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私の治癒能力を当てにして他人を治すあなたに愛想が尽きました。これからはどうぞご勝手に。   作者: かがみゆえ


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8/8

 ギャレットが崩れ落ちたと同時に、ベッドの上で死にかけていたアルベルト伯爵は呼吸を取り戻し、肌に赤みが差した。


「おお……! 子爵様が息を吹き返されたぞ!」


「医者を! 早く!」


 館内が歓喜に包まれる中、床で血の海に沈んでいるギャレットに目を向ける者は誰もいなかった。


 その後、ギャレットは診療所に運ばれたが街の治癒師たちにはどうすることもできなかった。


 彼が引き受けた怪我はあまりにも重すぎた。


 全身の骨折に内臓破裂。


 脳に送られるはずの酸素が途絶えたことによる深刻な脳へのダメージ。


 ギャレットの命は、辛うじて繋ぎ止められた。


 しかし、彼は二度と目を覚ますことのない『植物状態』となったのだった。


 意識もなく自力で動くこともできず、ただベッドの上で呼吸を続けるだけの存在。


 彼が求めた「名声」も「絶賛」も、そこには一切存在しなかった。


 彼が引き受けた傷の苦しみと不自由さだけが一生涯、彼の肉体を縛り続けることになったのだ。


 アルベルト伯爵家からは勝手に館内に侵入して能力を使った怪しげな男として、わずかな手切れ金が支払われただけで何の手厚い保障も与えられなかった。





 一方、王国騎士団の専属治癒師に就任したシルヴィは目覚ましい活躍を見せていた。


「シルヴィ先生! 訓練中の第二部隊員が落馬し、重傷です!」


「すぐに向かいます! 止血の用意を!」


 シルヴィはすぐに現場に駆けつけ、的確な指示と洗練された治癒能力で騎士たちを救っていった。


 かつてのように自身の治癒能力を無計画に削られることはもうない。


 騎士団の医師や他の治癒師たちと連携し、しっかりと休息を取りながら、計画的に治癒能力を行使していたからだ。


「すごいな、シルヴィ殿の治癒は。痛みがまったく残らない」


「それに彼女は我々の体調や負担まで気遣ってくれる。聖女とは彼女のことだな」


 騎士たちからのシルヴィへの信頼と尊敬は日増しに高まっていった。


 シルヴィに与えられたのは正当な評価と感謝の言葉。


 そして、“一人の人間”としての尊厳だった。


「シルヴィ治癒師、調子はどうだ?」


 執務室で書類を整理していたシルヴィのもとへエミリアンがやってきた。


「団長。はい、能力の経過も良好です。明日からの遠征演習にも同行できます」


「そうか。だが無理はするなよ。お前は我が部隊の要だ。倒れられては困る」


「ふふ、大丈夫です。私、自分の限界を守る大切さは……嫌というほど学びましたから」


 シルヴィは晴れやかな笑みを浮かべた。


 そんな折、ノーラから手紙が届いた。


 そこには、ギャレットが自爆して植物状態になったという顛末が淡々と綴られていた。


『……というわけで、ギャレットはもう一生目を覚ますことはないそうよ。自業自得とはいえ哀れなものね。シルヴィ、あんたはもうあんな男のことは忘れて、自分の人生を歩みなさいね』


 手紙を読み終えたシルヴィは、静かにそれを閉じた。


 シルヴィの胸の中に湧き上がったのは、悲しみでも歓喜でもなかった。


 ただ、「ああ、そう」という無関心だけだった。


(さようなら、ギャレット。あなたは最後まで、自分の能力の重さを理解できなかったのね)


 シルヴィは手紙を引き出しの奥に仕舞い込むと二度と読み返すことはなかった。


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