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お嬢様に俺の高校生活を一億円で買われました  作者: てないお
ボーイ・ミーツ・ガールズ
2/35

冥土さん

 俺は、とある屋敷の門の前に立っていた。

 家から歩くこと数分、地図に記された場所――親切なお嬢様のお家にたどり着く事が出来たのだが、その外からでもわかる豪華な佇まいに圧倒されていた。

 なんとなく予想はしてたけど、やっぱりもの凄いお金持ちだったんだな……。

 

 このまま突っ立っていても仕方がない。

 しかし、辺りを見渡しても、屋敷の人に来訪を知らせる事が出来るような物はなかった。

 インターフォンもなければ、警備の人が立っていたりするわけでもない。

 うーん。ここは一つ、原始的な方法に頼ってみようかな。

 

「たのもう!!」


 ……。


 大きな声を出してみた。

 …ちょっと恥ずかしかった。

 いや、よくあるじゃない? あの、道場破り的なやつで?

 モノは試しってやつだよ。決して、いきなり青春したくなったわけでも、気が触れたわけでもないぞ。

 

 ――――ガラガラガラ……


 ちょっと間が空いてから、門が開いた。

 

「マジでっ!?」


 試した俺が一番びっくりしたわ。っていうかもっと早く反応しろよ!

 …とりあえず、中へ入ってみよう。それにしても、ただ屋敷に入る為だけに

 羞恥プレイに苦しめられるとは。

 親切な人は、なかなかにSな人なのかもしれない。

 

 俺が中に入ると、すぐに門が閉じられた。

 …防犯対策だよね? 中に入ったからには逃がさないとか、そういう事じゃないよね?

 後ろの事を考えてもても仕方がない。前に進もう。

 

 外からはわからなかったけど、門の中は森のようになっていた。

 ただ、道は切り開かれていて、そこから数百メートルはあるかな?

 先の方に、屋敷の様な建物が立っているのが見える。

 

 ……もしここに住み始めたら、毎日ここを歩くことになるのだろうか。

 通り抜けるにしても、数分はかかってしまうだろう。

 ちょっとコンビニに行くだけでも、結構な手間になりそうだ。

 そんな憂鬱を感じながらも、俺は屋敷を目指して歩き始めた。


◆◇◆◇◆


 もう森の道も三分の二を越えたところだろうか。

 だんだんと屋敷が近くなってきた。

 そして、人の気配も濃くなってきていた。

 

「あなたが、柳健志様ですね」

 

 唐突に、後ろから声をかけられる。

 女の子の声だ。

 声がした方を振り返ると――プリティーなメイドさんが立っていた。

 年は同じくらいだろうか。猫を連想させるような、愛らしい子だった。

 ショートカットがよく似合っている。


「ああ。こんにちは」


「こんにちは。そして、さようなら」


「え?」

 

 メイドさんが、天に向かって片手を掲げると、彼女の体の周りに光の粒子が舞い始めた。


「おい、まさか――」 


 光の粒子は吸い寄せられるようにして、彼女の手の方へと集積していく。

 それは、徐々に大きな鎌の様な形となっていった。

 そして、一瞬で光が霧散すると、メイドさんの手には、身長の倍に迫ろうかという大型の鎌が現れていた。

 

 …間違いない。

 このプリティーなメイドさんは、異能使いだ。

 しかもこれ、なかなかにお強そう。 


「アナタを冥土に送ってあげましょう。私がメイドさんなだけに」

 

 メイドさんは微笑みながら、オヤジギャクを言い放った。

 

「この状況で笑えんわ!――ッ!」


 ツッコミの途中だったが、そんな事にも構わずメイドさんは襲ってきた。

 鋭い踏み込みからの一撃を、寸でのところで横に飛んで躱す。

 鎌の行方に目をやると、直前まで俺が立っていた場所に、ざっくりと突き刺さっていた。

 そして、その場所から遥か後方の地面にまで一閃の傷が残っている。 


「シャレにならないな……」


 額から、冷汗がこぼれ落ちる。

 今の一撃を避けないか、後ろや上に飛んで回避していたら、今頃俺は真っ二つにされていたということだ。

 

「今の回避は完璧な判断でしたね」

 

 どこか嬉しそうに微笑む冥土さん…じゃなくてメイドさん。

 地面から引き抜いた鎌を、まるで棒術のようにくるくると回す。

 その様も無駄にプリティーだ。

 

 寸前で避けたのは正解だったようだ。

 もしももっと早い段階で回避をを始めていたら、それに合わせて途中で鎌筋を変えることも可能であったのではないだろうか。

 そうなれば、真っすぐ振り下ろした時よりも勢いは殺せただろうが、それでも俺の体を分断するくらいの力は十分に込めることが出来ただろう。


 ……ギリギリまで待つのは怖かった。

 正直、ビビッてちょっとだけ漏らしたのは内緒だ。

 

「ただ、今の攻撃終わりの隙に私へ攻撃を仕掛けなかったのは、大減点です。もしかして、女の子に手を上げるのに抵抗でもある方なのですか?」

 

「いや、まったく」


「……迷いなく即答されるのもどうかとはおもいますが。なら、なぜでしょう。千載一遇の大チャンスでしたよ?」


「あの、色々と聞きたいのは俺の方なんだけど……」


 このメイドさんの一撃は、確かに人一人殺せるくらいのものだった。

 だが、そこには含まれるはずのもの――悪意や、殺意みたいなものが微塵も見えなかった。

 それどころか、そこに見えたのは…


「問答無用です。あなたにその気がないのなら、次で確実に仕留めます」


「ちょっと理不尽すぎませんかっ!」


 メイドさんが、鎌を大きく振りかぶる構えを見せた。 

 

「これで、さようならです」

 

 恐らく、大技を繰り出す気なのだろう。

 小手先の技術などでは絶対に避けることも、ましてや防ぐことも出来ない、異能という力で圧倒する、そんな一撃を。


 その攻撃にどんな意味が込められているのかは分からない。

 ただ確実なのは、その一撃が放たれれば最後。俺の命はないという事だ。


 強力な異能に対抗するためには、自らも強力な異能を持って対するしかない。

 だが俺は、その肝心の強力な異能なんて使う事が出来ない。

 ならば、やることはたった一つ。

 強力な異能が放たれるその前。

 ―――イチかバチか、玉砕覚悟で突っ込む。

 

「シンプルイズベスト!」

 

 俺は思い切り地面を蹴って、駆け出す。

 飛び込む相手がプリティーなメイドさん相手で本当に良かった。

 相手がムサい男だったら、ちょっと足が鈍っていたかもしれない。


「早い……!」


 一瞬でメイドさんの懐へ入り込み、勢いそのままにメイドさんの鳩尾に掌

底を打ち込んだ。


「――っ!」


 声を上げることも出来ず、メイドさんは膝から崩れ落ちた。

 意識を失ったようだ。

 

 だが、やはりなぜだろう。

 顔を覗き込むと、満足しきったような表情でノビびていた。


 このままスルーして行くのも優しさ―――というわけにもいかず、俺はメイドさんを抱え上げ、おんぶする形で背負った。


「うーん。訳アリみたいだったけど、なんだかなぁ」


 何故だろうか、背中に少し懐かしい重さを感じながら、再び俺は屋敷へと歩き出した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


名前:美月楓

異能系統:実体化

ステージ:Ⅵ

能力:大型の鎌を実体化。鎌その物での近接戦ではなく、振り抜いた際に生じる風刃での中距離戦を

   得意とする。 

所見:十五歳ながら、既に高位のステージへ到達している素晴らしい逸材ですね。

   彼女のご両親については残念な事となってしまいましたが、その分の幸せを彼女には掴んで

   貰いたいと切に願います。

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