天界襲撃はすぐ近く
天界襲撃作戦はウアリウスとシルヴァ公爵が練るからと私とベルベットは除外。決まるまでは秘密って言われると知りたくなる。
「けち」
「はいはい、知りたいからっていじけないの。末っ子と外へ遊んでおいで」
「子供扱いする」
「僕にとってはどんな相手も子供だよ。僕と同い年なんていないからね」
そう言われると他の言葉が出て来ない。肉体は三千歳でも、中身はそれ以上の超ご高齢だもんね。
渋々納得し、部屋にいるであろうベルベットの所へ行く。朝食を食べた後は大体部屋にいる。扉近くまで行くとベルベットが出て来た。
「ベルベット」
「フィー」
少し歩を速めベルベットの側へ寄り、何処かへ行くのかと聞いて首を振られる。私に用事があったのだと。
「私?」
「どうせする事はないし、天界への襲撃は始祖のじいさんと父上が考えるだろうから、フィーをデートに誘おうかなって」
「ウアリウスに同じ事言われた。丁度良かった、一緒に街へ行こう」
同じ考えなら話は早い。ベルベットの手を掴んで早速街へ行こうとしたら、どうしてか部屋へ引き摺り込まれた。
「ベルベット?」
「デートする前にさフィー、君にキスをさせて」
「え、ちょ——んんっ」
言うが早いか私の手は引っ張られてベルベットに引き寄せられ、文句を言う前に顔を上げさせられキスをされた。一日一回はしないと気が済まないの!?
ちゃっかりと人の魔力を奪うのはもう慣れた。悲しい慣れだけど……。
「……ふふ……」
「なに……笑ってるの……」
「だって、フィーは怒るくせに抵抗はしないなって。本当に嫌なら、おれを殴ってでも逃げたらいいんだ」
「そう、言われても……」
「そういうところは天使の血を引いていても悪魔なんだ」
ベルベットが何を言いたいかぼんやりとだけど分かる。私が本気で嫌がればベルベットは私を解放する。多分ネフィもそうなんだろう。口では文句を言いながら受け入れている時点で私も大概。母様の血を引いていようと欲深い魔族の血が抵抗という二文字を私の中から消し去ってしまう。
揶揄いながらも私を見下ろす紫水晶の瞳や頭を撫でる手付きは、愛おしいと言われている気がして恥ずかしくなってきた。
「フィー……おれは君がいい。君がおれを選ばなくてもおれは君がいいんだ」
「んう……、……略奪するの?」
「そうかもしれないね」
悪戯っ子のように笑うと暫くキスを続けられ、やっと解放された時にはベルベットに支えてもらえないと立てなくなっていた。デートは一旦保留となり、ベルベットに支えられてベッドに腰掛けた。隣は勿論キープして。
「誰かに見られたら誤解されそう」
「おれはいいよ」
「ベルベットは他に好きな子を見つけようとしなかったの」
「君を思い出した以上はもう無理だ。仮に思い出さなくてもきっと無理だった。君以上に強い魔力を持つ女の子はいない」
私に拘るのは魔力が強いから、なのはなんとなく分かる。魔力以外にも人を好きになれる要素はあると力説したら苦笑されてしまった。
「人間や他の種族なら有り得たかもね。だが生憎とおれは魔族の他に淫魔や吸血鬼の血が流れる。一度気に入った相手以外を見つけろと言う方が無理なんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうもの。アシェリーに会う機会があれば聞いてみたらいい。淫魔は特に気に入った相手を手放そうとしない。おれは三つの種族の血の内、魔族と淫魔の血が強いのかもね」
有り得る。
公爵家の子でもネフィやアシェリーと違って跡取りではなく、末っ子の立場だから令嬢達に追い掛けられる心配もなく、のんびり自由気儘に過ごしていたらしいがちょくちょく二人には顔を見せに行っていた。ベルベットだけ追い掛けられない事を恨めしそうにしていたから。これを言うとソラも当て嵌まる気がすると言うと「どうだろうね」とベルベットは曖昧に言ってのけた。
「吸血鬼一族は魔族に次ぐ一大勢力だ。魔王の弟の血を引いているから当然強い魔力を持つ。他の一族がうるさいのと吸血鬼一族の長にはならない分おれと同じで身軽だった筈だよ」
「跡取りって私が考えていた以上に大変なんだ」
「会う機会があったら言ってみたら? きっと嫌そうな顔をするよ」
「あ、想像できる」
頭にすぐに浮かんだ二人の拗ねた面持ちについ笑ってしまう。私はもしも、あのままずっと魔界にいたらどうだったかを想像した。
魔界にいたまま成人を迎えたら、私は父様の許可を得たのを幸いとばかりにさっさと人間界へ降りていただろう。但し、護衛にはきっとセリカが付いて来る。私にセリカを撒く技量はないから、人間界へ行っても永遠に楽しむという訳にはいかなかっただろうなあ……。
「結婚相手かあ……魔界にいたままだったら父様に決めらた相手としてたかも」
「それはないんじゃない? あの魔王は、魔王候補の選出は初めても君や王女様の結婚相手を決める気は更々無かったと思うよ。王子様達でさえ、決めていなかったのに、娘の君達はもっとない」
「まあ、父様なら私やアイリーンの決めた相手でってなるかもね」
前世は未成年のままだったし、死んでアフィーリアになった訳じゃないけど、多分私は前世の私には戻れない。
「フィー」
「どうし——……んっ」
名前を呼ばれてベルベットに向いたらまたキスをされた。人が嫌がらないのを良いことに隙あらばしてくる。今回は唇を触れるだけに終わった。半眼で睨んでもベルベットは微笑むだけ。
「嫌ならおれを殴ればいいってさっき言ったろう」
「殴って逃げるほど嫌とは思わない……」
「そっか……それでいいさ」
ベルベットに抱き締められる。私もなんとなくベルベットの背に腕を回した。子供の時と大違い、背に回した手は重ならない。ネフィもそうだった……皆大人になったもんね……。
「……」
「……」
次の言葉が見つからない。
ベルベットも同じ。
抱き合ったまま時間だけが過ぎていく。
先に体を離したのはベルベット。
「元々の予定を実行しようよフィー」
「今からデート?」
「そう。君とね」
お手をどうぞ、と差し出された手を取るとベッドから離れ部屋を出た。デートか。王都の名所や観光スポットにベルベットを案内しようか、それかベルベットに気になる場所はないかと記憶を探る。玄関近くまで行くと気のせいか騒がしい。二人で顔を見合わせているとウアリウスがやって来た。
私が何かあったのかと訊ねたら——吃驚することにシエロ様が来ていると教えられた。
「なんで!?」
「聖堂でのお詫びでは物足りなかったみたいだね。どうする?アフィーリア」
「こうなるなら、最初から本音を隠したままでいたら良かったのに」
「ははは。宰相は切れ者でも、息子の彼はまだまだ未熟って事。末っ子と街へ行くんだろう?僕が対応してあげるから行っておいで」と左手を上げたウアリウス。瞬間移動で好きな場所へ飛ばしてあげると言うから、私が想像した場所にしてもらった。
瞬きをしてすぐに光景が変わった。街の路地に飛ばされ、ベルベットの手を引いて表通りへ出た。前に私とウアリウスで利用したアイスクリーム屋がある店が近くにあった。
私は店を指差して一緒に行こうと言うと「いいよ」とベルベットは大人しく私に手を引かれてくれた。
お店の前に立てられている看板に書かれたメニューを見る。
「ベルベットはどれがいい?」
「うーん。シンプルにバニラアイスにするよ。フィーは?」
「私はこれ!」とイチゴが盛沢山なスペシャルストロベリーバニラアイスを指差した。
早速お店の人に食べたいアイスを注文した。
「お待たせしました」
ガラス製の器に盛られたスペシャルストロベリーバニラアイスは私が思っていた以上に大量のイチゴが盛られていた。バニラアイスにはイチゴソースがたっぷり。ベルベットはバニラアイスと言っていたのに私と同じメニューとなっている。空いている席を見つけ隣同士で座った。
「ベルベットもそれでいいの?」
「ああ。フィーが選んだのと同じが良いなって」
「そっか。じゃあ、早速頂きましょう!」
楽しみなイチゴを期待して口に入れた。想像通りの甘酸っぱい味と冷たくて甘いバニラアイスの相性がバッチリで続けて食べていった。
連続で食べたせいで突然頭に鋭い痛みが走った。冷たいものを食べ過ぎたり、飲み過ぎたりした時にくるあれだ。
痛みで顔を歪ませていたら「そんなに早く食べるからだよ」と呆れた声を頂いた。悪かったわね。
「美味しいのは分かるけどゆっくり食べないと」
「そうする。ふう」
「さっきの人間」
「うん?」
「君に会いに来ていた人間。お見合い相手ってフィーは言っていたけれど、実際はどんな関係?」
口調は優しくても視線は言うまで逃がさないと語っていて。仕方なくシエロ様について話した。
しつこく私に会いに来ている理由も全て。
話を聞き終えたベルベットは小さく噴き出した。面白い内容でもないのに。
「笑う?」
「笑うよ。要は、フィーがあまりに素っ気ないから逆に気になって仕方なくなったんだ」
「えー……」
「彼にはフィーが言うように天使がいるんだろう?両親が認めなくても彼と天使が認められるよう努力すればいいだけさ」
「そう言ったんだけどね」
貴族の世界の詳細は私にはイマイチ分からない。魔界にいた頃も王女というより、過保護な魔王の娘として育てられたからね。
「王族の方は始祖のじいさんに惚れてフィーを悪女扱いだって?はは、正体を知ったら腰を抜かすね」
「腰を抜かす程度じゃ済まないかも」
「まあね」
王国は天使の血を引く聖なる国でウアリウスや私は天使の天敵たる魔族。始祖の魔王と現魔王の娘という天使にとったら、出世の大チャンスな首。簡単に殺されたりしないけど。
イチゴをバニラアイスの上に乗せて食べていると「アフィーリア様、ベティ」と呼ばれた。
「こんな所にいたのか」
やっぱりシルヴァ公爵だった。
「声を掛けないでよ。折角のデートが台無し」
「そう言うな。アフィーリア様とベティに私が気に入っている場所を一つ教えよう」
「態々それを言う為に声を掛けたの?」
「そうでもないさ。ウアリウス様が貴族の子供を返した後、些か不機嫌になられてな。ちょっとしたご機嫌取りさ」
怒っていても他人に八つ当たりするような人じゃないと私が言うとそれは私が側にいるからだと言われてしまう。魔界の王の中で一番我儘で暴虐で残酷で強いのが始祖の魔王。全然イメージと合わない。
シルヴァ公爵よりもウアリウスをよく知るイグナイト公爵がいたら、昔と比べると丸くなったと言われるだろうとシルヴァ公爵に言われると更に想像が難しくなった。
「まあ、あの方はアフィーリア様を大切にしておられる。万が一にも、君に嫌われるような真似はしないから安心しなさい」
「は、はい」
取り敢えず頷いて見せた私だけどやっぱり不機嫌なウアリウスの姿がピンとこない。バニラアイスをスプーンで掬った時——ひらり、ひらり。一枚の大きな純白の羽がテーブルに落ちた。
それが何かと理解する直前に私達が座っているテーブル席毎場所が変わった。
何度か瞬きをしているとひょっこりと顔を出したウアリウスに吃驚してしまい、勢いのまま後ろに動いてしまった。そのせいで椅子事倒れそうになったけれどウアリウスが止めてくれた。
「び、吃驚した」
「僕も吃驚したよ。というか、人の顔を見て吃驚しないでよ」
「吃驚するよ!カフェにいたのに、いきなり場所が変わったもん」
場所がカフェから私もよく知る屋敷の庭園に変わった。
「タイミングが良いとはこの事ですな」
「あ」
少し離れた場所にいるシルヴァ公爵の手には血に濡れてぐったりとしている天使を捕えていた。テーブルに落ちた大きな純白の大きな羽根は天使の羽根だったのだ。
「おれとフィーを狙って?」とベルベット。
「そうだろうな。白昼堂々外を出歩いている高位魔族を見つけて手を出さない天使はいない」
「悪魔狩りでもないのに巡回の目が行き届いてることだね」
「もうじき次期神となる王子が王国に降りるんだ。王子の安全の為に王国にいる悪魔を根絶やしにしたいというのが天使の本音だろう。だがこれで天界へ行く準備の手間が省けましたな」
ウアリウス様、と視線をウアリウスへ向けたシルヴァ公爵は捕えている天使をウアリウスの足下へ放り投げた。
「この天使を使って天界に行くの?」
「そうだよ。彼の脳を弄って天界への扉を開けさせるんだ。こっちが無理に開けるより、同族が開けた扉に警戒は起きないからね」
死にかけている天使は鋭い目でウアリウスを睨みつけているが当の本人は一切気にしていない。どころか、愉しそうに嗤っているだけ。
予想していたより早く天界に襲撃を仕掛けられる。
——その頃、魔界では。
相変わらず拗ねた面持ちをしてネフィを睨むアシェリーと自分の手首をナイフで切り、流れ落ちる血をグラスに注ぐネフィが魔王城のサロンにいた。
「いい加減にしろっつうの」
「ふん」
ぷいっとそっぽを向いたアシェリーに呆れつつ、半分までグラスに血が溜まると傷口を押さえ治癒魔法を掛け始めた。丁度同じタイミングでソラが入った。ネフィの隣に腰を下ろすと血が注がれたグラスを手に持った。
「はあ」
「吸血鬼のくせに嫌な顔すんなよ」
「純粋な吸血鬼と違って血を見ても興奮しない分、一度吸血した後期間が空きすぎると血を飲むのが億劫になるんだよ」
「酸化する前にさっさと飲んじまえ」
「はいはい。ありがとう」
縁に口を付け、グラスを傾けようとした時。勢いよく扉が開いた。つい最近あったなと三人が同じ気持ちを持ち、乱入者を見た。
違ったのは相手。以前はハイネだった。
今回は——……。
「な……何をしているの?ソラっ」
ネフィが手首を押さえているのとソラがグラスに溜まった血を飲もうとしているのを見たアイリーンの顔は真っ青だった。
読んでいただきありがとうございます。




