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第一話 ゴールド=攻撃力

実験的に書いてみたお話。こちらは今のところ不定期投稿とします。

感想、評価などお待ちしております。



「えーっと、オークキングを倒すには10000ゴールドってとこね」


 黄金の妖精は、微笑みを浮かべながらそう言った。


 俺の全財産は10468ゴールド。

 ありえない。承服しかねる。

 こんな横暴が許されていいはずがない。

 地道に稼いだ俺の血と汗と涙の結晶。

 命と同じ――いや、それ以上に大事なカネを全て失うなど。


 だから、力いっぱい叫んだ。


「ふざけんな!! それじゃスッカラカンになっちまうじゃねーかバカタレ!!」


 両目を吊り上げて怒る俺とは対照的に、目の前に浮かんでいる妖精はどこ吹く風だ。緩いウェーブのかかった長い金髪に、黄金色の服。そして金細工のアクセサリーを身に付けた、美しい女の姿。人形のように小さいが、その身体つきは出るところがしっかり出ていて豊満である。


 特に胸まわりが。

 


「私はあなたの選択に任せるけど……でも、おカネ払わないと死んじゃうわよ?」


 そう。このクソ忌々しい妖精が視線を送る先では、山みたいな怪物がこっちに向かって突進して来ていた。



 オークキング。


 様々な場所に出現する人型のモンスター、オークの上位個体だ。

 支配階級に属するオークであり、俺のような一般的冒険者には到底太刀打ちできるようなモンスターじゃない。


 並外れた図体、腕力、凶暴性。

 そしてなにより、ケタ外れの耐久力。


 ヤツは熟達した戦士や魔法使いが大勢集まって、ようやく対抗できるレベルの相手なのだ。オークキングの手には、大人の人間と同じくらいの大きさをした巨大な包丁が握られている。

 あんなものを食らった日には、俺など簡単に三枚におろされてしまう事だろう。


 そして目の前の、体長三十センチほどの妖精は退屈そうな顔をし、緊張感の欠片もない声で言う。


「それで、どうするの? おカネを払うか、ここで死ぬか。どっち?」


 完全に他人事なその態度に腹が立って仕方がないが、もはや猶予は無い。

 あまりにも悔しい。

 財産を失うくらいなら、いっそ死んだ方が――いやそれは無いな、うん。


 命は大事。古文書にもそう書かれている。


 仕方が無かった。

 断腸の思いとはこういう事かと歯を食いしばりながら、俺は叫ぶ。


「だーっ、分かったよ! 全部持って行きやがれチクショー!!」


 ヤケクソ気味に俺は腰の長剣を抜き、突撃してくるオークキングに向け構える。


「はーい。10000と468ゴールド入りましたー」


 妖精が能天気な声を出すと、俺の右腕に嵌まった金の腕輪に『10468』の数字が浮かび上がる。


 まごうことなき俺の全財産だ。


 金の腕輪と、長剣の刀身が黄金の輝きを帯び、全身に力がみなぎってくる。

 今の自分であれば、巨大な岩でも叩き斬れるはず。

 不思議と、そんな実感があった。


 俺は剣を上段に振り上げ、そして裂帛の気合と共に振り下ろす。


「うおりゃああああああああ!!!!」


 オークキングが手にした巨大包丁を振り下ろそうとするより一瞬早く、俺の斬撃がオークキングに届く。



 ザンッ――!!



 一直線の光の筋が、オークキングの脳天から股にかけて走る。

 直後、オークキングの身体は左右真っ二つに割れ、臭い体液を撒き散らしながら両側に倒れた。

 そしてもう二度と、モンスターが動き出すことは無かった。


「……おお?」


 ふと目をやると、地面には俺の放った斬撃の跡が遥か遠くまで伸びている。

 ただの冒険者が放てるような攻撃でない事は、誰が見ても明らかだった。


「すげぇ……これが10000ゴールドの威力、か……だよな、ここまで貯めるのに五年もかかったもんな」


 常軌を逸したその光景を前に、俺はフッとニヒルな笑みを浮かべる。


「わぁ、やったわね。ほら、私の言うとおりにしといて良かったでしょう?」


 目の前をひらひらと飛び回る金色の妖精に目をやりつつ、俺は剣を腰の鞘に納める。

 そしてすうっと息を吸い、今の純粋な感情を全力で表現することにした。


「お金返して!!!! 俺の10000ゴールドーーーーーーー!!!!」


 涙と鼻水を盛大に噴き出しながら、俺は絶叫する。


 冒険者にしてトレジャーハンターのロックと、おカネの妖精カーネとの出会いは、ここから少し遡る――。




 事の始まりは、とある遺跡を探索した事だった。


 魔神ゴルドー。金銀財宝を司ると伝えられる古い神の名である。


 魔神ゴルドーを祀った遺跡に関する有力な情報を手に入れた俺は、他の冒険者に先を越されまいと一人で遺跡に向かった。


 曰く、ゴルドーの遺跡には金銀財宝が山のように眠っているという。

 ただの噂だと吐き捨てる奴もいたが、俺はそうは思わなかった。

 根も葉もない噂なら、そんな話が古くから残っているはずがない。

 それに山のような金銀財宝という言葉に、俺の冒険者魂が強く疼かずにはいられなかったのだ。


 財宝さえ手に入れれば、後は一生働かずに遊んで暮らせる。

 金さえあれば地位も名誉も権力も、そして女も思いのままである。


 なんと素晴らしい響きだろうか。


 気が付くと俺は、魔神ゴルドーの遺跡へと足を進めていた。

 暗い森を抜け、深い谷を越え、遥か人里離れた奥地にその遺跡はあった。


 遺跡の入口を見つけ、中に足を踏み入れた俺は狂喜した。


 そこは目も眩むほどの黄金、金貨。大粒の宝石の数々。

 あらゆる財宝が山のように積み上がった、理想郷の如き光景が広がっていた。


「ははは、やった……! ついに見つけたぞ! 俺はやったんだーーーーー!!」


 これだけの宝があれば、国を買う事すら夢じゃない。そう思った。


 だが、その中にひとつだけ変わった物が置かれていた。


 いかにも特別といった具合に台座に置かれていたのは、黄金に輝く腕輪だった。

 見たこともない細かな細工と模様が施された見事な物だったが、中央に横長の長方形をした部分があり、そこは平らで文字や模様がまったく刻まれていない。


「なんだこりゃ。まさか未完成品ってことはないだろうけど……それにしても凄い出来だ。相当な値打ちものだぞコイツは」


 俺は台座に置かれた腕輪を取ろうと手を伸ばす。

 そして指先が腕輪に触れた瞬間、そこで意識が途絶えた。


「……はっ」


 気が付くと俺は、ゴツゴツとした古い石床の上に寝転んでいた。

 周囲はかび臭く、床と同じく古びた石壁があるだけ。

 この世の天国だと確信した、あの黄金の数々はどこを探しても見当たらなかった。


「な、なんだとぉぉぉぉぉーーーーー!? ちょっと待て、俺の財宝は!?

 泳げそうなほどの金ピカはいずこ!?」


 どれだけ喚いても探しても、確かに見たはずの財宝は影も形も見当たらなかった。


「嘘だ……あの質感、存在感、あまりにも生々しかったのに……」


 肩透かしに絶望し、その場に両腕を付いてがっくりとうなだれたその時だった。

 俺は自分の右腕に、いつの間にか黄金の腕輪が嵌まっていることに気が付いた。


「こ、これは……やっぱり夢じゃなかったのか!?

 いや、逆にどうしてコレだけが残ってる……?

 それに俺は腕輪を身に付けた覚えは――」


 言いかけたその瞬間、腕輪が光を放った。

 薄暗い遺跡の中を照らす程の輝きに驚いていると、その光は塊となり、腕輪を離れて宙を舞う。

 驚いて言葉も出ない俺の目の前で、金色の光は別の物へと姿を変えた。


「はぁーっ、久しぶりに外に出られたわー。何年くらい眠ってたのかしら」


 能天気な声でそう喋ったのは、身の丈が三十センチほどしかない小人だった。

 ゆるいウェーブのかかった長い黄金の髪と、黄金色の服。そして金細工の装飾品を身に付けた、美しい女の姿をしていた。

 彼女は人形のように小さいが、その身体つきは豊満である。

 特に胸まわりが。


 彼女の背中には光で出来た二枚の羽根があり、それをパタパタと動かして宙に浮かんでいる。


「なっ、なんだお前は!?」

「んー、あなたが新しい相棒ってコトね。私はおカネの妖精カーネ。

 うふふ、ヨロシク」


 ふわふわとした口調で返事をしたその妖精、カーネは俺の回りを飛び回り、品定めするようにジロジロと眺めていた。

 なんとなくそれが不愉快に感じたので、俺は素早く手を伸ばしてカーネを捕まえた。


「きゃっ、急になにするの。レディは丁重に扱いなさいって習わなかった?」

「そんなことはどうでもいいんだよ。お前カーネとか言ったな。

 こりゃ一体どういうことだ」

「どうって、なにが?」

「俺は確かに見たんだ、この部屋を埋め尽くすほどの財宝を。

 その中にこの腕輪もあった。それが気付いたら財宝は消え失せてて、勝手に腕輪が嵌まってるわヘンな妖精が出てくるわ。どうなってるのか、ちゃんと説明しろ」


 ぐっと顔を近付けて俺が言うと、カーネは顔を赤くして、俺の指を掴みなにやら踏ん張るような仕草をしている。


 カーネは身体こそ小さいが、出るとこはしっかり出ているスタイルだ。

 人間と同じサイズなら、さぞいい女に見えたことだろう。

 俺の手の中でもがいていたのは、大きな胸がつかえて苦しかったらしい。


「もう、初対面の女性にいきなりタッチは良くないわよぉ?

 もっと指の力を緩めてくれると嬉しいな」

「いや質問に応えろっつーの。俺の財宝はどこ行った!?」


 強くそう聞き返すと、カーネは俺の指をするりと抜け出し、ふわりと宙返りをして笑う。


「ふふ、そんなものないわよ。だってアレ、人間をおびき寄せる幻なんだから」

「ちょ、ちょっと待て……まさかこの腕輪は!」


 カーネは頭の後ろに両腕を回し、ピンポーンと気の抜けた声を出した。


「そう。これは呪いのアイテム。あなたみたいに欲の皮が突っ張りきって、

 アレが幻とも気付かないような人間をおびき寄せるための、ね」

「ふ、ふざけるな、こんなもん――!」


 俺は慌てて腕輪を外そうとしたが、どれだけ力を込めようとも、皮膚と一体化したかのようにビクともしない。


「あ、人間の力じゃこの腕輪は外せないわ。

 ちなみに腕を切り落とそうとしても無駄だから、早まっちゃダメよ」

「な、なんだと! おい、お前は一体何が目的なんだ!」


 焦った俺が尋ねると、カーネは悪い顔をしてニヤリとほくそ笑む。


「うふふ、決まってるじゃない。もちろんお・カ・ネ」

「……は?」


 しばらくの間、その場に沈黙が続いた。





補足:


1ゴールド=100円くらい

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