だって面倒だったし
そして、2人がかりのスライム狩りは順調に進む。
持ってきた2つの大きな袋はあっという間にスライムで埋まっていき、これがどれだけの稼ぎに変わるのかサーリアには想像すら出来ない。
「……正直、信じられないわ」
「ま、2人がかりだしな」
「スライムってそれなりに高級食材なのよ? それを、こんな」
「それもあるから、こんな稼ぎは長く続かないって言ってるんだ」
需要が満たされれば、当然値が下がる。供給過剰になった先にあるのは値下がりだけだ。
「俺達がスライムで稼ぐことはすぐに知られる。余計なのに絡まれる前にさっさと手を引かないとな」
「まあ、そうね……」
永遠に稼げるものなど、この世にない。それは冒険者をやっているサーリア自身がよく知っている。
「ま、これだけ売れば旅費にはなるでしょ」
「だといいな」
言いながら、カノンはスライムで詰まった袋を背負い……ちょっと悩んでから、サーリアも袋を背負い驚く。
これだけスライムの詰まった大袋は重いはずだが……軽い。それは間違いなくカノンの「身体強化」のおかげであると分かっている。
(やっぱり、凄い……こんな魔法が滅びかけだなんて、信じられない)
どう考えても強化魔法は有用だ。だというのに、世間の認識は何なのか。
やはりカノンの強化魔法だけが違うのだろうか。そんな事を考えながら、サーリアは口を開く。
「ねえ、カノン」
「ん?」
「アンタ、強化魔法の実践を魔法学校でしなかったの?」
「話を誰も聞いてくれなかったからな」
「なんで?」
「魔法の道を志す奴は、自分の探求するべき道以外に興味がない場合がほとんどなんだ」
故に、強化魔法などというものは口に出しただけで嫌な顔をされる。
実験に付き合ってほしいなどと言えば、追い払われるくらいだ。
時間の無駄。ハッキリ言えば、そう思われている。その時間で自分の魔法の探求を出来るのに、邪魔するとは何事か……と、そういうことだ。
「レポートも幾つか書いたけど、無駄だった。『読む価値なし』の評価がついたからな」
「……よくそんな学校に通ってたわね」
「普通の魔法がどうにか使えないか、模索してたからなあ……それも、結局無駄だったけど」
それすら諦めた時、カノンは魔法学校を卒業することを諦めた。結果として此処に居るわけだが……それが正解であるかは、カノン自身にすら分からない。
そんなカノンの肩を、サーリアが拳でトンと叩く。
「アタシは、アンタの事。頼りにしてるわ」
「そっか。ありがとうな……サーリア」
「フフン。アンタがもっと話を早く聞いてくれてれば、もう少し手間も少なかったのよ」
「いや、だって面倒だったし……」
「まだ言うか!」
怒るサーリアと、どこ吹く風のカノン。
そうして、2人分の「王都への旅費」は、あっという間に貯まったのだった。