コンドル
「行くぜ、マイメン」
「いつでも大丈夫ですよ、バディー」
「ちょっと待て」
「どうかしましたか?」
今まさに、棟の扉を開いて中へと踏み入ろうかという瞬間だった。
「ちゃんと合わせろよ。オッケーメーンでいいんだよ。バディーはまた別の機会にしようぜ。今日はメーンの気分なんだ」
「オッケーゴーグル」
「…」
「…」
「……!」
「……!」
せーのっ。
「「カチコミじゃあああああ!!」」
二人同時に蹴りを繰り出し、目の前の扉をぶち破った。
目と目が合う。
もの凄く、目と目が合う。
俺と楓の目が合っているわけではない。
恐らくは、風紀委員であろう方々が、いっぱいいらっしゃった。
「待ち伏せとは卑怯なり!」
「そうですよ! 正々堂々、いざ尋常に勝負しなさい!」
恵体の男が、一歩前に出て来た。
「…不意打ちで会長を倒したお前たちに、そのような事を言われる筋合いはないわ!」
そうだそうだ! この卑怯者たち!
「全部見ていたぞ。大声がしたので何事かと思い外に目をやると、貴様らが会長に呼び止められているのが見えたのだ。委員長は対話によって貴様らを制そうとしていらしゃっただろう? そこであろうことか…」
――ブンッ!
唐突に、冥土さんは肩に抱えていた鎌を正面に向かって振りぬいた。
その先の地面に一閃の傷を引きながら、刃ともいえる風が走る。
そしてそれは、話しの途中だった彼へと見事に直撃した。
「――かっ!」
その恵体は宙を舞い、遥か後方にあった壁へと激突した。
楓はかなり加減をしたのであろう。
そうでなければ、無防備であった奴の体は今頃真っ二つに裂けていたに違いない。
屋敷で一度身を掠めたあの時とは、まるで威力が違う。
「先手必勝、不意打ち上等。戦いに卑怯も何もあるものですか。片腹痛いですね。強者こそ、勝者こそが正義なのです。あんまりガタガタ言ってると鎌しますよ?」
既に鎌してから言う辺りが実にラブリーだな?
外道め! 見下げ果てたぞ! くせ者じゃ! 出合えい! 出合えい!
「おい、中に悪のお代官様混じってないか? さながら上様の気分が味わえそうだな」
「スケさん、カクさん、やっておしまいなさい」
「それは黄門様な」
「お前たち、随分と余裕を見せているが、この状況が分かっているのか?」
呼びかけに応じてか、十余名程であった委員の方々は、三十名にも及ぼうかという集まりを見せていた。
「会長のみならず、副会長までも卑劣な手段で討つとは…。全く持って、言語道断である。会長補佐であるこの私が断罪してやろう」
男はスチャっと、眼鏡を上げた。
その仕草がかなり板についている。
あれ、絶対練習してるよな。夜な夜な鏡の前とかで。
涙ぐましい努力だよな。
いや、そんなことより…
「あの人たち、全く学習してませんね。また語り始めましたよ。ヤバい人たちです」
「もはやこれはフリだな。空気読んでもう一回不意討とうぜ」
「ふざけるな! 全員構えろ!」
「遅そいわ」
眼鏡との距離は数メートル――俺なら一瞬で迫れる距離だった。
支持を出す瞬間手を前に突き出し、いかにも指揮を執りますというポーズをとっていた為に、眼鏡だけは構えを取るのが遅れていた。
「随分と余裕を見せていたのは、どっちなんだろうな?」
「なっ――」
暇は与えない。
ガラ空きだった顎に掌底を叩き込むと、勢いよく上まで吹き飛ぶ。
そして勢いそのまま、天井に頭からめり込んだ。
「軽くホラーですね」
「ちょっとコンドル捕まえに行ってきてもいいか? どうしても試したいことが出来た」
「却下です。動物への虐待は認められません」
委員会の方々は、上を見上げてフリーズしてしまっている。
「そろそろ行きます。健志、ジャンプしてください。なんならお隣にめりコンドルするくらい高く」
「はいよ」
彼らの時が止まってから十秒ほどたった頃だろうか。
楓は圧縮を終えていた。
何人かはやっと異変に気付いたようだが、時すでに遅し。
大きく振りかぶっていた鎌を、前方目がけてフルスイングする。
とてつもない速度で委員会の方々が後方へと吹き飛んだ。
仲良く壁に叩きつけられ、失神していく。
俺が跳躍を終えて地上に降り立った頃、その場に立っていたのは――超絶イケメンな美男子と、ラブリーな冥土さんの二人だけだった。