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キラキラ

 待ち構えていた副委員長と愉快な仲間たちを倒した俺たちは、棟の中を散策していた。

 残っている奴がいたらシメてやるつもりだったが、もうここにこれ以上の人の気配は感じられなかった。


「この部屋で最後だな」


「会長室、と書いてありますね」


 フー、フーー。


 二人で扉の前に立ち、深呼吸をする。

 

「いよいよラスボスのお出ましだな。ちゃんとセーブしとこうぜ」


「回復薬もお忘れなく」


 目を合わせて、お互い頷く。

 そして、俺は右手を、楓は左手を扉へ向けて差し出す。

 昨日の戦いのせいか、少し傷ついてしまっているごつごつとした男らしい手。

 冥土としての日々のせいか、少し苦労を感じさせる小さくて愛らしい手。

 やがて両の手は重なり、その扉を押し開いた。

   

 ――そして、その扉の向こうに現れたのは…


 現れたのは…


「とても綺麗なお部屋ですね」


「ああ。手入れが行き届いてるな。毛の一本すら落ちていない」


「あれでしょうか。今日はいらっしゃってなかったとか」


「かもな。もしくは…」


 一番考えたくない可能性だ。


「まさか、ですよね?」


「やめろ、そんなはずないだろ」

 

 自称副会長は俺たちをこう呼んでいた。

 不意打ちで会長を倒したお前たち、と。

 

 少し屋への中に進んでから振り返ると、扉の上の方には歴代の会長と思わしき写真が並んでいた。

 古くはモノクロから、近代のカラー写真までずらりと顔が並んでいる。

 ざっと流し見ていくと、遂に彼を見つけてしまった。


「おい、あのシュッとした感じの男…」


「四天王最弱の彼、ですね。まさかチャンピョンだったとは…」


 ………。


 無言で写真に背を向け、部屋の中を進む。

 奥にはガラス扉があり、その向こうにバルコニーが見えた。

 そこに向かって、二人でゆったりと歩く。


 扉を開いて外に出ると、少し肌寒い風が頬を撫で、夕焼けが目に染みた。

 手すりに肘をかけ、大きく溜め息をつく。

 

「…疲れたな」


「…疲れましたね」


「今日のお前は、中々に理不尽だったな」


「はい。健志には遠く及びませんが」


 苦笑いを浮かべざるを得ない。

 

 チラっと、隣のメイドさんへと目を向ける。 

 茜色に照らされた小さな横顔は、俺とは対照的に今日一番のラブリースマイルが咲き誇っていた。 


◆◇◆◇◆


 やることの無くなった俺と楓は、お嬢様への報告がてらに一度医療棟へ戻ってきていた。

  

「やあ健志。美月さんも。ずいぶんと無茶をしたものだね」


 病室に入ると、既に意識の戻っていた直人から声をかけられる。


「無茶はお前だ。真正面から五人相手にするなんて、なかなかイカれてるぞ」


「そうですよ。お筋肉は大切になさってください」


「たった二人で委員会棟に乗り込んだ君たちにだけは言われたくないよ…」


 少し呆れた風に言ってくれる。


「勘違いするなよ? 俺が倒したのは二人だけだ。不意打ちでな」


「私は三十人くらいです。不意打ちでですね」


「え…?」


 筋肉が硬直している。


「ビックリするよな。こんなラブリーなやつが大勢を一撃で」


「驚きますよね。会長と会長補佐をそれぞれ一撃で倒す新入生がいるなんて」

 

「待ってくれ。二人で、僕に対しての扱いに抗議へ行ってくれてたんだよね…?」


「ああ。拳でな」


「鎌でですね」


「君たちってやつらは…」


「滅茶苦茶だな。楓さんやべーわ」


「滅茶苦茶ですね。健志さんべーです」


 三人で顔を見合わせる。

 誰からともなく吹き出し、笑い声で病室が包まれた。


◆◇◆◇◆


 直人に別れを告げて病室を出ると、出入り口の付近で澪と出くわした。

 医療棟に次々と生徒が運び込まれてきており、それを面白そうに眺めていらっしゃった。


「澪様、ただいま戻りました」


「ただいま。おい飯はまだか? 風呂は? それとも私は?」


「おかえり。まずは、私からね」


「ここでも積極的なんだな」


「ええ。それで、会長を倒したのはどっち?」


 セクハラにも動じず、お嬢様は悪戯っ子のような笑みを浮かべて問いかけてくる。


「健志です」


「えっ!?」


「なんで驚いてるんですか」


「それは哲学的な質問だな」


「特に意味はないんですね」


「うん」


 言わんとするべきことを的確に捕えてくれている。

 きっと将来は良いお嫁さんとなるぞ、楓さんよ。


「さすがというか、やっぱりね」


「つい、うっかりな。あれは事故だ」


「なんでもいいけど、これ、受け取りなさい」


 澪から何やらキラキラしたバッジを差し出される。


「おいおい。俺がそんなキラキラ貰って喜ぶとでも思ってるのか? もう今年で十六を迎える男だぞ。馬鹿にするなよ。仕方ないから貰ってやるけどな」


「アンタの目、めっちゃキラキラしてるけど」


 バッジを受け取り、首元につけた。


「うおお…かっけぇ…。似合うか? 似合うだろ? 似合うな」


「ええ。とてもよく似合っているわ。会長」


「元がいいからな。なんだって似合ってしまうのはしょうがない…ん?」


 不穏な単語を聞いた気がする。

 

「気のせいだな。帰るわ」


「はいはい。お疲れさま」


「ばいばいびー」


 澪とラブリーに見送られ、俺は寮への帰路へとついた。

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