第100話 月曜日の朝
月曜日の朝から、俺たちのスケジュールはこうだ。まず支店に出勤し、二人して掃除。それから、俺は当主の邸宅に出かけて掃除洗濯の下働き、からの事務室の手伝いと店番の手伝い。ピオ氏は事務室と店番の併用。およそ初日の仕事に、邸宅の仕事が加わっただけだ。
俺の取り扱いに関しては、まあ仕方ない部分もある。王都支店では、奉公人を受け入れていなかったのだ。ビダル氏や本店に渡ったウルバノ氏、バスコ氏などの店員は、バレリオ氏が引き抜いてきたらしい。
そもそもバレリオ氏は、当代の奥方ペネロペ様の実家キケロ織物店から連れてきた番頭らしい。そして引き抜いてきた若手も、キケロ商店の者たち。ペラモスが王都に支店を出すにあたり、政略結婚と同時に業務提携、人的交流があるとは聞いていたが、ここまでとは。看板がペラモスなだけで、中身はほとんどキケロ商店と同じだ。
そんなわけで、当主の住む邸宅に下働きに来た俺は、庭掃除を秒で終わらせたところ、さっさと叩き出された。よそ者が、家の中までのうのうと立ち入るなということらしい。オーケーオーケー。俺も一昨日の夜のような会食は、二度とごめんだ。
そして再び本店に戻ったところ。
「ふん。お前のような冴えない田舎者にバネサお嬢様が釣り合うわけがない。次代の店主は俺だ。覚悟しとくんだな」
始業時間ギリギリに出勤してきたビダル氏に、いきなり先制パンチを喰らった。
「てか、ビダルさんってバネサ様狙いだったんですか? 正気?」
「正気とはなんだ! バネサお嬢様を愚弄する気か!」
「愚弄もなにも。多少造形が整っているとはいえ、あのクソガ……元気なお嬢様とお付き合いなんて、死んでもごめ……恐れ多いというか」
「トボけても無駄だ。お嬢様以外に後継者のいないペラモスだ、婿に入れば手に入れたも同然。しかもペラモスはキケロの最大取引先、つまりキケロの半分が俺のもの。こんな旨い話に飛びつかない奴があるか」
「ちょっ、そんな大声で話したらバレリオさんやピオさんに聞こえるっていうか」
「バレリオ様はご存じで俺をここに入れたんだ! ウルバノとバスコは失敗した。だが俺はここで負けるわけにはいかん!」
うーん。そんなこと言われてもな。
「あのっ、その点につきましては、俺、昨日婚約いたしまして……」
「なんだと!!」
「で、ロドリゴ。君が婚約したっていうのは本当なのかい?」
そしてお昼。俺はなぜか秒で叩き出された邸宅に舞い戻り、二度とつきたくなかったテーブルでランチをいただいている。今日のお誕生日席は、現当主のパトリシオ様。そしてお隣のペネロペ夫人と合わせて、二人から鋭い視線が投げ寄越される。
「あのっ、流れでそうなったと言いますかっ」
「しかも相手は銀の魔女だそうね。まったく、お義父様もやってくださるわ?」
「いや、父上はバネサの婿にロドリゴを据える計画だった。君のご実家、キケロの介入なのでは?」
「まさか。キケロとて、ペネロペの薔薇を考案した金のガチョウを手放す気は――まさかバレリオ?」
「ご、誤解でございますペネロペお嬢様! 私めはお嬢様とバネサ様の幸せだけを願って!」
なんだかな。俺を詰問しながら内輪揉めすんの、やめてくんねぇかな。
「それにしても、君も彼女と婚約など思い切ったことをしたものだね。年齢差などは気にならなかっ……むぐ」
「あなた、魔女の年齢について言及してはいけないわ。呪われますわよ?」
「そうだぞ。お前、バネサお嬢様に色目を使っておきながら、どうしてあのような女豹に!」
「いえ、アラスのお二人とはポルセルからのお付き合いですし、大変尊敬してるっていいますか」
「ふむ。まさか魔女がこのような幼い子供に興味を示すとはね……」
「それよりも、婚約は婚約ですわ。ロドリゴが成人するまで、まだ四年もありますもの。その間に気が変わることもあるでしょう。ね、ロドリゴ?」
「え、あ、はぁ」
「ええい忌々しい。魔女に魂を売ったかと思えば、未だバネサ様を諦めておらんとは。男の風上にも置けん!」
「こら、バレリオ。お前が朝、ロドリゴを追い出したのは知っているのだぞ。ペネロペの侍従だからと甘く見ていたが、ペラモスに不義理を働くつもりならその限りではないよ」
「お前の忠義を疑うわけではないけれど、疲れているようなら暇を差し上げてよ?」
「ヒッ、お嬢様! そんな!」
目の前で繰り広げられるゴタゴタ劇。俺は今、なにを見せられているのだろうか。




