スライムって凄い。マジスライム様
「スライム狩り……? スライムって、あのスライムよね」
「他にスライムなんて居ないだろ」
スライムといえば食材にもなるし薬剤にもなるらしい、ぷるぷるの生物に分類していいのかも不明なモンスターだ。他にスライムと称されるものは居ない。
「無理よ! アレがどれだけ強いか知ってんの⁉」
「そんなに強くないぞ」
「アレが弱そうに見えるのは見た目だけよ! アイツの体当たりで骨折った奴がどれだけいると!」
そう、スライムの体当たりは強い。ボールのように弾む身体は高い跳躍力を持ち、そのゼリーのようでありながら「生きている間」は相応の硬さを持つ……中身の詰まった身体は体当たりによる攻撃力を保証する。
つまり、端的に言えば単体で成立する投石器に近い。その威力たるや、大の大人をあっという間に瀕死に追いやる。
「心配いらない。俺は今日狩ったからな」
「なっ……え、嘘。スライムよ?」
「スライムだ。ついでにちょっと食った。美味かった」
「まさか、この宿の代金払えてるのって」
「予想以上に高く売れた」
頷くカノンに、サーリアは頭を抱えてベッドに倒れこむ。
「コイツ……それがどれだけとんでもないか理解してんの……⁉」
「たぶん風魔法の方がもっと簡単にいくんじゃないか?」
風魔法にはウインドカッターと呼ばれるような風の刃を放つ魔法がある。
それをカノンが思い浮かべていると、サーリアは枕をカノンに投げてくる。
危うげなくキャッチするカノンをサーリアは睨みつけ、ムクリと起き上がる。
「いくかバカ! このバカ! スライムが魔法殺しって呼ばれてることくらい知ってるでしょ⁉」
「いや、知らん」
「なんで知らんのよ! それでも魔法学校生だったの⁉」
「授業からも弾かれてたしなあ……」
「あー、もう! いい⁉ スライムはね、生きてる間は魔法にすっごい耐えるのよ! 耐魔法生物なんて言われてるくらいなんだから!」
「そんなに凄かったのか、あんなに美味しいのに」
「そうよ、あんなに美味しいのによ!」
ついでにいうと打撃攻撃にも強いので、スライムは完全生物に近いのではないかなどと言われているほどだ。
もしスライムが人類に極めて敵対的なモンスターであれば人類は滅ぼされていたのではないか。
そういわれる程度にはスライムは弱点が存在せず……そして強い。
攻撃しなければ敵対してこない。そして何より、食事らしい食事をしない「生態系に影響がない存在」であること。そういったスライムの性質があるからこそ、街の周辺にスライムがはびこっていても人々は安心して暮らせているのだ。
「そんなのを狩って稼いだ⁉ しかもスライムの値が上がってるこの時に……」
「あー、腕の良いスライムハンターが居ないんだっけ」
「そうよ。冒険者ギルドにはスライム関連の依頼が増え始めてるけど……誰も受けないわ」
「受ければいいのに」
「気軽に言うわね……」
カノンは分かっていないが、スライム狩りは割に合わない狩りとして有名だ。
何しろ、本気で「弱点」がないのだ。
真っ二つにしたりバラバラに砕けば死ぬことは分かっている。
しかし、生物ならば存在するべき器官もなければゴーレムのようなコアも存在しない。
何故動くのかすらも解明できない不思議生物相手では、消耗戦になりやすい。
まだゴブリンの集落を殲滅しろと言われたほうがやりやすいと言われるほどだ。
「まあ、俺の強化魔法と相性がいいってことなんだろうな。運がいい」
「アンタの自己評価の低さは何なのよ……まあ、いいわ。それなら確かに旅費は稼げそうね」
「ああ」
「一応聞くけど……スライムハンターとしてやってく気はないの?」
「長くは続かないさ。儲かると分かればライバルも増える」
「……それはどうかしらね」
「ん?」
「なんでもないわ。おやすみ」
言いながら毛布を被り、サーリアはカノンに背を向ける。
強化魔法。役に立たない滅びかけた魔法だとカノンは言うが、ちょっと考えただけでも有利な点がゴロゴロ出てくる。
それが各方面から否定された滅びかけだというカノンの言葉が、サーリアには理解できない。
(わざわざ嘘をつくとも思えないし、今まで強化魔法を使う魔法使いなんて見たこともない。それなら事実なんでしょうけど)
本当に誰も強化魔法の優位性を理解できなかったのか?
それとも……カノンの強化魔法「だけ」が違うのか。
それは、魔法の知識などないサーリアには判断できるはずもない事だった。