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1.八幡シイロという男




 ___8階、管理エリアに着きました。


 塵ひとつ落ちていない白いエレベーター。その中から新しくこのフロアに配属された黒髪の青年が降り立つ。


「地下の割には空気が綺麗だな」


 ここは地下奥深くにあるとある施設、目の前にある厳重な白い扉が目の前に佇んでいる__


「カード認証にとっとと変えればいいのに……古臭いシステムだな。全く」


 堅苦しい無愛想な顔で青年は白衣の胸元ポケットから認証カードを取りだし、監視カメラに掲げる。数秒掲げておけば管理室の職員がご丁寧に手作業でロックを解除してくれる。


『確認が取れました。八(・)幡(・)シ(・)イ(・)ロ(・)入室を許可します』


 無機質な女性の声が響き、厳重な扉が開かれた。


「おはよう、君が矢幡シイロか」


 自分よりも背の高い落ち着いた声の女性が扉の先で待っていたらしい。彼女をよく見れば顔に酷い引っ掻き傷が残されている、鋭い爪で引っかかれた様な跡。恐らくこの施設に収容されている“N.E”によるものだろう。


 この施設で管理されているバケモノ達の事だ。


「本日よりよろしくお願いします」


 この施設では死と隣り合わせな状況に常に立たされていると認知しなければならない。非常に危険な場所である。


「おはようございます。研修が終わり本日から現場に配置される矢幡シイロです……貴方がこのフロアのリーダー“片岡ハナミ”さんでしょうか?」


「あぁ。私がリーダーを務めている。リーダーとでも呼んでくれ、その方が私のモチベーションに繋がるからな。名で呼ぶなよ。女々しい名前は嫌いなんだ」


「わかりました」


 癖が強い彼女に新人の八幡はなかなか難しいチームに派遣されてしまったと心の中で悔やむ。


「そして矢幡君、悪いが今日から既に君の担当するN.Eが決まっているのでその個体の世話役をしてくれ」


 N.E_名前の無い存在_____。


 E.A.C__Existentia Agnoscis Constituere(存在を認知し確立する組織)で作られた人工生命体。臓器提供や輸血を補う為に作られた人間では無い生命。人間の容姿をしているものも入れば化け物のような見た目をした者も存在している。


 この地下施設ではN.Eを研究・保護し、人類の難病治療や延命治療の幅を広げ、人類に大きく貢献している。



 今や老(・)い(・)て(・)死(・)ぬ(・)事(・)や(・)病(・)気(・)で(・)死(・)ぬ(・)こ(・)と(・)な(・)ど(・)で(・)き(・)な(・)い(・)時代に発展した。


「リーダー。Q(・)レ(・)ベ(・)ル(・)を伺っても良いでしょうか……流石に2は自分にはまだできないと思います」


 Q__N.E危険度レベル。


 友好的な者も居れば非友好的な者も存在する。レベルは非常に単純で4つしか存在せず、


Q.1は人間型友好的

Q.2人間型非友好的


Q3.人外型友好的

Q.4人外型非友好的


 Q.1〜3までは人間への危険性は少ないが4のN.Eは非常に危険性が高く、複数の研究員達により監視を行わなければならない_____


「はは、安心しろ。そこまで鬼畜な所業をするほど私はクズではない。Q.2を担当させはしない……が、少々精神的にクる容姿を持ち合わせているな」


 はぁ、とため息を吐く片岡。


「Q.3ですか?」

「そうだ。Q.3をキミには担当してもらう、できるか?」

「任せてください。ですが対象の部屋に行く前に資料を頂けると……」

「そうだな。資料端末を渡したいのだがまだ準備ができていなくてな……紙で渡す。君のディスクに資料は置いてある、ついて来たまえ」


 白が続く広く無機質な廊下を歩く。

 すぐに職員室はあったが彼らが入るより先に中から慌ただしく青年が飛び出してきた。


「ちょっと血抜きしてくるわ!!あっ……」


 とても研究員とは思えないチャラチャラとした金の髪をしている青年はリーダーの顔を認識すると顔を青ざめさせる。


「天羽……お前、また血液採取を忘れたな?」

「リ、リーダー……」


 彼は自身がつけているメガネを触った、最悪だ……自分は最高に運がついてないと己を呪う。


 業務を怠った彼に待ち受ける運命は1つ__


「今月に入ってから何度目だ!!お前の担当するN.Eは血抜きを怠るなよとあれほど言っただろ!?忘れるならば腕にでも手でも顔にも書けこの馬鹿者!」


 重い叱責を彼女は業務を怠った勤務歴2年目の研究員__天羽メイに行い、二度と忘れるなと彼の腕を引っつかむと『採取10:30』とデカデカと油性ペンで書く。


 これで彼は“しばらくは”忘れないだろう。


 想像以上にE.A.Cの研究施設は堅苦しくないようで職員は個性豊からしい。こんなにも緩いとは思わなかった。


「天羽、ついでに彼を紹介する。彼は八幡シイロ。今日から配属された、仲良くするように」

「おっ。新人ッスか?よろしくなー!俺、天羽メイ、天羽先輩って呼んでくれよ!」

「コイツは天羽でいい、キミの方が仕事ができると思うからな」

「リーダー酷くね?俺めっちゃ仕事しかしないのに」

「今月の採取を何度忘れたか言ってやろうか?それとも居眠り回数の方がいいか?」

「す、すんません……」


 どうやらこの先輩はかなりのポンコツであるようだ、リーダーの厳しい顔に先輩である天羽は気まづそうに顔を背けていた。


「早くN.E419の所へ行って採取してこい。管理部にドヤされるぞ」

「うっす、行ってきますわ……またな!期待の新人後輩くん!」

「ま、また……」


 嵐のように過ぎ去っていく彼を見送り、本日から通う事となる部屋に入室する__


 清潔感漂う匂いに少しコーヒーの匂いが混じっている広い部屋、9人分のディスクがあり現在部屋に残っているのは2人。

 研究員らしく黒髪をポニーテールにし、前髪を均等に切りそろえた童顔な女とこれまたチャラそうな、胡散臭そうな糸目の男が仕事を行っている。


「リーダー、辛苦了(お疲れ様)!オツカレサマネー!」

「お、お、つかれ……さまで、す」


 立ち上がりエセ中国語で軽く会釈する男とたどたどしく男に続いて会釈する女。


「リャン、休みの日は家に帰れと言ったはずだがなぜここにいる」

「ぁー?そりゃぁN.Eが大好きだかァらネェ……し・か・も!ここに居りゃァ飯も水道代も電気代もタダ!!最高だァネッ!」

「ここはお前の実家じゃない、休みの日は帰れ」

「断るヨ。何かあった時に1人でも多く人がいた方がいーネ、ダロ。サシミィ」


 胡散臭い男_鈴谷リャンに不意に話を振られ童顔の女性__野村サシミはあ、ぁ……と言葉に詰まる。


「はぁ……お前の言う通りそうなんだが」

「ほーらネ!!やっぱワタシ重要ネ!」


 施設には職員が泊まれるように簡易的な部屋がいくつかあり、地方から来た人間の一部は施設で暮らしている者が多数いる。


 実質ココはタダ飯食べ放題状態なのでリャンと呼ばれた青年は家に帰ることなく住み着いている1人らしい。趣味で施設に引こもる彼をリーダーはよく思っていないのが顔を見ればわかる。


「何かあった時に人数がいれば対処が楽であるがそこまで貧弱なチームでは無い、早く帰れ」

「イヤ!!断るヨ、NO!!それより、リーダー隣の子紹介するヨ」

「はあ。お前と言うやつは……まぁいい。紹介しよう、八幡シイロだ」


 頭を抱えながら彼女は八幡に前へ出るよう首で指示を出す。


「本日から皆さんと一緒に研究します八幡シイロです、よろしくお願いします」

「彼は主席で研修期間を卒業し身体能力も歴代を超える評価だ。私には劣るがなかなか素晴らしい成績を残していると……期待の新人ってやつだな」


 ほぼ完璧な身体能力と成績、N.Eに対する対処法を持ち合わせている珍しい新人であるとリーダーは非常に評価している様子。


「わ、あ、新しい人……よ、よろしくお願いします。わ、私野村サシミと言います……に、1年前にここに、配属になりました。よろしく、お願いします……わぁ」

「あらァシイロくんいい子そ〜ネ、ワタシもう好(ハオ)ネ。ワタシ鈴谷リャンだヨ、仲良くするヨ〜」


 初対面の人間相手に肩を組まれ、頬を人差し指で突っつく奴が居るだろうか。離してくれと八幡は抵抗するが彼の方が力が強く背も高いため振り払えない。面倒な人、厄介極まりない。

 リャンという男は非常に友好的で距離感が近く一般的にいい印象を持たれやすいと思うが矢幡にとっては苦手な存在で最悪だと目を細めた。


「やめてください、ウザイです」

「エェー仲良くしてくださいヨー釣れないネー」

「暑苦しいムサいとこを見せるな馬鹿者」

「エェー?べつにィいいーじゃないですー?」


 パシッと乾いた音が響き、リャンがぎゃ!!!と声を上げる。リーダーが呆れた顔でリャンの頭を叩き物理的に引き剥がしたのだ、叩かれた彼は頭を押さえ地面に倒れた。


 自分が派遣された研究チームは本当に個性豊かすぎる人間しか居ないらしい、上手く彼らとなかよくやっていけるのか。頭を押えたい、胃薬を用意しておいた方がいいかもしれないと八幡は思う。


「八幡、資料を読んだら声をかけてくれ」

「わかりました」


 人間関係の問題は考えることをやめ、与えられた仕事に早速取り掛かる__


 【N.E999_Q.3/自由解放可/性別♂


 特徴/ベース人魚_灰色肌・頬(鱗)・ツノ(鹿/採取)・耳(鹿・エルフ)・口(蛇)・赤目・こめかみ辺りから青い液体(採取必須)・周囲に赤い金魚2匹(毒性アリ)


 性格/温厚的・幼い

 依存品/ポテトフライ

 採取事項/ツノ・鱗・こめかみの液体・血液


 告知事項/口で話す言葉は我々に理解できない、ノイズ混じりの奇妙な声で話す。傷の治りが遅い為採取後は処置を行うこと。7階Q.4エリアに居ることがある為その時はQ.4担当チームに連絡して対処するといい。

 注意事項/部屋には侵入しないこと、また少しめんどくさいので注意】


 1枚目の情報は担当することになるN.E999の生態について記載されてあり、2枚目・3枚目は採取した物の成分や使用用途、取り扱い方について書かれていた。


 初めて担当するN.Eが友好的なレベル3で良かったものだ、もし非友好的である2を相手することになっていたら恐らく1ヶ月で殉職していた可能性があるだろう。


 ___見た目がショッキングと言っていたがどこまでショッキングなのか、そして部屋に侵入してはならないと言うところとめんどくさいと書かれた部分……非常に気になる__


「確認終わりましたリーダー」

「思ったよりもかなり早いな。流石だ」

「読むのは人一倍早いもので」

「あの自由気ままなやつと違ってキミはまともに仕事をこなしてくれそうで助かる」


 リーダーを待たせぬよう八幡は5分以内に資料を頭に叩き込み彼女の元に報告。優れた部下のポジションになりいずれ自分もリーダーのポジションに昇進したいと八幡は今の若者には持っていない強い意志を持っていた。

 人々の役に立てるように、医療技術の進歩に貢献できる存在になれるように。今の若者が叶えることは難しい夢の第1歩に到達している。この幸運を上手くいかせなければいけない。


「抑制剤は持ってるか?」

「はい、携帯しています」


 E.A.C職員が必ず職務にあたる際に抑制剤の入った銃を所持している。これを所持していない場合何かあった時に身を守れないので命綱のようなものだ。

 実際反抗的なN.Eに対しこれを使用して鎮静化させるマニュアルが存在している……N.E達もこれを使われるのを酷く嫌がる程精神的肉体的苦痛を伴うため普通は使用することは無いが気の狂った相手にはこんなもの関係ない。暴れる時は暴れる、危険なので抑制剤を打ち込んで素早く始末するのが我々の役目。


「では私に着いてこい、N.E999は大体この時間は食堂の天井に張り付いて餌をオネダリしてる時間だ」

「はぁ、かなり芸達者なN.Eなんですね」

「アレは餌にガメツイからな。餌を貰う為に職員に良くちょっかいをかけてくる、執拗い時はハブ酒を見せれば大人しくなるぞ」

「べ、勉強になります」


 これから対面することになるN.Eは様々な動物が入り交じっているが1番濃いのは蛇らしい。同胞が酒の中に沈んでいるものを見ればたじろぐのは確かだろう。


「あぁそうだ。先にハブ酒は渡しておこう、アレがいる時に渡すと机の下から出てこなくなるからな」

「あ、ありがとうございます」

「では行こうか」


 ハブ酒を常に持ち歩くとは少々大変だが何かあった時を考えると絶対に肌身離さず持っておくのがいいだろう。青春時代を全て勉強に捧げやっと就職した。毎年2、3人早々に亡くなるらしいがその例に自分が当てはまりたくない。


 N.E3は4に突如上がることもあるらしいので助かる。現在施設に収容されている4のN.Eは3体しかいない、そのうちの1体が3 から4に引き上げられ収容フロアを変更されたと研修中に教わった。人間型の方が異型よりか安全だ。

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