アースの許した世界。
倫は、眠れなかった。
いや、眠らなかった。
一晩中、静かに泣いたり、
笑ったり、
腕の中で眠る玲夢の寝顔を見ていた。
テントに朝日があたり、
朝を告げる。
玲夢がゆっくりと目をあけた。
「おはよ、玲夢。」
「ぐすん。ぐすん。
倫・・・。私を一人にしないでくれ・・・。嫌だ!何故お前なのだ!
何故・・・。」
「昨日いっぱい話しただろ?
俺はいつもお前のそばにいるって思え。
ちゃんと幸せに生きて欲しい。」
「わぁーん!り〜ん!」
二人は、強く、強く抱きしめあった。
しばらくそうしていた。
出発の時間が迫る。
倫は起き上がり、テントをしまう。
「いくぞ玲夢。」
「・・・わかった。」
二人は昨日の場所へ歩いて向かった。
「倫、おはよ!
お前、ひどい顔してるぞ!」
翔太はわざと明るく演じる。
「翔太、大体わかってるよな?
今日までありがとう。」
「・・・本当に、いいのか?」
「あぁ。もう決めたから。」
「倫、すまない。私がエンペラーを摂取できてさえいれば、君にこんな・・・」
「白夜、これは運命。いや、アースの描いた世界。あらがいようは無い。
いくぞ。」
「わかった。」
白夜は、覇気なく答えた。
ザァー。
木々が風に揺れている。
神社の鳥居をくぐると、
空気が一変した。
神聖な、どこか荒々しい感覚が倫達を、包み込む。
倫達は、ほこらへ進み、
祭壇の前に立った。
ゴーっ!!
祭壇は倫達を招き入れる様に、
自ら動いた。
倫達は、祭壇の後ろの通路を進み、
開けた空間に出た。
そこはまるで別世界の様だ。
円形の広間。
岩の壁が周囲を囲い、
見上げれば、
数十メートル先に空が見えた。
「倫、恐らくアースが言っていたのは、
あの石だ。」
玲夢は、青い大きな石を指さした。
「やぁ!良く来たね。」
「誰だ!?」
翔太が叫び、辺りを見回した。
「僕はアース。
君たちに与えた能力を介して、話しかけているよ。
ここは、僕の力が最もおよぶ場所。
エンペラーと無限メモリー以外の能力者も、僕の声、聞こえてるよね〜。
エンペラーが能力を消滅させる前に、
君達に伝える事がある。
良く聞いて。
これから、エンペラーの命と引き換えに、全ての能力は無に帰る。
でも、僕にとって、薬を作るのは簡単なんだ。薬はいつでも作る事ができる。
エンペラーの命と引き換えに、ながらえた世界を、豊かにするのも、終わりにするのも、君達次第。
エンペラーが能力を無効化したら、
僕は、西園寺白夜が、この国の代表者となるように仕向けるよ。
君達は、協力しあい、僕が消したいと思わない人類になれるようにがんばって。
でないと、また薬を作るよ。
僕は、エンペラーの命で、
人類の全てを一度許すよ。
頑張ってね〜。」
アースの気配が消えた。
「白夜、大変だな。
後は、頼むぞ。」
倫は、白夜の肩を叩くと、
青い石に対峙した。
「うっ、うっ。」
倫の後ろでは、玲夢が声を殺して泣いている。
倫はもう一度振り返り、玲夢を抱きしめた。
「幸せになれよ。」
倫は、玲夢の頭をなでた。
「・・・ゔん。」
「さぁ!終わらせるぞ!」
倫は青い石の前に膝をつき、
手を触れた。
目を閉じて、青い石へ意識を集中する。
「・・・。」
バタン。
倫は、安らかな顔で、地面に倒れた。
「り〜ん〜!」
玲夢は、倫に駆け寄り、抱き寄せる。
「終わったよ。倫。起きて。
お願い。私を一人にしないでー!
ほら!記憶も戻ったんだよ。
ちゃんと倫の事、大好きだよ。
私の記憶が戻ったら、一緒に帰って、
続きするんでしょ?
・・・起きてよ。
バカ。バカ。バカ。バカ!
うぇ〜ん!」
玲夢は倫の胸に顔を押し付けて、
泣き叫ぶ。
周りでは、白夜や翔太、兵士達も涙を流している。
どれくらい時間が立っただろうか。
玲夢は、倫の胸の上で、静かになった。
玲夢は、違和感を感じ体を起こした。
「あれ?なんで?」
麗央が近づき、玲夢の肩を抱き寄せる。
「玲夢。」
言葉がでなかった。
「麗央。倫のね、倫の心臓・・・動いてるの。動いてる!」
麗央は、玲夢がおかしくなったと思い、
涙を流しながら、抱きしめた。
「玲夢、倫は死んだんだ。死んだんだ!」
「違う。違うの!ホントに心臓が動いてるの。」
玲夢は、倫の胸に、麗央の掌をあてた。
ドクドクドクドク。
「・・・うっ、動いてる!動いてるぞ!」
麗央は嬉しそうに叫んだ。
座り込んでいた兵士達も、
立ち上がり、歓喜の声をあげる。
「おー!」
その場にいた全ての人の悲しい涙は、
一瞬で、嬉し涙に変わった。
玲夢は、優しく倫を揺さぶり声をかける。
「倫、倫。起きて。」
倫は、ゆっくりと目を開き、起きがった。
「りんー!」
玲夢は、倫を力いっぱい抱きしめた。
「ゲホッゲホッゲホッ。苦しいって。」
玲夢は、驚いた様子で、離れる。
「ごめん。大丈夫?」
「大丈夫だ。」
倫は、玲夢を抱き寄せた。
「やっぱりな。俺生きてたな。」
「やっぱりって?なんで?なんで生きてるの?」
「俺、火の四天王に心臓貫かれて、
死んでる状態を、疑似心臓でしのいで生きてたからさ、もしかしたら、生死逆転したら、普通に生き返るって、少しだけ期待してたんだよ。」
「言ってよ!バカ!バカ、バカ、バカ!」
玲夢は、倫の腕の中で、何度も倫の胸を叩いた。
「玲夢、エンペラーのおかげで気にならなかったんだけど、お前結構力強いのな。加減して。」
「バカ。」
玲夢は、嬉しそうに、頬を膨らませた。
「玲夢、ごめんな。
お前に秘密にしてたのは、変な期待させて、ホントに死んじゃったら余計に苦しませると思ったんだよ。」
「倫・・・生きててくれてありがとう。」
「あぁ。これから二人で平凡で幸せな毎日を過ごそうな。」
「うん!」
「所で、記憶が戻ると口調も変わるんだな。」
「前の方が良かった?」
「いや。今の方が更に可愛いよ。」
「もぅ!」
玲夢は、顔を赤らめる。
「ゔ、うん。」
白夜が咳払いをする。
「二人とも、続きは帰ってからしてもらえるかな?」
「あっ、すまん。二人の世界だったわ。」
「倫、良かったね。
これで、僕達は、心置きなくこの世界と戦える。おっと、争いごとは無しでね。
必ず、良い世界にして見せるよ。
倫、見ていてね。」
白夜は、決意に満ちた表情で、倫に言った。
「そうだな、次は白夜の番だ。
たのんだぞ!」
倫達は、広間から出ようと歩き出した。
「アハハハ」
とアースの嬉しそうな笑い声が聞こえた気がした。
この後すぐ、日本の情勢は変わり始める。
薬の事が公になり、日本のトップ達は次々と辞任に追い込まれ、
薬を消滅させた白夜を中心に新しい政府がつくられた。
白夜の政治力は、目を見張る物があり、
各国首脳とも対等に渡り合い、
争いごと無しに、地球を平和へと導いていく。
数年の月日が流れた。
白夜のそばには、翔太と麗央がいた。
翔太の猛烈な求愛に、麗央は負けた。
今では夫婦で白夜を支える、
この国に欠かせない人物となっていた。
そして、倫所有の山では。
「りーん!お昼ご飯できたよー!」
倫は、畑の作物の間から顔を出し、
玲夢に手をふる。
「ありがとう!すぐ行くー!」
倫は額の汗を首にかけたタオルで拭いた。
エンペラーの力で建てたログハウスは、
能力無しで、倫がカスタマイズした。
リビングからウッドデッキに出た倫は、
ベンチに座る。
座るのは、いつも玲夢の隣り。
倫と玲夢は、向かい合わせには座らない。
少しでも長い時間、隣りにいたいから。
一度、離れ離れになる事を決意した二人は、どんな困難があっても、もう離れない。
毎日そう思って、
1日を大切に生きている。
「完」




