表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

やりすぎ

「異能学園の体育館っていうからどんなすごい施設かと思ったけど、意外と普通なんだな」 

 

「どんなのが出てくると思ってたのよ。ここで行われるのはこういう集会か、ただのスポーツよ。異能の実技なんかには実技場を使用するしね」


「でも、ちょっと不自然だね」


「なにがでしょう?」


「見りゃわかるだろ。椅子が少なすぎる」


 新入生だけで入学式を行うにしても、あまりにその椅子の数は異常だった。

 

「十六……ちょうどSクラスの人数分ね。」


「僕たちは、用意された席に着いておくようにって言われてたよね」


「他のクラスの人たちも見当たりませんし、座っちゃいましょう」


「ああ……そうだな」


 横並びに四人着席する。

 他のSクラスのやつらも、特に迷うような素振りは見せずにその席に腰を下していく。

 こうして他のクラスメイトを見ると、なんかというか妙に貫禄を漂わせているやつが多い気がする。

 新入生といえども、鳳月学園のSクラス。

 澪や楓を始めとして、普通のやつはいないって事か。


「俺以外はな」 


「何を言っているのですか。アナタがナンバーワンに普通とは程遠い存在です」


 澪を挟んで一つ隣の楓がツッコミを入れてくる。

 思わず口に出てしまったのは最後のたった一言のはずだ。

 まさか、こいつには俺の考えが読めているとでもいうのだろうか。


「任せてください。健志の事であれば、今日のパンツがブリーフということまでわかります」


「なんやて!」 


 当たっている。

 今日の俺の相棒は、履き心地抜群のもっさりブリーフだ。

 異能などではない。

 楓はその観察眼によって俺を把握している。

 恐ろしい女子よ……。


「ちょっと、私を挟んでよくわからないやり取りをするのはやめてもらえない?」


「失礼しました、澪お嬢様」

 

「すんまへん」


 俺がちょっとした恐怖体験を終えると、後ろから足音が聞こえてきた。


 軽く振り向くと、二列に並んで生徒が歩いて来るのが見えた。

 別に親御さんや上級生の拍手に迎えられるなんてことはないが、実に入学式らしい光景だ。

 続々と入場してきて、ついには体育館の三分の一を占めたところであろうか、人の入りが止まる。

 

 俺たちの後ろに、ビッシリと立って並んでいる。


「やっぱ少子化は関係なかったんだな」


「当たり前でしょう。Sクラス以外は一クラス40人で、A~Eクラスまであるわ。今年の新入生は全部で二百十六人ね」


「色々と詳しいんだな。恐れ入るぜ」


「それも当たり前の事よ。だってここの学園長は、私のお父様だもの」


「マジで――おっ」 

 

 会話の途中だったが、アナウンスが入った。


「只今から、入学式を執り行う。学園長からの挨拶だ。静粛に」

 

 藤宮先生の声だな。

 声だけでも息が詰まりそうになるくらい、ビシっとしていた。

 やっぱり、結構俺の苦手なタイプなのかもしれない。

 

 舞台袖から一人の男が出てきて、壇上へと上がる。 

 二メートルに迫ろうかという長身に、筋骨隆々と言った感じの身体つき。

 まさに、熊という表現が相応しいだろう。

 たっぷりの貫禄に、袴がよく似合っている。


「我が学園長の水無月章蔵だ。Sクラスの生徒、壇上へ上がれ」


 話し方も豪快だった。

 マイクなんかいらないレベルの物凄い声量をしている。

 

「いくわよ」

 

 隣の澪に声をかけられる。

 壇上の熊の娘が、この色々と慎ましめのガール…だと…?


「事実は小説よりも奇なり、ですね」


「やかましいわ」


 先を歩く楓に、またもや考えを読まれる。

 軽口を叩きながらも壇上に上がり、横一列に並んだ。


「回れ右だ」

 

 なんとなくで学園長の方を向いて並んでいた俺たちだったが、どうやらご意向とは違っていたようだ。

 それにしてもなんでもない一言なのに、この人が言うと無駄に迫力があるな。


「自己紹介をしてもらう。名前とステージ、異能の系統とその能力までこの場で晒せ。虚偽の発言は許さぬ。左端のお前から順番にだ」


 館内が少しざわつく。

 さすがのSクラスの面々も、少々困惑しているようだ。

 異能師にとって、己の能力を晒すことは可能な限り避けたいはず。

 手の内を知られて不利になることはあっても、有利になることはまずない。

 学園長様は一体何を考えているのだろうか。


「花園杏です。ステージⅥの属性化系統で、雷を操ります」  


「よし、次」


 さらっと言い放ったけど、ステージⅥて…

 今の段階で、この国の全異能師の中でも上位二十パーセントに入る実力ということになる。

 さすが鳳月学園のSクラスというわけか。


 その後も自己紹介が続き、ついに俺たちの番になる。

 ここまで軒並みステージⅥ続きだ。

 …ヤバい、変な汗が出てきた。


「美月楓です。ステージⅥの物体化系統で、鎌を使います」


 屋敷で会った時は、なかなかお強めの~なんて目で見ていたが、なかなかどころじゃなかった。

 滅茶苦茶お強めの冥土さんだったわけだ。

 次は澪だな。

 

「水無月澪です。ステージⅦの属性化系統で、炎を操ります」


 壇上を含め、体育館中がどよめく。

 ステージⅦとなると、この国の全異能者中上位五パーセントの存在だ。

 才ある者が、何十年という絶え間なき修行を積み重ねやっと到達出来るレベル。

 ステージⅥとⅦ。数字の上では一つだが、そこには途方もない差がある。

 新入生でありながら、そこに立っているものがいる。

 その事実が、このエリートの集う空間にどよめきを生んでいる。

 

 今がチャンスだ。

 

「直人、次変わってくれ。この流れで俺はマズイ。マズすぎる」   


「いいの? このインパクトの後なら、次の自己紹介はみんなの印象に残り辛くなると思うんだけど。健志も自分の能力をあまり大勢に知られたくはないだろう?」


「大丈夫だ。その権利を贈呈しよう」


「わかったよ。ありがとう」


 そういって、俺は直人と立ち位置を替わった。

 まだ館内のどよめきは収まっておらず、スムーズに替わることが出来た。


「次」


「桐生直人です。ステージⅥの獣化系統で、打撃技を駆使します」 


 直人は獣化系統か。

 この肉体であれば、異能に頼らずとも相当な打撃を繰り出せそうな気もする。

 

 だいぶ落ち着いては来ているものの、まだ少しざわつきが残っている。

 この空気ならなんとか… 


「次で最後だな」


「柳健志です。ステージⅡの憑依系統で、武器を操ります」


 館内が、一気に静寂に包まれる。

 皆様、唖然としておられる。

 だから言っただろう? 俺がSクラスはやりすぎだって……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


名前:花園杏

異能系統:属性化

ステージ:Ⅵ

能力:操雷。電撃を駆使した戦法で、遠距離戦を得意とする。 

所見:名門花園家の長女に相応しいといった能力値ですね。

   旺盛な好奇心があらぬ方向へ進まぬよう、しっかりと節度を持った学園生活を送ってほしいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ