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48話 城への帰還

 


「こおら暴れないのアフィーリア嬢」

「いーやー!!お城に戻るのは嫌ぁあああああああ!!」

「我輩が来たからには、もう観念しておくれ」

「シルヴァ公爵の嘘吐き!最初から私をお城に連れ戻す気だったんじゃない!」

「はーいはい。もう諦めなさい」



 今現在、私はレオンハルト団長に抱えられ、二週間の家出ライフの終わりを告げられた。レオンハルト団長が現れた瞬間から逃走を図ろうとした私は、呆気なく捕まってこうしてレオンハルト団長に抱えられている。話を聞くと、シルヴァ公爵はベルベットと私を見つけた後一度城に戻って、今日の夜“月の涙(ルナ・ティア)”採取の為に“エデンの森”へ行く旨を知らせていたらしい。“月の涙”を採取してから、城に戻るか戻らないかを考えたらいいと言ったのは何処の誰よ!



「怒らないのアフィーリア嬢。シャルル殿も魔王を支える公爵。アフィーリア嬢の気持ちを理解していても、公爵として役割は果たさないとならない。知っていて報せなかったら、逆にシルヴァ家がアフィーリア嬢の家出に手を貸したとしてロゼが罰していた可能性だってある」

「そ、そんな、ベルベットもシルヴァ公爵も関係ないのに」

「関係なくても、それをやるのがロゼだ。諦めて素直にロゼに怒られなさい」

「……!」



 父様のお説教……!?お説教で済むの!?


 私を抱えるレオンハルト団長の腕に噛み付いた。思い切り。……うん?効いてない?もう一度ガブリと噛み付くも反応がない。何で?と疑問に感じると頭上から声が振ってきた。



「我輩も鬼じゃない。大人しく城に戻ってくれるなら、ある程度の弁護はしてあげよう。だが……反抗的だとロゼにどんな嘘を吹き込むか分からんが?」

「う、嘘……?」

「うん。嘘」

「ど、どんな……?」

「うん?知りたい?」

「……いいです」



 笑顔が素敵過ぎる場合の魔族は、大抵碌なのがいない。レオンハルト団長みたいに、怒らせたらどんなしっぺ返しが来るか想定出来ない相手は特に。


 レオンハルト団長は私を抱えたまま、シルヴァ公爵へ振り向いた。



「では、シャルル殿。我輩は子供達を連れて城へ戻る」

「うむ。ベティはどうする?」

「おれ?そうだね……」



 ベルベットの紫水晶が私を見上げた。



「フィー。“月の涙”が完成したら、届けに行くよ」

「本当?ありがとうベルベット。あ、そうだ」



 動き辛い腕をどうにか動かして自由にし、“月の涙”を三輪摘んでもらう。フィロメーノに貰ったのは、ワイバーンや天使の大軍の登場のせいで何処かへと落としてしまってない。一輪だけだったのを三輪にしたのは渡す相手が増えたから。ベルベットから三輪の“月の涙”を受け取った。



「ありがとう」

「いいけど、どうするの?それ」

「お城に戻ったら、父様や母様、それにアイリーンにあげようと思って」

「アイリーン嬢はもう寝ているから、明日になるな」

「……父様が寝ている、なんてのは」

「無駄な希望を抱くのはやめなさい。今日の夜中、城に連れ戻すと話してあるから寝ている事は絶対にない」

「はい……」



 ガックリと抱えられたまま項垂れる。もう父様の予想不可能なお説教を受ける以外道は残されていない。


 でも、待ってと私は顔を上げてネフィ達にハイネがいないと疑問をぶつけた。アイリーンと同じでもう寝てるって可能性もある。それなら、ネフィやソラ、アシェリーがいるのが疑問でならない。



「ハイネはアイリーンのお守りだよ」

「アフィーリアがいなくなってから、ずっと泣いてばかりだからねえアイリーンは」

「ユーリも部屋に籠ってばかりで外に出たがらない。……筈だと思ってハイネは声を掛けなかったけど、掛けなくて正解だな。ユーリまでいないってなったら、余計混乱してただろうし」

「う……それは……。……ゴメン」



 夢の世界でネフィも言っていたし、再会したユーリも言っていた。私がいなくなってアイリーンはずっと泣いているって。どうしようもないお姉ちゃんだ私は。アイリーンの為の行動が全てアイリーンや周囲の人を混乱させ、悲しませている。


 でも、と心の声が口に出てしまった。



「いっその事、私がいない間だけでも私を思い出さなくしたら良かったのに」



 唐突な沈黙が訪れる。皆、そしてレオンハルト団長までもが信じられないものを見るような目で私を見てくる。


 や、やっちゃった。


 どうして、こう、私の口は余計な事を口走ってしまうのか。



「……ぼく、なーんにも聞いてない」



 先に我に返ったアシェリーが耳を塞いだ。ネフィとソラも、アシェリーと同じ台詞を発して耳を塞いだ。ユーリに関しては脱力して肩を落とし、レオンハルト団長も深い溜め息を吐いた。



「やれやれ……アイリーン嬢を連れて来なくて正解だった。アフィーリア嬢。ロゼには弁護も何もしない。ぎっちり怒られなさい」

「ええ!?」

「ええ、じゃない。じゃあ、帰るよお」



 待って!さっきは弁護してくれるって言ったのに!私の口のうっかりさはどうにかならないの!?口は災いの元と昔の人はよく言うけど正にその通りだよ!


 やっぱり帰りたくないと暴れだしてもレオンハルト団長に抱えられている腕に力を込められ、黙るしかなくなった。歪んだ空間へ足を踏み入れた先は、見慣れた魔王城内。……とうとう帰って来てしまった。家出ライフはたった二週間で終わった。短かった。


 レオンハルト団長に降ろされるも手を握られる。アシェリー達も続々と空間に入って城へと戻る。ユーリが最後に戻ると空間が閉ざされた。ベルベットとシルヴァ公爵が戻ってない。レオンハルト団長を見上げると必要ないと告げられる。



「シャルル殿とベルベットはシルヴァ家へ戻る」

「レオンハルト団長。アンデルの村の人達にお別れを言ってない。あと、一緒にいたタヌキ達がいない」

「それはロゼ次第だが可能性は限りなく低いと思いなさい。タヌキも主の所へ一足早く戻って行っただけ。心配はない」

「はい……」



 何処から来たかも不明な私に良くしてくれたリーシャさんやウォーリーさん。実の姉のように懐いてくれたメグちゃん。村を歩いているだけで親切にしてくれた村の人々や毎日お酒を飲みに来てくれたギルドの人達の顔が浮かぶ。最後のお別れは出来そうにない。二度と父様は私を外へ出る機会を与えない。


 レオンハルト団長に手を引かれるまま着いた謁見の間の前。重厚な扉の前で待機する二人の騎士。



「陛下は?」

「はっ。奥でアフィーリア様をお待ちです」

「アフィーリア様っ、よくぞご無事で」

「ささ、陛下がお待ちです」

「は、はい」



 気が重い。怒られると分かりきってる相手に会うのってこんなにも気が重いものなのね。



「はい子供達。君達はここまで。大人しく家と部屋に帰りなさい」

「ええー!」

「文句を言わないのアシェリー」



 丁度、前を通った侍女にアシェリー達を屋敷まで送るよう指示を飛ばすと改めて私の手を握り直し、重厚な扉の前に立った。



「開けろ」



 二人の騎士によって開かれた扉の先にいたのは――。


 最奥部の魔王になった魔族だけが座れる玉座に腰掛ける父様。側には、魔王を支える滅んだドラメール家を除いた五大公爵家の当主達。父様の弟であるリエル叔父様もいる。



「っ……」



 父様の姿を見ただけで足が震え、重い。レオンハルト団長に手を引かれていなかったら、私は同じ場所から動けなかった。


 玉座の前まで私を連れるとレオンハルト団長は側を離れ、公爵としてイグナイト公爵様の隣に立った。……あれ?屋敷に戻るって聞いたシルヴァ公爵もいる。



「アフィーリア」



 ビクッと、普段と変わらない口調で呼ばれただけで体が酷く震えた。心臓がうるさい程鼓動が早くなる。怖い、怖い。でも、顔を上げないといけない。恐怖で震える体を叱咤して顔を――父様へ上げた。


 私と同じエメラルドグリーンの瞳が読めない色で私を見下ろしていた。



「どうだった?周囲の迷惑も省みず、自分勝手な理由で満喫した自由は楽しかったか?」

「……」



 言えない。


 何も、言えない。


 怖いから?違う。


 父様が言っている事は正しい。私が城を抜け出しただけで色々な人に迷惑をかけた。


 父様にも、母様にも、アイリーンにも、私の専属侍女のセリカも。……皆に迷惑をかけた。



「……わ……私は……っ」



 声が震える。それでも、黙りは目の前の魔王が許さない。



「私は、何度も父様にお願いしましたっ。外に出たいと、でも、いつもそれを父様は受け入れて、下さらなかったっ」

「……ほう?つまり、お前が城を抜け出した事によって生じた混乱は俺のせいだと言いたいんだな?」

「っ、……あっ……」



 違う。そうじゃないっ、私が言いたいのはそんな事じゃない。いざ言おうとしても、頭が真っ白になって、別の言葉が出てくる。



「ずっと城の中で育てられ、社交界にも出さないせいで分からないのかもしれないが。アフィーリア。お前やアイリーンは、他の貴族、……否、悪魔達にとってどれだけの利用価値があると思う?」

「りよう、かち?」

「魔王の娘というだけでお前達の価値は桁違いなんだ。お前かアイリーン、どちらかを捕らえてみろ、それだけで魔界全体を揺るがせる効力を持つ。特にお前は、アイリーンと違って体内に膨大な魔力を秘めている。それを狙っている輩がどれだけいると思う?」

「……」

「外に出せない分、ある程度の我儘は聞いてきたつもりだったが……今日限りだ」

「っ!」



 父様の声の温度が一気に下がった。周囲の空気が冷気を纏って壁に薄い氷を張る。玉座から立ち上がった父様が下りてくる。逃げたいのに体は硬直して動いてくれない。目前まで距離が縮まった父様に対し震えが強くなった。


 目線が合う様にしゃがむと手を延ばされた。


 ……不意に叩かれると強く思った私は瞼をきゅっと閉めた。


 …………。


 ……。


 待っても一向に訪れない痛み。恐る恐る目を開けると頬に温もりが触れ、薔薇の香りが鼻孔を擽った。体を引き寄せられ、父様に抱き締められた。



「アフィーリア。お前が無事で良かった……」

「……っ!」



 二週間振りに嗅いだ薔薇の香水も、間近で見る父様の顔も、声も、温もりも、全部……全部っ――!



「っ……父様ああぁ……!!」



 ――全部……私の大好きな……父様だ……!!





 ――魔王城の上空から、中の光景を魔術を用いて見守る一人の人影があった。



「やれやれ、冷や冷やしたよ。短気だからねえ、あの子は。愛娘の反抗に切れないか心配したけど、心配無用だったかな」



 それにしても、と男は続ける。



「さあ……アフィーリアは城に戻った。アイリーンもいる。あの子達の運命を左右する子等も揃った。後必要なのは……――――」







読んでいただきありがとうございました!


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