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ナイスな筋肉だね

 寮に入ると、もう何人か受付前で手続きの順番を待っていた。

 俺もその列に加わり、少しすると順番が回ってきた。

 中年くらいの男性が作業している。


「お名前は?」


「柳健志です」 


「Sクラスの生徒さんですね。寮は二人一組の相部屋となっております。柳さんのお部屋ですが、相手の生徒さんがもうお先に入られてますね」


「わかりました。そのまま部屋に向かっても大丈夫ですか?」 


「ええ。後、寮生活におけるルールを記載した用紙をお渡ししておきますので、一度目を通しておいてください」


「はい、これから三年間よろしくお願いします」


 受付のおじさんから用紙を受け取り、一礼してから部屋へと向かう。


「えーと、六階の……この部屋だな」 


 部屋を確認して、扉をノックしてみる。


「はーい」


 部屋の中から反応があって数秒後、ドアが開く。

 中からは、笑顔のまぶしい爽やかな青年が出てきた。

 顔に似合わず、体の方は制服の上からでも見て取れるくらいにガッシリとしていた。

 

「やあ! なかなかナイスな筋肉だね! 相部屋の人かな?」


「ああ。お前ほどではないと思うぞ。俺は柳健志。よろしくな。荷物を降ろしに来たんだが、今入っても大丈夫か?」


「僕は桐生直人だ! こっちこそよろしく! 僕たちの部屋だからね。遠慮なんていらないよ。入って入って」


 中に入ると、すぐに広めのリビングがお出迎え。

 2LDKというやつだ。相部屋とはいうものの、部屋は個別に分かれている。

 学園の寮というからそこまでの期待はしていなかったが、これは中々に快適そうだ。

 

「先に部屋の一つは使わせてもらっているよ」


 片方のドアが半開きになっている。

 少し目をやると、中にはダンベルやらチューブやらトレーニングの道具で溢れている。

 どうやらコイツは部屋をジムにしたいらしい。


「ああ。ならもう一つ部屋の方を使わせてもらうぜ」 


 筋肉雑談でも始まったら面倒なので、あえて何も突っ込まずもう一つの個室へと入ることにした。

 部屋には机やベッドなど、最低限のものが備え付けられている。

 俺は荷物を降ろして、すぐに個室を出た。

 このまま教室へ向かうとするかな。 

 

「健志、待ってくれ。一緒に行こうよ」


 部屋から外に出掛けたところで、直人に呼び止められる。

 いきなり下の名前で呼んでくるあたり、なかなかにフレンドリーなやつだ。


「いいぜ、直人」


 共に部屋を出る。

 

「健志は、どこのクラスになるんだい?」


「Sクラスだ。裏口入学だけどな」


「じゃあ、同じクラスだ。教室でもよろしくね。裏口って…その、中々面白い冗談だね」


「事実は小説より奇なりってやつだな」


「あ、あはは……」


 ちょっとブラックな雑談をしながら歩いていると、俺たちはすぐに教室に着いた。

 澪と楓は――まだ着いていないようだ。

 荷物だけおいてすぐに出たからな、当然といえば当然か。

 教室には長机がいくつか並べられていて、生徒がまばらに座っている。

 特に席順などの指定はなさそうだ。

 窓際に日当たりのよさそうな席が空いていたので、直人とそこに座って二人を待つことにする。


「直人は実力で入学したんだろ? すごいよな。やっぱりお前も名家の血筋だったりするのか?」


「実力というか、普通に入学試験でね。いいや、僕の親は非能力者だよ。名家どころか、僕は孤児院の出なんだ。親は幼い頃に他界していてね」


 軽い気持ちで聞いたつもりだったが、直人はなかなかにヘビーな事情の持ち主のようだった。

  

「そうか、すまない。軽率な質問だった。他人のお家事情なんて、ずかずか踏み込んでいいものじゃなかったよな」


「謝られるようなことじゃないさ。それに、苦しいことばかりじゃなかった。孤児院のみんなと過ごした時間は、僕の一生の宝物さ」


 爽やかなスマイルで誇らしそうに語る直人。

 なんか惚れちゃいそうだった。

 

「おホモだち?」


「屋敷にいる間、年頃の美少女たちに囲まれて発情しないのはおかしいとは思っていましたが…やはりソッチでしたか」


「年頃の女の子が変なこと言っちゃいけません」


 ご到着早々、物騒なツッコミをくださる。

 

「コイツは直人。俺のルーメイトだ」


「桐生直人です。よ、よろしくお願いします」 


「私は水無月澪。よろしく」


「美月楓です。よろしくお願いします」


 うん、実につつがない自己紹介だな。

 澪の発するお嬢様オーラのせいか、直人はちょっとかしこまってたみたいだけど。


 長机に横並びで着席すると、間もなくチャイムが鳴った。

 それと同時に、バッチリとスーツを着こなした女性が教室に入って来る。

 その凛とした雰囲気に、俺は思わず背筋を伸ばした。

 

「全員席についているな。これから三年間、ここSクラスの担任を務めることになる藤宮だ。今から体育館で入学式がある。整列して入場しろなどとは言わない。速やかに体育館へと向かい、各自用意されている椅子に着席するように」


 そう言って、藤宮先生はキビキビと退室した。

 鳳月学園Sクラスの担任であるという事からして相応に優秀な人物なのだろう。

 ただ、なんだか息の詰まりそうな人だった。


「これで全員ってどういうことなんだ?」


 教室はまだ半分以上空席となっている。

 

「そういやアンタにはまだ説明してなかったわね。掲示板まともに見てなかったみたいだし」


「ああ。クラス分けなら、先にお前が見えてたみたいだったからな」


「今年のSクラスは十六人。これで全員よ」


「少子化もここまでくるとやはり考え物だな。俺たちで頑張っていかないとな」


「違うわよ! 詳しい説明なんかは入学式で行われるはずよ。こんなところで油売ってないで、さっさと行きましょう」


 俺は澪たちに続いて体育館へと向かった。



―――――――――――――――――――――――――

名前;桐生 直人

異能系統:獣化系

異能ステージ:Ⅵ

能力:爆発的な身体能力を強化を生かした、接近戦を得意とする。

所見:環境に屈せず、努力を重ねた結果のSクラス。本当に素晴らしいですね。

   当校に入る以前から多くの任務を達成しており、その実力に関しても文句のつけようもありません。

   その報奨のほとんどが孤児院への寄付となっており、人格面においても高評価です。





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