ちょっとだけ、頑張ってあげよう。
実技場とは、異能実技の訓練を行う場所と考えるのが普通ではないだろうか。
場所が分からなかった俺は澪に誘導され、やけに大きいドーム場の建物に案内されていた。
今頃、Sクラスの生徒以外は教室に戻って学校生活についての指導を受けているらしい。
好奇心もあってなのか、一足先にSクラスの全員がここに集まっていた。
「ここ、完全に大勢が観戦する前提で作られているよな」
フィールド設置されているのがベースではなく、正方形のリングと思わしきものが間隔をあけて四つ設置さている。
その点を除けば、ご丁寧に観客席まで設置され、そのまま野球場の作りその物となっていた。
「ここは試験や大会でも使用されるしね。うちの全校生徒くらいなら、余裕で収容可能よ。晒ものになりたくなかったら、ちゃんと戦う事ね」
「なあ、もしもあっさり俺が負けたらどうなるんだ?」
「アンタの高校生活三年間を貰う――これが取引の内容よ。当然三年間Sクラスでいてもらうわ。もし、それすら叶わないようであれば、契約は不履行ということになるわ。その場合、そうね…二度とお日様が拝めなくなることをお約束するわ」
「アンタは鬼や…」
次に両親あったら、全力でラリアットをかまそう。
右腕で父を。
左腕で母を。
せめてこのドームの端からスタンドまでぶっ飛ばしてやらないと気が済まない。
俺は熱き決意を胸に、これからの戦いに挑む覚悟を決めた。
◆◇◆◇◆
しばらくすると、徐々に観客席に人が集まり始めてきていた。
新入生だけでなく、慣れた感じで席に着く様子からしてどうやら上級生の方々も観戦に来ているようだった。
「暇な先輩方もいるもんだな」
先に集まっていたSクラスの生徒も観客席に上がっている。
俺は今、澪と二人で選手用の控室でモニターを眺めていた。
「新入生のSクラスが試合をするというだけでも、十分に観戦する価値はあるわ。さらに今回は前代未聞のステージⅡ。さらに学園長の娘の婚約者候補ともなれば、よっぽど他人に無関心でもない限りは、こうして来るものじゃないかしら」
「最後のが余計に火に油を注いだな。なんだよ婚約者候補筆頭って…」
「文字通りの意味よ。覚えてないって言ってたけど、私は一度アンタに命を救われているしね。理由としてはそれだけでも十分よ」
「俺の意志が一ミリも含まれていない所に疑問を感じないのか」
「ええ。まったく」
「馬鹿な……」
『えー、準備が整いましたので、柳くん入場お願いします』
眩暈でもしてきそうな会話をしていると、控室内にアナウンスが流れた。
「行きたくないでござる」
「馬鹿言わないの」
「実家に帰らせて頂きます」
「春休み前にとっくに引き払ってきたでしょう」
「……そうだったなあ」
夢ならそろそろ醒めてほしい。
いや、もしかして神はこれがいつ夢だと気付くのかと俺を試しているのかもしれない。
そうだ、そうに違いない!
「HAHAHA! 神様も人が悪いよな。見てみろこの澪の間抜けなツラ。もちもちでこんな伸びるほっぺが現実なわけがないじゃないか」
澪を頬を掴んだのは初めてだったが、これはなかなかにすごい。
現実味がまるでない辺りが、俺を確信へと導いていた。
「殺すわよ。いえ、殺すわ」
澪の足元から粒子がすごい勢いで噴出し始める。
このまま属性化で炎に変えて放たれたら、流石の俺も死ぬかもしれない。
「まあ夢だから大丈夫だけどな」
ふにふにと頬をつまんで遊び続ける。
「いつまでやってんのよ!」
手が払いのけられると同時に、ゼロ距離で炎化が炸裂した。
「うぎゃあ!」
熱いし痛い。
反射的にガードしたものの、さすがにノーダメージとはいかなかった。
最後に威力をコントロールしてくれてなかったら本当に死んでたかもしれない。
「現実だったのかよ……」
「当り前よ! もういいからさっさと行きなさい!」
俺は尻を蹴飛ばされながら入場口へと向かった。
◆◇◆◇◆
『皆さま、大変永らくお待たせいたしました。本校初となるステージⅣ以下、なんとそのステージはⅡ! さらになんとSクラスに抜擢されるという、超期待の新入生! そして何やらあの最強無敵のお嬢様との婚約のお噂も…。柳健志くんの入場です!』
「おい、どれだけ火に油を注ぐ気なんだ。大火事じゃ済まない爆発だぞこれは」
「盛り上げるのが実況さんのお仕事だもの。当然ね。さ、行きましょう」
「え、お前もついてくるの?」
「いいからいいから」
「いやちょっと待って――おいっ!」
話している途中で澪に突き飛ばされ、不自然な体制で入場を果たす。
ブーブー! 帰れ帰れ! 爆発しろ! 澪たんは僕のモノだぞ!
「また随分な歓迎だな」
最後なんか危ないの混じってるし。
「ぼーっと突っ立ってないの。来なさい」
後から続いてきた澪は俺の手を取った。
「積極的なんだな」
「こうでもしないと、アンタは進まないでしょう」
そのまま引きるようにしてリングまで先導される。
『おーっと、いきなりラブパワー全開です! これは二人とも大物ですね!』
「もうやめて。恥ずかし過ぎてヒクヒクしちゃう」
「ちょっと、気持ち悪いから乙女みたいな事言わないで」
「乙女みたいだと? いっそここで全部脱いでやろうか。本当に乙女かもしれないぞ」
「見たくないわよ! ほら、上がって」
リングの前まで来て、繋がれていた手が離される。
少し、手が湿っぽい。
これは、間違いなく澪の手汗だろう。
隣の澪を見る。
大勢の前で手を繋いだことが原因…じゃなさそうだな。
コイツは、俺よりも遥かに緊張しているようだ。
自分から俺をこんな所に放り出しておきながら、どこかで自分の目を――俺の力を信じ切れずにいるんだろう。
大勢の前で婚約者候補なんて言い出したのも、俺の反応を面白がってというだけではなく、何か覚悟を決めるための台詞だったのではないだろうか。
そもそも、いくら学園長の娘だからと言って、無理矢理俺みたいな人間を入学させるなんていうのは結構な難関だったろう。
アイツも、無理を通すのにそれなりのリスクを背負っているのかもしれない。
何のつもりでそんな事をしているのかはわからないが…
一応アイツは恩人だしな。親切なお嬢様の為に、ちょっとだけ頑張ってあげよう。




