

一つ溜息をついて、半目で見遣った。


「河田副委員長。いい加減、家に帰ったらどう?」

「そうね。三嶋図書委員長が一緒ならば」

さっきから、この繰り返し。私は小さく息を吐き出すと、開いていた参考書を閉じた。

「うん、分かった。私帰るから、佳苗も帰ろう?」

「途中で、お茶のみたい」

「……もう、好きにしなよ」

思わず苦笑すると、なぜか嬉しそうに大きく頷いて椅子から立ち上がる。


「比奈は笑ってるのが、いいと思う」

そう小声で言うと、私の鞄まで手に取って歩き出してしまった。

「ちょっ、ちょっと佳苗!」

佳苗の言葉に何か言おうと思ったのもつかの間、手元に残る参考書を慌てて纏めると佳苗の後を追った。








公立図書館にほど近いコーヒーショップに、佳苗と一緒に入る。

すでに会社帰りの人達もいるだろうにここは閑散としていて、経営は大丈夫なのだろうかと余計な心配をしてしまいそうになってしまう。

けれど私達にとってそれはいつもの事で、勝手知ったる場所なだけに各々勝手に飲み物を頼んで店内の一番奥、窓際の席を目指す佳苗の後に続いた。


「いいよねー、ここ。いっつも人いない」

ココアをおいしそうに一口飲んで、佳苗は悪気なく笑った。

「ちょっ、そんな事言わないの! さすがに悪いでしょ、分かってるだろうこととはいえ」

「んにゃ、比奈の方がきつい事言ってる」

慌てて佳苗を窘めたつもりが、確かに傷を抉る様な事を言ってしまった気がする。

思わず店内に目を走らせるけれど、周りには店員さんはおろかお客さんさえいない。

殆どが出入り口に近い場所に座る為、奥に行けばいく程閑散としているのだ。

分かっててここに陣取る私達も、あれだけど。


一通り様子を窺ってから、誰も聞いていない事に安堵して手元のカフェオレボウルを両手で包んだ。

それは冷えた指先を温めるのに、充分な存在だった。

「あったかい」

一人呟いて、ボウルを持ち上げる。

こくりと口に含めば、体中に沁み渡るような感覚。

ほぅ、と息をついた。


「で、佳苗。何?」

一息ついたところで、同じようにココアを堪能している佳苗に声を掛けた。

美味しそうに目を細めていた佳苗は、カップに口をつけたまま視線だけこちらに向ける。

その眼が少し座ってるように見えて、眉を顰めた。

「佳苗?」

そんな私を見遣って、佳苗はカップをテーブルに置く。

けれどその次に出てきた言葉は、物凄い破壊力抜群だった。

「あのさ。比奈は梶原先生の事、好きなんでしょ?」

「……っ」

思わずどくりと鼓動が跳ねる。

「な、何言って」

「だから、へたれのこたろーちゃん、あんなんだけど好きなんでしょ?」

頭から血が引いていくのが分かる。

目を見開いて佳苗を凝視する私は、周りから見ても雰囲気のおかしい人だっただろう。

それほど、驚いたのだ。


今までこたろーちゃんとの事を茶化された事はあっても、真剣に好きかどうかを聞かれた事がなかったのだから。

佳苗は、私の答えを待つようにじっとこちらを見ている。

何か答えなきゃ……、それだけが脳裏をぐるぐると回った。


「……こたろーちゃんは、ただの幼馴染だよ」

動揺したせいで、愛称で呼んでいるけれどその時の私は全く気付かなかった。

佳苗は私の言葉を聞くと、ふぅん、と呟く。


「幼馴染が同級生だった女を連れてたくらいで、自分の身についた習慣を投げ出しちゃうくらい、比奈ってば面倒な女だったわけ?」


その言葉に、余計動揺が隠せなくなる。

「それは、そんな事はっ! だって……っ」

「ただの、同級生でしょ」




”本当に、ひな、ね”



本当に脳裏を掠める、あの人の声。




「ちがっ、あの人は……っ」

ただの同級生なんかじゃない!

そう続けようとして、奥歯を噛み締めた。

浮かした腰を、椅子に戻す。

余計な事は、口にしたくない。

茅野さんの事は……


動揺する私を、佳苗は真面目な顔でじっと見つめている。

「違うって何?」

「……」

「ねぇ、比奈。かやのさんは、梶原先生の元カノって事?」

「……っ」

無表情を装うつもりだったのに、無意識下には私のコントロールなんて届かない。

”元カノ”に反応して肩を揺らしてしまった。


「ただの幼馴染の梶原先生が元カノ連れてきたくらいで、なんで比奈が動揺して逃げるの?」

「逃げて、なんか……」

「逃げてるわよ、どう見ても。私から見れば、梶原先生は踏み潰したくなるくらい生粋のへたれだけど、比奈はほっぺた抓って伸ばしたくなるくらいはへたれだわ」


そこまで言い切ってから、佳苗は指先で私の頬をむにっと抓った。


「何をそんなに悩んでるの? ほりゃ、言葉にして吐き出してみなよ」

「悩んでなんか」

「そんな分かりやすく悩んどいて、何言ってんのよ。こういう時の為にいるのよ? 副委員長さまは」

その言葉に、思わず噴き出した。

「副委員長は関係ないじゃない」

「何言ってんのよ、委員長。委員長と副委員長は、一心同体が不可欠! これ常識でしょう」


語尾に音符が付きそうなくらい柔らかなその口調に、思わず強張った体から力が抜けた。


「そんなのが常識だったら、気持ち悪いよ」


そういいながら、視界がゆっくりとぼやけていく。



辛い事は我慢できても。

悲しい事は我慢できても。



優しさは、ダイレクトに感情に響くなんて、今まで気づかなかったよ。

河田副委員長さま。

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