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超越

「確認となるのだが、君の異能は憑依系統のステージⅡ、この点に間違いはないか」


「間違いないぜ。なんならもう一度判定してみてもいい」


「その必要はない。君の粒子判定についての資料なら、私も目を通している。そこでは粒子に違和感があり、将来適性変化を起こす可能性も指摘されていたな」


 物事には、必ずといって良いほど例外がある。異能にとってその例外の一つとなるのが、この適性変化だ。

 原因は解明されておらず、十年に一人起こり得るかという非常に稀な事らしい。

 つまり、俺は異能においても不安定な存在という事だ。


「次に、君が見せたあの圧縮についてだ。本来異能師が粒子を呼び出すと、体の周りに円を描くようにしてそれは徐々に発生する。だが、君の場合は蹴りを繰り出す方の足の周りから小さな円を描くようにして一気に発生していたな」


「ああ。別に足じゃなくたって、好きなところから呼び出せる。こんな風にな」


 身を乗り出していた体を引き、台の上に右手を置く。

 そして、その部分から粒子を発生させてみせた。


「これは…。だからこそ、あの圧縮の速度を得ることが出来たというわけだな」


 広い範囲からふわふわと浮き上がってくる物をかき集めるのは難しい。

 それに比べて、狭い範囲で一気に吹き出てくる物をかき集めるのは簡単だ。

 前提条件が違えば、同じ結果に辿り着く速さが変わるのは当然の事だった。


「特に意識したことはなかったんだけどな。いつの間にか出来るようになってた事だ」


「個人差こそあるにしろ、この範囲は基本的には不変のものだ。それに加えて足元以外からも発生させることが出来るとなると…君には異能師の常識というものが通用しないようだな」


「みんな違ってみんないい。そういう精神でいこうぜ」


「残念ながら、そうはならないだろうな。特異な存在というのは大抵、神の子としてでも祭り上げられるか、脅威として排除されるかのどちらかだ」


「どちらも御免被るな」


 知っている。理解してもいる。体験もしている。

 だからこそ、俺はあまり人前で力を示したいとは思ってこなかった。

 だが、恩人に報いぬ恥知らずになるというのは、更にごめんだ。

 力を示すことで義理に応えることが出来るのであれば、それは出し惜しまれるものではない。

 いつだって俺は悔いのない道を選ぶ。

  

「安心しろ。君はもう鳳月学園の生徒だ。そのどちらにも、手出しをさせるつもりはない。生徒を守るのは教師の、そして学園の務めだ。君は君の思うままに過ごしてくれれば良い」 


「オッケー。便意を催したらその場で開放するわ。本能の赴くままにな」


「法と校則くらいは守れ」


 呆れたといった風に、先生は小さなため息をついていた。


 こんな時になんと返せばよいのか、俺にはよくわからない。

 まさかこの俺が、守るなんて言われる日が来るとは思わなかった。

 胸のあたりに暖かい何かが生まれ、鼻の奥が少しむず痒くなる。

 冗談の一つでも飛ばさなければ、いつもの俺ではいられなくなってしまうような、そんな気持ちになった。


「少し脱線してしまったが、話を戻そう。最後は桐生との試合での能力についてだ」


「やっぱり、そこだよな。先生の目に、あれはどう映ったんだ」


「私もあの場にいた皆と同じく、生身で突っ込んでいったように見えたよ。手袋をはめているか、指輪でもつけていればあれも圧縮だと納得することが出来たであろうが、君の手には何も無かった」


 俺の持つ憑依系統は、物質に馴染むという性質を持っている。

 圧縮の使い方には二種類あり、俺が使用していたのは対異能を重視したものだ。

 粒子で粒子を砕く、そんなシンプルな使い方となる。

 もう一つは、対人、対物を重視したものだ。

 粒子の発揮する力を引き上げ、大技を繰り出す。

 楓が見せた大規模な風刃などは、こちらの使い方となる。


 そのどちらにも必須となるのが、系統能力の特性を介さなければならないという点。

 憑依化の俺であれば物質を、実体化の楓であればその鎌を介してしか発現し得ないものとなっている。

 だからこそ結論付けることが可能となる。

 あの力は、異能ではないと。

 

「正直疲れてたからな。いくら人より楽だとは言っても、あの短時間での連続圧縮はきつい。確実に勝つためには能力を使わざるを得なかった」


 理想を言えば、能力を使わずに全員倒し切りたい所だった。

 そうすれば、圧縮速度がずば抜けたステージⅡの異能師でいられただろう。

 だが、流石に相手が悪すぎた。直人は精彩を欠いた状態で勝ちをを譲ってくれるような、そんなしょっぱい使い手などではなかった。

 勝利を重き置いた場合、必然の判断だったといえる。


「その能力、ステージⅥの獣化と同じレベルでの身体強化と捕えて問題ないのか」

 

「いや、それは少し違うな。全力でやれば、多分最初の一撃で決着をつけることも出来た。だが、そんなことをしたら流石に俺もタダでは済まされなかっただろう。学園長の解説には助かったぜ」


 あれがなければ、さらに多くの人間に疑われる結果となっていたはずだ。

 圧縮の事もそうだが、きっとあの人はそれをわかって話してくれていたのだろう。

 図体に似合わない繊細な気遣いが憎いよな。


「なるほど…。君は今、幾つ能力を使用できる」


「異能の六系統なら、大体は再現できるぜ。ただ、異能と違って圧縮は使えないけどな」


 そう、俺にとって相手に圧縮の隙を与えるという事は、敗北を意味する。

 なぜならその力に対抗する異能も能力を持たないからだ。

 だからこそ、強力異能には強力な異能をもってしか防ぐ術を得ない。

 これは覆すことの出来ない事実となっている。

 

「やはりそうか。実は、私は君と同じ様な力を持つ人間を知っている。君も名前くらいは聞いたことがあるだろう。その名は――大神 京介だ」


「シャレになってないな」


 大神 京介。

 現在、この国において最強と評される異能師だ。

 異能に携わるもので、この名を耳にしたことがない者はいないだろう。

 だが、判っている事と言えば、その名前と数々の輝かしい実績くらいのものである。

 年齢や容姿、どのような異能を使うのかまでの全てが謎に包まれている。 

 秘匿されたナンバーワン――その存在自体が都市伝説ではないのか、そう疑いを持つ者も少なくはない。

 こんな場面で聞くことになる名前とは思えなかった。


「私は以前、彼の能力についての研究を行っていたことがある。君だから話すことが出来るが、彼の憑依化の異能師で、そのステージレベルは――Ⅱだ」 


「まさか…」


「さらに、彼の粒子にも適性変化の予兆があった。そして、君と同じくして粒子を使わずに力を発現させることの出来る人間だ。その力についた名称こそが、異能を超越した能力――超能力なのだ」


 俺と同じ力を扱う事ができる人間がいる…考えたことがなかったわけではない。

 まさか、そいつがあの大神とは思わなかったが。


「そりゃ秘匿せざるを得ない訳だな。だが、納得はいかないな。圧縮に勝る強力を持ちえずして最強なんて」


「何も強力な一撃を持つものが最強となるのではない。事実、彼は他の異能師を圧倒する実績を残している。そして君もまた、この学園において比類なき強さを存分に見せているだろう」


「理解はしてるつもりさ。気持ちの問題ってやつだな」


 やっぱり最強っていうからにはこう、必殺技みたいなもの持っててほしいよな。

 一発ドカンと悪役粉砕みたいな。男心はシンプルなんだ。


「…そうか。この力について現時点で判明している事はそう多くはない。私から君に伝えられることがあるとすれば、この力の本質は―――決して異能を再現する為の物ではないという事だ」


「力の本質…」


 この口ぶりからすると、先生の知っている男――大神は、その本質とやらを理解している様に思える。

 本質を理解した上で能力を使用している、と。

 だからこその、最強。

 異能を超越する能力と呼ばせるだけ何かが、この力には秘められているとでもいうのだろうか。


「悪いな。私が口にできるのは流石にここまでだ。とはいっても、ここまでも十分情報漏洩での処分に値する内容ではあるのだがな」


「いや、十分すぎるほどだ。力の謎は解けるどころか増えちまったが、有意義な時間を過ごせた」 


「それはよかった。そして、ここからは私個人から君へのお願いだ。依頼と捕えてもらっても構わない。十分な報奨は出すつもりだ」


「姉としてのって部分か。俺は一体何をすればいいんだ」


「私の弟を、助けてもらいたい」

 

「…話、聞かせてくれよ」


◆◇◆◇◆


 話を聞き終えた俺は、荷物をまとめて外へと出た。

 この部屋――この学園ともおさらばする事となる。

 …一週間ほどだが。


  正直あまり気分は乗らない。だが、どうやらこれから色々と守って頂くことになりそうだからな。

 先生には先に借りを返しておくのも悪くはないだろう。

 空には、雲がかかっている。雨の降る前の、あの憂鬱な香りが漂っている。

 門の前に車が用意されているらしいので、そこまで少し急ぐことにしよう。


 ため息を一つついて、俺は歩みを進めた。

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