第14話 不労所得
その翌日、ペピトは不労所得について呆気なく叶えてしまった。俺のなんちゃってスイーツレシピを、早速商業ギルドに仮登録したのだ。
あんなもん、子供騙しもいいところ。クレープシュゼットもどきはクレープ生地にジュースを掛けただけだし、タルトタタンもどきもリンゴと生地を混ぜて適当に焼いただけだ。似たような菓子なんて山ほどあるだろう。俺は、あれじゃとても商売にならないと思っていた。
「ふふっ。人と人を繋いで価値を生み出すのが商人だよ。君もそう言っていたじゃないか」
彼のしたことは、まず商業ギルドに行ってレシピの登録をすること。その際、料理人を紹介してもらって、レシピのブラッシュアップを依頼する。レシピ使用料は、その料理人と折半。
そして今、俺はその料理人ことペドロさんの店で試作品をいただいているところ。彼は俺が描いた拙いイメージ画を元に、前世のものとほぼ変わらないスイーツを完成させた。
「すごい、完璧です。俺のイメージ通り」
「ふふん、まぁなぁ。ほんじゃこれで登録しとくか」
「ええ。バターと砂糖とふんだんに使ったものがこちら、雑穀を使った安価なものがこちらでよろしいでしょうか?」
「平民向けはそんなもんだろうが、お貴族様向けはもうちょっと取った方がいいんじゃねぇか?」
夢中で試食する俺をよそに、ペピトとペドロさんはサクサクと条件を詰めていく。承認作業などもあるので、正式登録は一ヶ月ほど先になるだろうが、翌々月にはまとまったお金になるだろうとのこと。
「しかしこんなもの、本当にお金になるんでしょうか。パンケーキにジャムを乗せるとかそういうのは普通にありそうですし……」
「くどいな。まずこんな貧民が食うような雑穀パン、甘味に使うヤツなんかいねぇよ」
「そうそう。単純な組み合わせだけど、だからこそ登録したもの勝ちなんだよ。今後三年、似たようなものを作ろうとすると、使用料を払うか、もしくは回りくどい改造をして、同じレシピじゃないって証明しなきゃいけない。その手間を考えれば、使用料を払ったほうが安いのさ」
貴族は流行に敏感だ。目新しいレシピがあればすぐに取り入れて自慢したいものだし、もしレシピを無断使用すれば、茶会や夜会ですぐにバレる。一方庶民は、家でコピーしてもバレない代わりに、素人の見よう見まねでは再現度が低い。店や屋台で出したら無断使用がバレる。こちらもやはり、レシピを買った方が安全なのだ。
「しかし、庶民用のレシピはわかるがなァ。このバターと砂糖をたっぷり使ったレシピ、お前さんどこで思いついたね?」
「えっ」
「寮のキッチンで作った時も、やけに盛り付けにこだわっていたしね。君のご実家の食卓は、さぞ充実していたことだろうね?」
「ハハッ」
くそっ。微妙なとこ突っ込んでくるんじゃねぇよ。
その後、レシピ名は「パロマの涙」と「ペネロペの薔薇」で登録された。パロマとはバイト先の青果店のおばさん、ペネロペはペラモス商店の奥方様だ。こうして方々にゴマを擦ることも忘れない。もちろん、本登録前にペラモス家具店の上層部とパロマさんにも根回し済み。パロマさんはえらく恐縮していた。
「アタシなんかが小洒落た菓子の名前になったら、ガッカリされちゃうよォ」
しかしその後、レシピ名から青果店に人が訪れ、オレンジがバカ売れしてパロマさんから感謝されたのだった。




