第9話 アーリーリタイアを目指して
改稿ミスにより、9話と10話の内容が重複しておりました。
大変申し訳ございません!
ご指摘ありがとうございます!
俺の奉公人生活は、概ね順調だった。すなわち、朝には掃除か洗濯、それから勉強。午後には残りの掃除やお遣い、俺の場合は事務室で書類仕事の手伝い。早期リタイアに情熱を燃やす変わった子供、というレッテルを貼られているものの、それ以外は至って普通だ。
「いや普通じゃねぇし」
「えっ」
「どこの世界に早期リタイアを目指す幼児がいるってんだい」
ジャガイモの皮剥きをしながら、なぜか罵声を浴びている俺。今日は書類仕事はお休みだ。検算など毎日あるわけじゃないし、重要書類は奉公人には見せられない。お遣いや力仕事などは年長者の担当。というわけで、必然的に調理補助が割り当てられることが多い。
「ったく、小さいうちから楽しようなんぞ、ロクな大人にならねェぞ?」
「お天道様の下で一生懸命働くのが、真っ当なヒトってモンだよォ」
「いいえ、それは違いますよ。人は楽して生きたいものです。そしてどうやったらもっと楽に生きられるか、そのことに知恵を絞るのが商人というものです」
「ぐぬ……」
同じく夕飯の仕込み中のパウリノさんとペトロナさんから苦言が飛んでくる。だが俺はちっとも気にしない。
そう、商人はサービス業。サービスの基本は価値の創造だ。形のないものを創造して利益を挙げる、それが商人の生きる意味である。言い換えれば、風属性の存在意義と言ってもいい。
魔術概論を読み終わったことで、先代こと大旦那様から気に入られ、俺は他の蔵書の閲覧許可も与えられた。直接お会いしたことはないが、番頭のプロスペロさんを通じて時々古本が送られてくる。タイトルは、経済論とか商業論とかそういう感じ。だが中身はビジネス書、自己啓発本みたいなヤツだ。こっちにもあるんだ、自己啓発。
そういった本の中身は、まあ大体前世のそれと大差なかった。俺は若い頃一生懸命働いた、だからお前も人の二倍働け、とか。商売は第一印象が全てだ、身なりを磨け、とか。心理操作、商談の有利な進め方、契約書の落とし穴、クレーム処理のテクニック、みたいな。
だが俺に一番響いたのは、「風属性と存在論」という本だった。これは基本四属性から見た、商人の役割と在り方みたいな内容。商人っていうのはこの世界の血液みたいなもので、俺たちが通商と物流を担うからこそこの世界は発展する、という話だった。確かにな。火属性が担う軍事力、土属性が担う一次産業や二次産業、水属性が担う医療、それらは確かに大事だが、社会の発展にはサービス業が不可欠だ。
まだ物流が未熟なこの社会では、サービス業は「なくても困らない」産業として軽視されている。そして、主にサービス業に携わる風属性もだ。そして「風属性と存在論」は、「そんなことないぞ、風属性だって偉いんだぞ、ほんとだぞ」みたいな、ちょっと悲観的な風属性擁護な本だった。しかし、俺の前世が証明している。これからサービス業の時代が来る。
「風属性は最強です!」
「……半分ぐらい、なに言ってっかわかんねェけどよォ……」
「そうだといいねェ……」
なんだか生温かい目で見られているが、そんなことを気にしていては早期リタイアは望めない。スタートは早ければ早い方がいい。俺は野菜の下拵えに精を出しながら、野望に燃えていた。
というわけで、人生の進路を早期引退に定めた俺。そのためには、不労所得を得る仕組みを構築しなければならない。思えば前世、転職に際して副業を調べてみたり、投資について調べてみたりしたものだ。それらはついに実現することはなかったが、今世こそ達成したいところ。なんせ六歳スタートだ。なんとかなるだろう。時間も金もなくあっさり詰んだ前世と違い、今はまだ時間だけはたっぷりある。
「というわけで、不動産投資について伺いたいんですが」
「ふど……」
教育係のピオさんが言葉に詰まっている。なんで。




