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お嬢様に俺の高校生活を一億円で買われました  作者: てないお
血!汗!涙! 駆け抜けろ!! 黄金の筋肉ロード!!!
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筋肉

 前回のあらすじ

 直人、風紀委員会会長だった!


◆◇◆◇◆

 

 衝撃の事実が発覚した直人は、寮を出て先輩と共に風紀委員会棟へと向かっていた。


「なんでこんな事に…」


「わかりません。柳君、昨日の放送ではあんなに素晴らしい語り口だったのに…」


 そう…健志はあの前会長風間から土下座を誘うほどの圧倒的演説を見せていた。

 その翌日、衝撃の交代である。


「そんな事もしてたんでんですね…。健志は、いつから会長になっていたのですか?」


「一昨日ですね。ちょうど桐生君が倒れたその夕方に、彼は会長を倒した結果バッジが移動となりました」


「ははは…。やっぱりすごいな」


「凄いのは間違いありませんが、滅茶苦茶な人ですね」


 入学初日に実際に拳を合わせ、彼の滅茶苦茶具合を身を持って体験しているこの筋肉であるからこそ、これには苦笑いで答えざるを得ない。


 しばらく歩いた二人は、ついに棟の前まで辿り着いた。

 そして、そんな二人の前にある男が姿を現した。 


「やあ、おはよう。北条と、確か君は…桐生君、だったかな?」

 

「おはようございます、風間さん」


 一礼する先輩。


「お、おはようございます。一年Sクラスの、桐生直人です」


 続いて筋肉も礼。


「二人とも、先日はすまなかったな」


 風間、深々と礼…!

 異能師はその生まれも誇り高くあるべきなどと語っていた風間が、直人に向かって深々と、礼…!


 北条先輩、筋肉、共に呆気に取られて硬直。

 

「勝手な事だとは思うのだがな。私は、心を入れ替えたのだ。彼の放送を聞いて、己を再び見つめなおした結果だ。これからは家柄などではなく、その人物の信念を見て態度を決めようと思う」


 改心! まさに改心! 


「桐生君。悪条件であったとしても、相手に正面からぶつかっていくその精神…実に素晴らしい。さらには、その身を挺して女子をまもったその姿…誇り高き漢だ」


「あ、ありがとうございます」


「北条。君はあの夜、力ではなく意志でこの私たちに向かった。並みの者ができる振る舞いではない。君もまた、素晴らしい」


「ありがとう、ございます…」

 

「そんな君たちに私は何という事を…。改めて、謝罪させてくれ」


 地に膝をつき、上半身を屈め出す風間。

 それは紛れもなく、土下座の構え…!


「おやめください、風間さん!」


「そうです! 僕も先輩も見ての通り元気ですし、風間さんからそのお言葉頂けただけでも、もう十分です!」

 

 直人は風間に駆け寄り、地面に触れようかとしていたその上半身を抱え起こした。


「桐生…」


「風間さん…」


 お互いに手を差し出し、ガッチリと握りあう。

 互いを認め合う、熱い握手が交わされる。


「ん…? 桐生、そのバッジは…」


「あ、ああ…」


 この至近距離、嫌でも目に入る!


「そ、そのことも含めて中でお話しましょう!」


 北条先輩の提案を受け、三人は風紀委員会棟の中へと進んだ。


◆◇◆◇◆


「そんな事があったのか…」


 バッジをつけているという事もあり、三人は会長室に集まっている。

 二人は風間にこのキラキラが直人へと渡った経緯を説明した。 

 

「はい。ですので、これはやはりお返ししようと思います」


「待つんだ」


 首元のバッジを外そうとする直人に、風間は手を前に出して制止を促すポーズをとった。


「あくまで柳様はそれを勝負と称し、君に敗北したのだったな」


「その通りです」


「ならば、それを勝手に外すことは許されない。再び会長を志す者が現れ、君が勝負に敗れるまではな」


「そんな…。僕はまだ入学したばかりの未熟者です。とても勤まるとは思えません。これは、風間さんへお返しします」


 そんな言葉を聞いて、風間は首を振った。


「私とて、それを無条件で君から受け取るわけにはいかない。君が私を後継に相応しいと思ってくれたのであれば…勝負、するか」


「勝負…」


 その言葉を聞いて、筋肉が反応した。

 ピクリ…ピクリ…と。ここ三日間、まともに活動することさえ許されなかったその繊維が、強く脈を打って反応する…!


「では、風間さん。僕と勝負してください。一対一の真剣勝負です」


「わかった。謹んで、お受けしよう」


 再び頭を下げる風間。


 こうして、漢と漢、現会長と前会長の決闘が決まった。


「男の子ってなんで…」


 黙って聞いていた北条先輩であったが、この展開には流石にため息をつかざるを得なかった…!


◆◇◆◇◆


 ステージ上! 向かい合う二人! 時はまさにお昼休みという事もあり実技場は超満員!!


『突如開催されることとなった会長戦! いつの間に会長が変わっていたのか! なぜ行われることとなったのか! 謎が謎を呼ぶ一戦の幕開けです!』


 なぜかいつもより元気な解説! 

 そして両者構えたところで、試合のゴングが鳴り響いた!


「全力で行くぞ、桐生君!」 


「望むところです…風間さん!」


 両者、同時にリング中央へと駆けだす!


 実体化させた槍を突き出す風間!

 強化した拳を突き出す直人!


 両者の刃がぶつかり合った結果――!


「くっ!」


 まず押されたのは風間。

 押し負けたと悟ったその瞬間、槍を引いて大きく後方へと飛んだ。


「ぐああああああ!」


 悲鳴を上げたのは、押し勝ったはずの直人だった。

 

『おーっと! これはどうしたことでしょう! 力で押し切ったように見えた桐生君、なぜか手を抑えてしゃがみこんでしまった!』


 彼の拳には、一筋の傷が出来ていた。

 だが、それはかすり傷よりも少し深手といった程度のモノだった。

 

「驚異的な力量だな、桐生君。だが、相手が悪かった。この槍で傷ついたものは痛みを受ける。まともに過ごせば、生涯に渡って受けることなどないであろう、圧倒的な刺激をな」


「そ、それでなのですね…。うっ…」


 立ち上がれない!


「だが、誇りに思っていい。今までこの槍で傷を受けて意識を保っていたのは、君が始めてだ。かすり傷でさえ、鍛え上げられた肉体と精神を持つプロの異能師でさえも失神を余儀なくされていたのだ。君は、強靭な精神力も持ち合わせているのだな」


 恐ろしい能力である!

 強い痛みやストレスを感じた人間は、体の機能によって意識を消失してしまう。

 この風間の槍が持つのは、常人が許容出来る範囲を大幅に超過した刺激を引き起こす、まさに一撃必殺の能力である…! 


「まだ、まだ…です! 勝負は…これからだ!」


 なんと筋肉、再び立ち上がって構えを取った!

 そう、彼は常人ではないのだ! 負荷に負荷を重ねた、負荷特盛の超絶筋トレメニューを日々こなしてきた彼にとって、この程度、気を失う程の事ではなかった…!


「驚いたな…。まさかこれ程の漢であったとは。だが、やはり無理はしない方がいい。自分の状態をよく確認してみろ」


 そう、気を失ってしまうという事態は避けたものの、彼のその様はまさに異常その物であった。

 全身の毛穴という毛穴からは冷汗が吹き出し、その目からはとめどなく涙が零れ落ちている。

 痛ければ涙が出る。物凄く痛ければ、ものすごく涙が出る。

 いかに常人を越えた彼としても、これは抑えようがなかった…!


「何度その槍で浸かれようが、僕はこの足がいう事を聞くうちに根を上げるつもりはありません…!」


 不屈の闘志!


「…私はサディストではない。次の一撃で、楽にしてやろう。その黄金とも呼べる気高き意志に、敬意を表してな」


 風間の周りに粒子が大量に舞い始める。

 圧縮での一撃をもって、決着とするつもりなのだろう。


「ならば、僕も…!」


 それを見た筋肉も、一気に粒子を呼び出す。

 そしてそれを、拳の一点に集中させ始めた。


『お互い、圧縮を始めました! どうやら、次の一撃でこの試合が決まってしまうようです!』


 会場のボルテージは最高潮!

 その時、風間が動いた!


 圧縮を終えて、再び駆け始める!


「はあああああああああ!」


 雄たけびを上げ、さらに加速する!


「うおおおおおおおおお!」


 筋肉、叫び返す!

 遅れて圧縮を終え、最後の力を振り絞って前へ! 前へ!!


「桐生ーーー!」


「風間さーーーん!」 

   

 両者の渾身の一撃が、再び交わった!


 ――ヒビが入る。そして、バラ、バラと砕けていく。

 直人の拳が、風間の槍を打ち砕く…!

 さらに拳は進み、風間の腹部を捉える。

 そして、勢いそのままに打ち抜き、彼をリングからハジキ飛ばした!!


「かはっ…!」


 壁に叩きつけられ、血を吐き出す。

 その壁にめり込んだ状態で、風間は意識を失った。

 

『ラストでの大逆転! 試合を制したのは、一年Sクラスにして現会長! 桐生直人君です!!』


 会場からは大歓声! 両者を称える、大歓声!!


「い、痛い、痛いぞ…!!!」


 ぶつかり合った瞬間、さらに傷つけられた直人の拳!

 痛みが広がる、拡がる、氾がる…!!!


 薄れゆく意識の中で、歓声に迎えるべく、彼は最後に拳を天へと向かって突き上げた。


◆◇◆◇◆


『では、試合終了後のインタビューに移りたと思います! 桐生会長、本当にお疲れさまでした!』


「…」


 リングサイドへと降りて来た解説が、直人へ向かってマイクを向ける。


『ま、まさか…』


 そう、彼は既に気を失っていたのだ。

 空へと向かって拳を突き上げ、足を広げて立ったそのままで、失神していたのだ…!


『何という漢なのでしょう…』


「…筋! 肉!  筋! 肉!」


 インタビューを聞こうと静まっていた会場に、突如声が上がり始める。  

 その声の主、北条先輩その人である…!

 

「「筋! 肉! 筋! 肉!」」 

 

 呼応するようにして、声が重なる。

 その声の主、見るものすべてを虜にして止まない、ラブリーメイド楓ちゃんである…!


「「「筋! 肉! 筋! 肉!」」」


 隣にいたお嬢様も声を上げ始めた…!


「「「「「「「「「「「「「「「筋! 肉! 筋!肉!」」」」」」」」」」」」」」」 


 やがてそれは会場中に伝染した。

 昼休みが終わるまで、そのあまりに勇ましい男の背中へと送られる筋肉コールが止むことはなかったという…。




◆◇◆◇◆




「バカしかいねえ…! おい、それとなんだ最後のやつは。自分の事美化し過ぎるのはどうかと思うぞ」


 限界だった。一応最後まで話は聞き通せたはずだ。

 だが、もう突っ込まずにはいられなかった。

 …とりあえず、お茶飲んで落ち着こうぜ。

 

 ずずーっ。ホッ。ことり。

 

「筋肉への侮辱はお控えください。私を…いえ、この学園の生徒ほとんどを敵に回すことになりますよ。それに、普段自分のことイケメンイケメン美化してるのは健志じゃないですか」


「俺はただ事実を話しているだけだ」


「私もただ事実を話しているだけです」


「…」


「…」


 ずずー。ホッ。ことり。


「で、今度はアイツ全治何日なんだ」


「二週間です」


「マジで?」


「マジです。風間先輩の能力は後遺症を起こす類のものではありませんが、それでも筋肉さんにかかった負荷は甚大なものです。異常の有無についての結果を出すまでに、それくらいはかかってしまうようです」


「OH…」


 憐れよ、筋肉。

 

 俺はちゃぶ台から少し離れ、窓際に近づきカーテンを開けた。

 いい天気だ。

 後で、少し病室に顔を出しに行ってやるのも悪くないかもしれない。

 だが、まずは…


「昼寝だな」


「そうですね」


 楓はその場でちゃぶ台にもたれかかって頭を伏せ、目を閉じた。

 俺もちゃぶ台へと戻り、対するようにして顔を伏せる。


 別に個室に戻ってベッドで寝ても良かったのだが、なんとなくここで少し寝ることにする。

 思えば、ここに来てから昼寝などしたことはなかった。

 

 入学してから七日目。

 初めての安息。俺は幸せを噛みしめながら、吸い込まれるようにして眠りに落ちた。


――――――――――――――――――――――――


血!汗!涙! 駆け抜けろ!! 黄金の筋肉ロード!!! 完

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