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それは初耳だったよ

「これで全員だな。こいつら現在の一年生代表を務めるメンバーとなる。学園の対抗戦や危険度の高い任務を任せる者は、この中から選ばれる事となる。まさにお前らの顔となる存在という訳だ」


 まだ静まり返っている体育館に、学園長の声が響いた。


「異能師とは、強さこそがその資本となる。軍や警察、資産家の警護など、どのような任務であろうと必要とされることに変わりはない。異能の力をもって、敵を制圧する事こそが全てなのだ。当然、命を懸けることは常となる」


 散漫としていた場の空気が、一気に引き締まる。

 異能師であれば、もう子供の頃から何度も教わっているようなことではある。

 だが、目の前のこの男が口にすると、なんと重く聞こえてしまうのだろう。


「実績を積めば名は上がる。名が上がれば、己の能力をも広く知られる事になる。それは敵にさえだ。対策を講じられて挑む戦闘も多くなる。その中でもやるべきことに変わりはない。だからこその、自己紹介だ」


 壇上に上がっている奴らは、同世代の中でも飛びぬけた能力を持っている。

 将来には、そういう戦闘に挑む事になるのだろう。

 そういう心構えは大事にしても、いきなり入学初日からというのはどうなのだろうか。


「そして、異能は異能をもってしか防ぐ術を得ない。よって、異能師と非異能師には埋まらぬ溝がある。だが異能師同士ならどうか。異能の力の大きさで全てが決まるわけではない。だからこその柳なのだ」


 ん。

 今俺褒められてるよな? 悪い気はしない。

 ただ、異能師を養成する高校では、低ステージは入学試験さえ受験させてもらえない事も多いと聞く。

 だからこそ、俺は最初からステージレベルに合った高校しか受験していなかった。

 挑まずして最初から諦めていたのだ。

 

 だが、今この場にいるやつらは違う。

 異能の才に溢れ、己の力を信じ、厳しい受験競争を勝ち抜いてきたやつらだ。

 その中でもさらに秀でたものが、Sクラスとしてこの壇上に上がっている。

 確かに学園長直々のお言葉ではあるが、そんなやつらが果たして、異能の才なくしてこの場に立っている人間がいる事に納得がいくものであろうか。


「ステージⅡでの入学というのは、長く続くこの異能学園でも史上初となる。その上Sクラスともなると、この場に新入生のみならず、上級生にも不満を持つものは出よう。そこで一つ、論より証拠といこうではないか」


 俺が史上初なんて初耳だ。

 いや、異能学園のこと自体別次元のものとして見ていたから、そもそもわからない事だらけなのだが。

 俺にこんな扱いをして、澪のお嬢様は一体何を考えていらっしゃるのだろう。

 それよりも最後の論より証拠ってなんだ。

 …とてつもなく嫌な予感がする。


「不満のある者は式の終了後、実技室に来い。直接確かめてみるが良い。もしも柳を見事討ち取れば、こいつの代わりにSクラスへ昇格させてやろう」


 今まで静寂に包まれていた館内が、どっと沸き上がる。

 同時に、俺に多数の熱い視線が注がれる。

 

 特に最前列のアイツなんかヤバい。ここまで聞こえてきそうなくらい鼻息を荒くし、目を血走らせている。

 真ん中の方のあいつも中々だな。ナイフを舐めながらこっちに殺気120%のスマイルを来れてやがる。

 後ろの方のあいつに関しては、もう俺に何か放とうとしていないか?


「最後は、新入生総代からの挨拶で締めくくるとしよう。水無月澪、壇上へ」


 そういって、学園長は一歩後ろに下がった。

 艶やかな黒髪を靡かせながら澪が壇上へ上がると、殺気立っていた館内がまた静寂に包まれた。

 俺とはまた違った熱い視線が、今彼女に注がれている。

 皆見惚れている、とでも言った感じだ。

 確かにルックスは中々だからな。色々と慎ましいが。 


 一瞬澪と目が合う。

 殺気が飛んできたような気もするが、ここは気づかなかったことにしよう。


「はじめまして。水無月澪よ。先ほど紹介のあった柳は、私の婚約者候補筆頭にもなっているわ」

 

 衝撃の新事実だった。

 館内が、今日一番のどよめきを見せる。


「優秀な遺伝子を欲するのは当然の事よ。もしも彼を倒せるだけの実力を持つ殿方が現れたら、そのお方を筆頭候補として歓迎するわ。私からは以上よ」


 話し終えた澪さんじは、壇上からウィンクを下さった。

 実にキュートだ。

 一般の生徒のみならず、壇上にいるSクラスの男子諸君からも熱い視線が飛んできている。

 だが、何よりも強烈なのは、一歩下がってお話を聞いていた学園長――お父様から放たれる千パーセントの殺気だった。

 

 やってくれたな、澪お嬢様よ……。


 こうして、数十分のうちに俺は新入生のほとんどの男を敵に回してしまった。

 隣にいる直人は心配そうな目で俺を見てくれている。

 それだけが、俺の唯一の救いだった。

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