第16話 私のカメラマンやりませんか?
「ねえ、蓮君……これ、参加しない?」
花火が何か悪い考えを思いついたように、そう言った。
「さ、参加?! ……花火、興味があるのか?」
花火もこういうのはあまり好まないイメージだったのだが……。
まさか、興味を示してくるとは。
「興味があるというか……この大会、上手く利用できそうじゃない?」
「利用?」
「うん……例えば私たちを狙ってくる奴を誘き寄せる……とかね?」
花火は悪い笑みを浮かべて、そう言った。
「私たちの命を狙うには、探索者バトアリは絶好の機会だと思うんだよね」
なるほど……確かに理には叶っているのか?
「でも、そんな都合よく現れるか? それに、探索者バトアリは特殊な道具によって、傷を負わないようになっていたはずだ……俺たちの命を狙うには少し不都合じゃないか?」
探索者バトアリが成立している理由は、その特殊な道具にあった。
受けた攻撃は傷にならずに、ポイントとして加算される。そのポイントが一定以上に達すると、強制脱落。
つまり、誰も傷を負わない・死なない大会なのだ。
「でも、ロックゴーレムを改造してくるような奴らだよ? 上手いことして道具を無効化して、私たちを殺そうとしてくるかもしれないじゃん!」
「それは……そうだけど」
何だか、いい感じに言いくるめられているような……?
すると、花火の目線がチケットの一点に集中していることに気づく。
視線を追うと、そこには『優勝賞品:アーティファクト』と書かれていた。
アーティファクトとは、ダンジョンの宝箱から極めて低い確率で発見される超希少な武器や防具、アイテムだ。
超希少なだけあって、その性能は途轍もなく……アーティファクトを手に入れることは全探索者の夢といっても過言ではなかった。
ちなみに、俺たちはアーティファクトを一つも持っていない。
「もしかして……優勝賞品のアーティファクトが欲しいのか?」
「ぎ、ギクっ?! ち、違うよ? ……で、でもアーティファクトがあれば私たちはもっと強くなれるじゃん?」
「まあ……そうだけど……」
「つまり! 探索者バトアリに参加すれば、敵を誘き寄せられるし、アーティファクトで戦闘力増加も見込めるし、一石二鳥ってわけだよ!」
花火は自信満々にそう言った。
「どうして、俺たちが優勝する前提なんだ……?」
その謎の自信は一体、どこから……?
すると、唯が苦笑いしながら口を開く。
「でも、お二人なら優勝できちゃう気がします……今日の配信、見てましたよ。SS級モンスターを瞬殺できる探索者なんて日本中……いや、世界中探しても中々居ないと思いますし……」
「お二人なら?」
さっきから気になっていたのだが、『私たち』とか、『お二人』とか……どういう意味だ?
個人戦じゃないのか?
「知らないんですか? 探索者バトアリはパーティ同士の戦いです」
「そ、そうなのか?! ……じゃあ、2人しか居ない俺たちってだいぶ不利なんじゃ……?」
「大丈夫大丈夫! 私と蓮君なら相手が10人でも1000人でも変わらんないって!」
うん、だからその謎の自信は何なんだ……?
「……探索者バトアリについてもう少し具体的に説明してもらってもいいか? 俺は噂では聞いたことはあるけど、あんまり詳しい中身を知らなくてな……」
「わかりました……まず、参加者は例年通りであれば500パーティ程です。その中で、まず予選を行います。それで――」
唯の話によると、予選ではパーティ同士が直接戦うわけではなく、一定期間の間にどれだけモンスターを倒したかで順位がつけられる。
その上位50チームが本戦に行く。
本戦はトーナメント形式で、パーティ同士の直接対決によって、1位から3位が決められるらしい。
「――どうです? 参加しますか?」
俺は顎に手を当てて、しばらく考える。
花火に触発されたのか、探索者バトアリに参加するのも悪くない気がしていたのだ。
「……そうだな、参加してみるのもアリかもな」
「よし! そう来なくっちゃね! それでこそ蓮君だよ!」
俺の肩に腕を回してくる花火。
ちょっと……? ち、近いんですけど……!
「ちょ、ちょっと……! 蓮さんが嫌がってますよ? 離してあげたらどうですか」
「これくらい、私たちにとっては、よくやってる軽いボディタッチだよ?」
「っ……!? そ、そんな……」
唯は驚愕で目を見開く。
いや、俺が一方的にボディタッチされてるだけだけどね?
「それどころか、もっと凄いことだってしたことあるんだから! 例えば……き、キスとか……?」
顔を赤らめながら、そう言う花火。
キス……? もしかして、昔、俺が大怪我を負った時に花火が口移しでポーションを飲ませてきた時のことか?
「っ……?! う、嘘ですよね? まさかそんなこと……」
「本当だよ? ……ね? 蓮君」
「まあ……本当と言えば本当だけど……」
「そ、そんな……」
唯は絶望で顔を曇らせる。
本当だけど、あれをキスと言うのは少し意地悪なような……?
「……もう、こうなったら無理矢理、既成事実でも作るしか……」
あのー? 内容はよく聞こえないけど、物騒なことを言っている気がするんですけどー?
すると、唯は何かを決意したように勢いよく顔を上げ――
「蓮さん……私のカメラマンやりませんか? こんな人よりも丁寧だし、振り回したりしませんよ? 勿論、今以上の報酬は約束します」
爆弾を投下した。
「へ?」
「活動範囲は上層や中層ですから、怪我する可能性は皆無と言ってもいいでしょう……どうです? 悪くない提案だと思いますよ?」
「――ちょ、ちょっと待って! 蓮君は私のカメラマンなんだけど?!」
花火は焦った様子で机に身を乗り出すと――
「でも、花火さんは蓮さんを振り回しますし……この前、花火さんの不注意で怪我させてましたよね?」
負けじと、唯も机に身を乗り出す。
「うッ……で、でもぉ、蓮君はずっと私のカメラマンだったわけだし……」
「関係ないです! 会社員が待遇のいい会社に転職するのと同じように、蓮さんにも誰のカメラマンになるのか、選ぶ権利があります!」
2人はしばらくの間、睨み合うと――
「|蓮さんはどっちがいいんですか!?《蓮君はどっちがいいの?!》」
「へ?」
SS級を瞬殺するけど人使いの荒い花火と、丁寧に扱ってくれる上に今までと変わらない報酬を出してくれる唯……。
普通に考えれば唯の提案の方がいいのだろうな。
しかし、俺の答えは変わらなかった。
「……唯が俺の能力を買ってくれるのは、凄く嬉しいけど……やっぱり、俺は花火のカメラマンをするよ」
「っ?! ……ど、どうして……」
「唯の提案の方が待遇は良いんだと思う……けど、花火にはここまで鍛えてもらった恩もあるからな」
それに、要らなくなったからさようなら……なんて、俺が花火の立場だとしたら、きっと凄く悲しいし、寂しいだろうからな。
「蓮君……! 信じてたよ!」
花火は目をうるうるとさせ、俺に抱きついてくる。
お、おい?! この野郎……!
「流石に、耐えられなくなったら俺も逃げ出すからな?」
「うん……わかった!」
そう言って、さらに腕の力を強める花火。
本当にわかってるのか?!
すると、それを見ていた唯は机に身を乗り出し、真剣な眼差しで――
「……私、諦めませんから! いつか絶対に……振り向かせて見せますから!」
唯はそう宣言してきた。
能力を買ってくれるのは嬉しいけど……マジでどうなってるんだよ……!




