第10話 投資
しかし不動産投資については、プロスペロさんがあっさりと答えを出した。
「どこでその発想を得たのかわからんが、不動産は基本領主様のものだ」
「なるほど」
不動産投資についてピオさんが回答できず、質問はプロスペロさんに投げられた。そして事務室で検算の仕事を手伝いながら、プロスペロさんからもたらされた答えがそれ。事務室の皆さんもうんうんと首を縦に振っている。
そうだ。ここは封建社会だった。平民の権利など紙のように軽い。土地も国民も貴族のもの、彼らの資産なのだ。もちろん国によって多少の差はあるだろうが、この辺は大体同じ感じだという。
土地は基本的にすべて借地。もちろん、借地に上物を建てて貸し出す不動産業もなくはないが、ほとんどが商業ギルドの管理物件で、収益の多くは領主の懐に入る。大規模に投資してウハウハなんてのは、仕組み的に不可能なようだ。
「それでは株式投資など」
「なにかねそれは」
しまった、この世界にはまだ株式がないのか。
「ふむ、事業に投資して利益の分配を得るというのはよくあることだ。だがしかし、お前の想定するような大規模な事業となると、領主様や大貴族とコネがなければ参加はできまい」
例えば鉱山の採掘とか商船とか、美味しいヤツほど貴族が絡む。まあそうだろうな。庶民の個人投資といえば、せいぜい身近な人物が事業を興すのを支援するか、自分で事業を興すかくらい。
他に俺が調べたことがある投資といえば、外貨預金やデイトレードとか。しかしこちらでは、ネットどころか為替もままならない。ううむ、生活インフラは多少魔法で補えたところで、やはり文化レベルの差は埋まらないな。
あとは副業だが、Webライター、アフィリエイト、動画編集、情報商材、全部無理。印税を得ようにも、本自体がまだ高額で普及が進んでおらず、一般家庭では滅多と見られない。筆耕は現在活版印刷に淘汰されつつあるところ。そもそもちまちま写本なんてやってられるか。
そして写本といえば代書。代書は商人のポピュラーな内職で、ここの店員さんも何人かやっている。しかし需要は限られていて、小さいパイの奪い合いだ。うーむ、あとはなにがあったっけ。フードデリバリー? せどり? いや古本屋も古着屋もあるしな――
いや副業じゃない。俺は早期リタイアを目指しているのだ、働き口を増やしてどうする。投資の元手を増やすことは大事だが、不労所得を得る仕組みとは程遠い。
「いっそ新興宗教でも始めるか……」
「それは神殿が黙っていないだろう」
その後、ハンドメイドを内職とか薬草を内職とか、思いつく限りのパターンを投げてみたが、生産系は大体土属性の独壇場。それから薬品系は神殿が噛んでいるらしかった。うーん、詰んだ。
「結局、商人は店を持って隠居するのがいいのだ。うちのご隠居のような方が一番の成功者なのだよ」
そう。結局は、土属性の職人が作ったものを売り捌いて儲ける、うちのような商店の主が勝ち組だってこと。そして一定の年齢になったら後進に譲って、老後を悠々と暮らす。しかしそんな商人は、ほんの一握り。ほとんどは勤め人で終わり、老いるまで働き詰めということみたいだ。なんてこった。
「それで、働かずに食う方法は見つかったかよ」
「それが、既得権益の壁は厚かったとしか」
「ほらみろ。そんな美味い話なんてねぇんだよ」
就寝時。奉公人トリオの真ん中、ペピトにプギャられた。まあ仕方ない。確かに、美味い儲け話があれば誰だって飛びついているだろう。
「だよなぁ。結局大旦那様みたいなのが一番いいんだよな」
「だけどプリニオ冒険者になるんじゃなかった?」
「まぁな。俺は学がねぇし、奉公が明けたら冒険者ギルドに行くぜ」
「冒険者は怖いよ。俺は衛兵さんになりたい」
「衛兵は火と土ばっかりだからな、難しいんじゃねぇか」
おっと。年長のプリニオは冒険者、年少のポンシオは衛兵志望らしい。俺らには狭き門だが、頑張っていただきたい。
しかし俺の進路はどうしたものか。投資関係は軒並み無理そうだし、今から大店を構えるのも骨が折れる。冒険者や衛兵のような肉体労働はゴメンだ。やっぱこの世界で成り上がるには、風属性は詰んでるのか?
いや、まだ奉公に入ったばかりだ。焦る時間じゃない。まずは手堅く勤めながら情報を集めなければ。




