第41話 来襲
「聞いたわよぉ、冒険者ギルドで話題だったんですってぇ?」
次の水曜日。案の定、トマスさんとトリニダードさんがバイト終わりのパロマ青果店に現れた。
「ああ、その話ですか。それなら詳しいことは、プリニオに聞いていただけましたら」
「もちろん聞いたさ。そしたらやっぱり、訓練法を編み出したのはロドリゴだっていう話じゃないか」
「やっぱりってなんですか、やっぱりって」
前回と同じく、彼らは俺をジュースの屋台に誘い、それとなくベンチで誘導尋問を始める。しかし今回、彼らの来訪は予測していた。しかも二度目だ。トマスさんの耳が光ろうと、トリニダードさんのオーラの色が変わろうと、動揺したりしない。
「そもそも君は、冒険者に興味がないって言ってたじゃないか。なのにどうして武術スキルを覚えようと思ったの?」
「えっと、スサニタさんに棍術を勧められて」
二人は「あー、ね?」って顔をしている。スサニタさんの棍術勧誘は有名なんだろうか。
「それで、その奇妙な掛け声はどこから?」
「いや、単なるリズムの問題っていうか」
「やぁだ本当のこと言いなさいよ、誰にも言わないからぁ。剣術の素人が、基礎スキルをすっ飛ばしていきなり連撃とか回転撃とか覚えられるわけないでしょ?」
「そうだぞ、ロドリゴ。チャーシューメンだかゴマミソタンタンなんて、聞いたことのない呪文だ。とても偶然で思いついたとは思えない。なにか知ってるんだろう、その神秘のマントラについて」
「は? 神秘?」
「ポンシオが言っていたわ。ゴマミソを貶める者は、その恩恵に与ることは叶わないと」
「いや、食わせねぇっつったんですけど?」
「なぁによぉ、パスタの名前だったのぉ?! それならそうと早く言いなさいよぉ!」
トリニダードさんはすっかりやる気をなくしたようだ。彼女を取り巻くオーラもすっかり紫から緑に戻り、トマスさんの耳の光も消えた。
「それにしてもよくそんな料理の名前を知っていたな。俺も一応情報通を自負しているが、チャーシューだのゴマミソだの聞いたこともなかったぞ」
「あっえっと、大旦那様からお借りした本で読んだような……?」
「あーなるほど、ペラモスの先先代は行商で大陸を超えて旅をしていたとかいう話だものね」
危ない危ない。情報の出所を明かすわけにはいかない。
「そうなんです。私も本で読んだだけで、実物を再現できたわけじゃないんですよ。なんせこの近辺では、山椒なんかの香辛料が全然見つからなくてですね」
「あらっ。じゃあそれこそ、ギルド案件じゃない?」
「えっ?」
「そうだぞロドリゴ。商業ギルドで依頼を出せば、珍しい素材の情報が手に入るんじゃないか?」
その発想はなかった。
「それでは、痺れるような刺激のスパイスと、豆を発酵させた調味料についての情報。報酬は、銀貨一枚ということで間違いないですか?」
「はい、ありがとうございます」
トマスさんとトリニダードさんに連れられて、流れるように商業ギルドへ。そしてカウンターでテオバルドさんが手早く依頼書をまとめ、ものの半刻(一時間)で依頼が成立した。
「それにしても、舌が痺れるなんて毒なんじゃないのか?」
「その刺激と香りが、坦々には不可欠なので」
「ふぅん。クリーミーなのに爽やかなんて、ちょっと気になるわね?」
「でしょう! 辛いのお好きなトリニダードさんなら絶対ハマりますよ!」
「おや。既に何度も召し上がったことがあるようなおっしゃり方ですね?」
「うえっ? あ、あの、そう本に書いてあったので……!」
細けぇことはいいんだよ。とにかく、実物を食ったらそんなことどうでもよくなるんだから。図らずも胡麻味噌坦々への道が開かれて、俺は興奮を隠し切れなかった。




