第八話
僕の訓練が走り込みから木剣を使った実践的なものに切り替わってから早いもので一ヶ月たった。
前の世界で仲間の剣士にだいぶ鍛えられてたことが幸いして僕は、身体強化なしならノイマンさんとも模擬試合で勝ち越せるまでになっていた。
最初のうちは、勘を取り戻すのに苦労したが、取り戻してからはノイマンさんをはじめ橘達や他の騎士達が驚くほどだった。
その話を聞いたエル様は、僕に装備者の身体能力を強化する(魔法より効果は劣る)腕輪と騎士団が使用している剣をくれた。
この腕輪がなかなかいいもので、魔力がなく身体強化が出来ない僕にとっては、かなり重宝するものだった。
……あれ?こんな便利な腕輪があるなら最初からくれればよかったんじゃないの?
あの地獄のような走り込みは、一体なんだったんだろう。
まぁ、いろいろあったけどそれなりに力をつけたことで、僕も橘達がしていたように冒険者ギルドに登録をして簡単なクエストなら1人でもこなせるようになっていた。
もっとも橘達は、ついこの間は、竜の討伐に成功したらしい。
文字通り僕とは次元が違うレベルで成長している。
そうした中ついに橘達の実戦投入が決定された。ちなみにこの作戦に僕も後衛の支援部隊としてついて行くことが決まった。
相変わらず結城は、心配していたが自分だけ安全な所でただ待っているだけなのも落ち着かないので、僕としては問題はなかった。
作戦内容は、魔人族の3つある拠点の1つを攻めるというものだ。
今回の作戦は、アーク王国、カレラ王国の二国が中心となって行うらしい。
作戦の実行日が近づいてきた。
今回攻める魔人族の拠点は、カレラ王国の王都から東に馬で一週間ほどの所にある。
僕達は、今隊列をなして移動している最中で、移動中は暇なのでそれを紛らす為に結城が馬車の中で僕にアーク王国の勇者について教えてくれた。
ちなみに橘と神城は、先遣隊として先に現地へと向かっておりいつものメンバーは、僕と結城の2人だけだ。
「光輝の剣?」
僕は、結城の言った言葉をオウム返しで聞き返した。
「そう。アーク王国の勇者が、そういうに呼ばれてるんだって。」
アーク王国の勇者って確かノイマンさんが凄い美少女って教えてくれたな。
随分大層な呼ばれ方をしているんだな。
「へー二つ名?がついてるなんて凄いね。」
結城がにっと笑い、首を縦に振った。彼女のトレードマークであるポニーテールも一緒に揺れてなんだか犬の尻尾みたいだ。
「ねっ!なんでもその勇者さんの必殺技っていうのかな?それを見た人達がそういう風に呼び始めたらしいよ」
必殺技か、そう言えば僕も前に行った異世界ではよく叫びながら使っていたな。今思い出して見ると恥ずかして布団に潜りたくなる。
確か当時の僕は、高威力で派手な今のアーク王国の勇者の人の二つ名みたいな技を好んで使っていたなぁ。
「じゃあ、今回の作戦で結城が活躍したら、もしかして結城もそういう風に呼ばれたりするかもね。」
「うーん。もしそうなったら、かっこいいのがいいなぁ。」
結城は、腕を組んで考えるそぶりをした。
結城って意外とそういうのにこだわりがあるんだな。
初めての魔人族戦を前に少しずれたことを考えてしまっているのが、ちょっと心配だ。
「作戦だと結城達は、アーク王国の勇者の人と一緒に敵の主力部隊と戦うんだよね?」
「そうだよ。っていっても橘君はともかく、私やリサは、大火力の攻撃魔法は、まだあんまり使えないからほとんどアーク王国の勇者サポートって聞いてる。彼女の討ち漏らした敵の無力化が、主な役割かな。」
「そっか。今更だけどとにかく気をつけてね。」
「もちろん。というか八神君も気をけてよ?後方支援だからって戦闘になる可能性は、十分にあるんだから。……ってなんだか前の方が騒がしくない?」
「え?」
結城に言われて前を見ると、確かにちょっと人だかりが出来ているのが見えた。
その中心にいるのは、カレラ王国の騎士みたいで顔は、血と泥で汚れており身につけた鎧は、ボロボロになっている。
その姿を見て、ぞわりとした感覚と共に背中にいやな汗が流れるのを感じた。