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超美少女こんぷれっくす♡ゼロ  作者: うと
こんぷれっくす
5/5

ゼロ

はじまりなんて、大したものじゃなかった。

ただ、家が隣だった。

それだけだ。

俺の両親がまだ普通だった幼い頃、親同士が顔見知りで、ついでみたいに紹介されて、気づけば同じ場所にいることが増えていた。

それだけの関係。

それ以上でも、それ以下でもない。

「こんにちは」

最初に声をかけてきたのは、彼女の方だった。

小さくて、整った顔で、きちんと頭を下げる。

どこに出しても恥ずかしくない、いい子の見本みたいな挨拶。

それを見て、親たちは満足そうに頷いていた。


「ほんとにいい子ねぇ」


「優しくて、手がかからないのよ」


そんな声が、あたりまえみたいに飛び交う。

彼女は、それに対して、にこにこと笑っていた。

幼いくせに、作り物みたいな笑顔で。

「……ふーん」

オレは、適当に相槌を打った。

別に、興味はなかった。

隣に住んでるから関わる。

それだけだ。

それ以上、なにかを思う理由もなかった。

__はずだった。

なのに。

どうしてか、視線が引っかかる。

彼女の、目。

笑っているはずなのに。

そこだけ、妙に冷たかった。

誰も、映っていないみたいな目。

底が、空っぽみたいな。

ぞくり、とした。

理由はわからない。

ただ、見てはいけないものを見た気がして、反射的に視線を逸らした。

「どうしたの?」

すぐ隣で、声がする。

いつの間にか、彼女がこっちを見ていた。

笑っている。

ちゃんと、いつも通りに。

「別に」

短く返す。

それ以上、会話を続ける気はなかった。

関わりたくない。

そう思った。

理由なんて、うまく説明できないけど。

とにかく、嫌だった。

胸の奥に、べったりとした何かが貼り付くみたいな感覚。

それが、どうしても気持ち悪くて。

「ねえ、一緒に遊ぼうよ」

「やだ」

即答だった。

少し間があってもよかったのに、考えるより先に口が動いていた。

自分でも、ちょっと驚くくらいの拒絶だった。

でも。

「そっか」

彼女は、まったく気にした様子もなく頷いた。

笑ったまま。

傷ついた顔ひとつしない。

普通の子供なら、少しくらい表情が曇るはずなのに。

なにも変わらない。

そのことが、逆に引っかかる。

「……なんだよ」

思わず、口が悪くなる。

「なんでそんな平気なんだよ」

「なにが?」

「……全部だよ」

うまく言葉にならない。

でも、苛立ちだけが先に溢れる。

こいつは、なにも感じてないみたいで。

なにも考えてないみたいで。

それなのに、なんでもできる。

大人に褒められて、期待されて。

その全部を、軽く受け止めてるみたいに見えて。

__反吐が出る。

心の奥で、そう思った。

たぶん、嫌いだったんだ。

最初から。

「……気持ち悪いんだよ」

口に出していた。

「お前さ、なんでもできるくせに、興味なさそうで……なんか、むかつく」

言ってから、少しだけ間が空く。

さすがに、言い過ぎたかもしれないと思った。


「ふふ」


彼女は、笑った。

やっぱり、同じ顔で。


「そっか」


それだけ。

怒りもしない。

悲しみもしない。

ただ、受け流すみたいに。

なかったことにするみたいに。

その態度が、余計に苛立つ。

「なんで笑ってんだよ」

「だって」

彼女は、少しだけ首を傾げた。

考えるふりみたいに。

でも、その目はやっぱり空っぽで。

「キミ、面白いこと言うから」

「……は?」

意味がわからない。

どこが面白いんだ。

ただの悪口だろ。

普通、怒るところだろ。

なのに。

こいつは、なにも感じてないみたいに笑う。

不気味だった。

可愛げなんて、どこにもない。

ただ、形だけ整った人形みたいで。

そこにいるのに、いないみたいで。

ぞわぞわと、背中を這う感覚が消えない。

関わるべきじゃない。

そう思った。

これ以上、近づいたらだめだと。

はっきりと、そう思ったのに。

足は動かなかった。

視線も、逸らせなかった。

どうしてか、目が離せなかった。

理由なんて、わからない。

ただ。

あの日、土はまだ湿っていた。

昨日の雨の名残で、踏むたびに靴が沈む。ぐに、と嫌な音を立てるその感触が、なぜか耳に残った。

オレは、ただ帰るだけのつもりだった。

いつも通り、誰とも話さず、遠回りして、静かな道を選んで。

なのに____


体が勝手に向かっていた。彼女のいる公園へと。

行くな。関わるな。そう頭ではわかっていた。わかっていたのに。人間の好奇心というのは厄介だと、子供ながらにそう思った。


鼻をついたのは、土の匂いじゃなかった。

もっと、重たい、鉄みたいな匂い。

足が止まる。

見たくない、と思った。

でも、視線が勝手に引き寄せられる。

木の陰。

しゃがみこんだ、小さな背中。

「……なに、してるんだよ」

気づけば、声が出ていた。

掠れていて、自分でも驚くくらい弱い声だった。

その背中が、ぴくりと動く。

ゆっくりと、振り返る。

「あ」

彼女だった。

いつも通りの顔。

いつも通りの、笑顔。

「見つかっちゃった」

そう言って、くすっと笑う。

その無邪気さが、逆におかしい。



だって。



その手は。



__爪の間まで、赤く染まっていた。

乾ききっていないそれが、指先からぽたりと落ちて、土に染みていく。

 

視線が、勝手に下に落ちる。

そこにあったのは、猫だった。

……いや、猫だったもの。

形が崩れている。

毛が、血で固まっている。

どこからが体で、どこが違うのか、わからないくらいに。


ぐちゃぐちゃで。


壊れていて。


なのに、まだ、さっきまで生きていたような温度が残っている気がして。

「かわいそうだから」

彼女が、平然と口を開く。

「埋めてあげようと思ってたの」

その声は、優しかった。

本当に、優しいことを言っているみたいに。

でも。

オレの喉が、ひくつく。

「それ……」

言葉が、出てこない。

なにを言えばいいのかわからない。

目の前の光景と、彼女の言葉が、噛み合わない。

頭の中で、うまく処理できない。

「ねぇ」

立ち上がり、



彼女が近づいて来る



一歩。

土を踏む音が、やけに大きく聞こえた。

「そんな顔しないでよ」

笑っている。笑いながら、



彼女が近づいて来る。



ずっと、笑っている。

オレのほうへ、手を伸ばしてくる。



彼女が近づいて来る。



その手。

赤い。

生温かそうで。

べっとりとした何かが、指先にまとわりついている。

___やめろ。

近づくな。

そう思った瞬間。

頭の奥で、なにかが弾けた。

ぱちん、と。

細い糸が切れるみたいな音がした気がした。

次の瞬間、体が動いていた。

「……っ」

気づけば、彼女を押し倒していた。

背中が地面にぶつかる音。

彼女の髪に、土がつく。


オレは震える手で彼女の首に手をかけた。


_汚れがない。

さっきまで血にまみれた光景を見ていたはずなのに、彼女の首だけは、不思議なくらい透き通っていた。

ほんのりと頬だけが淡く色づいていて、それが余計に白さを際立たせている。

触れた指先に伝わるのは、驚くほどなめらかな感触。

壊れ物みたいに繊細で、少し力を込めれば、簡単に折れてしまいそうな細さ。

脈が、かすかに触れる。

生きている証みたいに、弱く、確かにそこにある。

その頼りなさに、逆に目が離せなくなる。

掴める。

ここにある。

逃げられない。

ぐ、と力が入る。

なんで、こんなことしてる。

頭ではわかっているのに、手が止まらない。

息が、荒くなる。

視界が狭くなる。

彼女を見る。

普通なら。

怖がるはずだ。

泣くはずだ。

抵抗するはずだ。

なのに。

「……ふふ」

彼女は、笑った。

喉を押さえられているのに。

息が苦しいはずなのに。

楽しそうに。


「キミも」


かすれた声。

でも、はっきりと聞こえる。


「一緒だね。」


その一言が、頭の奥に落ちる。

鈍く、重く。

逃げ場もなく。

オレの手が、ぴたりと止まる。

視線が、彼女の目に吸い寄せられる。

その瞳の中。

そこに映っていたのは。

さっきまでのオレじゃなかった。

ぐちゃぐちゃの猫を見て、動揺していたはずのオレじゃない。

同じだった。

同じものが、そこにあった。

壊れている何か。

歪んでいる何か。

それを、彼女は見ていた。

最初から、ずっと。

「ね?」

彼女の指が、オレの手に触れる。

首を締めている、その手に。

優しく、なぞるように。

まるで、肯定するみたいに。

ぞわりと、背筋が粟立つ。

違う。

違うはずだ。

オレは、こんなのじゃない。

こんなこと、したくてしてるわけじゃない。

なのに。

指先に残る感触が、やけにリアルで。


離せない。


離したくない、みたいに。

思ってしまう。

「……っ」

息が詰まる。

胸が苦しい。

さっきまでとは、違う意味で。

なにかが、内側から溢れてくる。

見たくなかったもの。

気づかないフリをしていたもの。

それが、形を持って、そこにある。

彼女と同じ。

その事実が、じわじわと広がっていく。

逃げ場なんて、どこにもないみたいに。



俺はずっと前から


始まる前の話。

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