04-さようなら村のスローライフ
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<黒>が襲撃した日から始まったクラーラさん村への滞在は2週間を超えた。
村長さんに聞いたら、迎えの船は木材の積み出し船でもあると言う事で、後1週間位は滞在すると言う話だった。
最初は、他の村も回る予定だったけど、予定がキャンセルされてこの村に長期滞在になったんだと言う。
やっぱりクラーラさんって、何かやっちゃって、ほとぼり冷ましに来たんじゃないのかとの疑惑が深まる。
僕に害が無いので問題ないけど。
いや、全く害が無いと言うと語弊があるか。
クラーラさんと魔法のアレコレを研究と言うか練習をしていると家の仕事が全くできない。
なので時々、母さんの視線が痛い。
ご飯のイモが減った気がする。
なのでクラーラさんに遠回しに、家事手伝いの時間も必要なのでと相談した。
せめて午前中は家の手伝いをしたいのだと。
「それはそれは、気を回していなかったな」
納得してくれた。
その上で父さんたちと面談した。
「御子息をお借りし、御迷惑をおかけしていますわ」
お嬢様な姿でニッコリと笑う。
その笑顔は100万vだ。
「ですので、これは気持ちです」
追加攻撃、物理だ。
少し重そうな革の袋、出て来たのは銀貨だ。
それもここら辺で使われている銀片貨じゃなくて、綺麗な円形をした銀貨だ。
初めて見た。
あれが純正の10gr銀貨って奴か。
それが何十枚も。
「おぉ」
寡黙な父さんが声を上げた。
驚くよね。
村の物価じゃ、10枚もあれば普通の4~5人の家なら1週間は喰えるもの。
それが何十枚も出て来たのだ。
「フェイ、しっかりとお嬢様に付くのよ」
母さんの、笑顔満面での言葉。
売られた気分。
取りあえず、金で片が付くのは楽で良いけどね。
この夜、ご飯のイモの量が増えた。
嬉しかった。
買収されて家の手伝いは免除された僕だが、村の賦役までは免除されない。
と言うか自分で言うのも何であるが僕は土木作業では優秀なのだ。
魔法が使えて、その上で知識があるので。他の村の人達が経験を基に作るモノより良いモノが作れるからだ。。
特に土木工事は任せろな状態なのだ。
伐り出した木材を川から流す前に一時的に保管しておく場所の整備に始まって、トロッコみたいな切り出した木材の搬出するシステムも作った。
無論、他の村人たちに訝しがられぬ様に、子どもの新しい発想 ―― 魔法のお蔭で実現したと思って貰える程度に自制しつつだけども。
とも角、今、命じられたのは川港の拡大に伴う土木工事、その手伝いだ。
この村に接している川は緩やかだけど、大雨の時には村に被害が出そうな勢いで荒れるので、石なんかで、川港を護る為に防波堤的なものを作るのだ。
僕の役割は、堤の基礎を作る為のコンクリートブロックみたいなものを土の魔法で作る事だ。
「偉大なるレオスラオの名に於いて ――発動せよ大地の力! 凝縮石片」
川砂や石、それに貝の欠片や動物の骨を魔法で接合させて作るブロックは、1片が100kgはありそうな大きさだ。
僕の生み出すイメージで、テトラポッドっぽい形で生み出されたそれを、大人の人達が2人がかりで運んでいく。
大変そうな作業だけど、そこら辺の石を集めて堤を作るよりは遥かに楽なのだ。
原料と言うか、砂や石の接着剤代わりの貝の欠片や動物の骨と言ったが大量に無いと出来ない技だけど、今回、ゴブリンたちの死体から骨を大量に採取出来たので出来たのだ。
大人たちも、<黒>の襲撃は迷惑だけど、今回だけは有難いと笑っていた。
こうして以前からの課題だった堤作りは、都合3日で一応の完成を見る事となった。
「魔法の使い方に驚いたよ」
「派手ではなくてですか?」
僕にもう少し魔力と才能があれば、それこそ石人形なりを作り出して、そのまま堤に出来るかもしれない。
だけど、そんな僕をクラーラさんは窘めるように笑った。
「そんな事を言うものじゃ無いよ、立派だ。フェイ」
頭を撫でられた。
母さんと違う、柔らかな手がこそばゆい。
「私もオスティ子爵家で港の工事を見学した事があるけれど、君たちのやっている事の方が効率的に見える」
クラーラさん曰く、オスティ子爵領では何人もの魔法使いが一緒になって何日もかけて大地を隆起させ、防波堤を作ったのだと言う。
その上で護岸の為に、石を表面に張り付けたのだと。
確かに時間が掛かるし大変そうだ。
褒められたのも嬉しい。
だけど、使い道が違う気がする。
僕たちが作ったのは川の流れから港を護る堤であり、対してオスティ子爵領で作ったのは船の接岸できる防波堤だと思うのだ。
「そう思うのか?」
「はい、多分ですけど」
「ふーん、フェイは子どもだけど思慮深いな」
褒められた。
可愛い女性に褒められるのって、何度でも嬉しいものだ。
「おーい、フェイ!」
小父さんに呼ばれた。
何か手伝う事があるみたいだ。
「失礼します」
クラーラさん達に一声掛けて、川岸へと走る。
「どう思う?」
「野に人ありと、資質のある子どもだと思います」
「拾いたいのだが?」
「人材があればと、海大伯様より許可はいただいて御座いますので」
「では、手を回すとしよう」
夕方、クラーラさんが付き人さんと一緒に家に来た。
凄い豪華な、貴族らしい服装で来た。
開口一番、クラーランは僕に向かって言った。
「フェイリード、君は広い世界を見てみたいとは思わないか?」
「え?」
フルネームで呼ばれた瞬間、風が走った様な気がした。
クラーラさんが僕の家に来た理由は、スカウトだった。
父さんと母さんに頭を下げて、説明する。
今度、クラーラさんは王都の魔法の学校に入学するのだと言う。
その際、僕を一緒に連れて行きたいのだと言う。
出世、なのかな。
「彼には知恵がある、であれば学ぶ場が与えられればもっと育つと思うのですよ」
「仰られる事は親として嬉しいです。だが我が家にはこの子を学ばせれる余裕がありません」
父さんが苦い顔をする。
王都に留学とか、幾ら金が掛かるか判らないものね。
妥当妥当。
とは言え、行ってみたくはあるよなぁ、王都。
働きに行くならとも角、勉強だったら楽しくて良いと思う。
「そこは我がオスティ子爵家に任せて貰って大丈夫ですわ。そして我れらがオルディアレス伯爵より、領内に芽のある子どもが居れば世話する事も頼まれていますので」
自分の領内の子どもで才能があるのは伸ばしたい、と。
確かに俺がもっと色々と魔法が使えるようになれば、この村の開拓も先に進む訳だから、オルディアレスの伯爵さんもそら金を出すよね、と。
クラーラさんが革の袋を付き人さんに命じて出した。
あ、見た記憶が。
「そしてこれは、あなた方への謝礼だ」
金貨が入っていた。
「………」
父さんが黙り込んだ。
判る。
母さんに抱きしめられた。
「行きたい?」
のんびりとスローライフが夢で、周囲100mな感じで生活出来るこの村は好きだ。
だけど、興味がある。
剣と魔法の世界の大都市とか、見てみたい。
好奇心は止められない。
「行ってみたい」
「そう………だって、ねぇ、父さん?」
「そうか」
父さんにも頭を撫でられた。
久しぶりな気がする。
この夜は父さんと母さんと一緒に眠った。
子ども扱いだ。
子どもだけど。
王都か、クラーラさんと一緒に勉強する事となった。
期間は約3年くらいとの事。
漸く、この村での生活にも馴染んできたのに残念だけど、楽しみでもある。
どんな所なんだろう、王都って。
王都に留学すると決まってからの日々は早かった。
開拓村の木っ端な家の住人なのだ、私物なんて無いから気楽なものだ。
着の身着のまま、後は自分で作った魔法が良くなじむ魔法の杖、1本だけ。
食料も野営道具も要らない。
川を下るのも、海を越えてオルディアレス伯爵領に、そしてオスティ子爵領まで行くのも船だからだ。
気楽だけど、こんなに手軽く旅立って良いのかなとも思う。
思った所で僕に出来る事なんて無いけどね。
「さぁ行くよ、フェイ」
取りあえず、差し出された手を僕は握ったのだ。
起承転結で何かダラダラだと思ったら、この主人公、同世界のアッチやソッチの連中に比べて血圧と血の気が少なかった。
そら、戦闘とかアレコレにならないヨネー
Yes! スローライフ=ダラダラ人生