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母の定義  作者: 七草せり
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宿る命

卵子提供。

当初は姉の卵子を採取し受精させる予定だった。

けれど年齢的にも、身体の面でも卵子採取は困難とされたのだ。


遺伝子的にも私が親になってしまう。

義兄とは子供にとっては両親になる。


いくら姉妹だからと言って、それは如何な物だろうと思ったが、子供を求める二人。

問題はないと言う。

しかし……。私だったら嫌だ。いくら姉の子供でも、自分の子供として育てる事ができるのだろうか。


益々複雑な人間模様になりつつあるが、名家の中では関係ない。

私の妊娠が判明したら、上手く誤魔化し義兄の両親と姉は別に暮らすらしい。


表向き、姉が出産するのだ。

初めての出産。しかも跡取りが誕生するとなれば、義兄の両親とて嫁の言いなりだろう。


肩身の狭い思いはしなくて済むが、新たな何かが渦巻き、襲いかかる様で落ち着かない。


しかし、今は体外受精と無事の妊娠を願うばかりだ。


家系に病気の者はいないか。おかしな事はないか。色々質問された。


直に姉がそうであるのがネックになるが、妹の私を始め、特に家系に弱者はいない。

遠い先祖は知らないけれど。



かくして私は無事に卵子を採取できた。

後は受精させ頃合いを見てお腹に戻す。


慣れない事だらけで、もう根を上げてしまいそう……。


「頑張ってよね。 あと少しなんだから」

私につききりの姉。


毎日の様に私の世話をやく。


やはり、嬉しいのだろう。

けれど。時々見せる姉の表情は複雑な顔になる。


当然の事だが、致し方ない。

嫁としての役割を果たせない姉。

色々な葛藤がある。


それでも望んだのだ。今更後戻りなど出来ない。

努めて明るく温和に接する。


両極端な姉妹。少しだけ姉を姉と認識できる日々であろうか。



受精卵が無事に分割した。


私は時期をみてお腹に戻す作業をされた。

カテーテルを使い、慎重に戻す。

後は着床を待つのみ。


不安と緊張の生活。

もし……。着床していなかったら。

また繰り返すのだろうか。


はっきり言って、もう嫌だ。

自由もないし、自分の身体なのに制約があるし。


祈り、着床を待った。



受診日。


不安の中結果を待った。


「おめでとうございます。 無事着床です。

お分かりかと思いますが、無理やストレスなく過ごして下さい。 次回の受診日は……」



姉はの顔が輝いた。

医師を無視して私に抱きつく。


「おめでとう。 ありがとう香乃子! 本当にありがとう」


医師の顔は複雑だった。事実を知るからこそ、複雑な心境だろう。


けれど、名家の申し出。

断れない。

いや、自分の為にもなるのかも知れない。


「奥様……? 先を進めても?」


神経質そうな医師が、眼鏡をくいっとあげた。


「あらやだ。 すいません。 嬉しくて」


私から離れ、大人しく隣の椅子に座った。


嬉しいと言う姉だが。本心はどうだろうか。

余計なことをまた考えてしまった。



医師から様々な説明を受け、また本来ならばされない話も突き詰めて聞いた。


我が子であるが、我が子でない。

姉も極力母としての自覚を持つべきだとも、

説明された。

遺伝子的には母でないが、血の繋がりはある。


他人事として受け取らない事。


それは大丈夫だろうが。

義兄との夫婦としての理解も必要だと言う。

完全に我が子として、姉が生んだ子として受け入れる事など、未知の説明がなされた。


私達はむろんその覚悟はある。

しかし人間だ。

歯車が狂わないとは限らない。


胸に宿る小さな不安。チクリと刺す。


まだ人間として形成されていない命に、翻弄される様で、やるせない気持ちになる。


しかし今は、この命を無事にこの世に送り出す。

私の役目は始まったばかりだ。

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