第二十一話「迷宮胎動 五」
止まってたぶん早めの投稿頑張るぞ!
まだ記憶には新しい崩壊の記憶、一夜、いや一瞬にして塗り替えられた故郷の記憶。
そんな時のうのうと見ていた夢に現れた少年が今、目の前にいる。
自分と全く同じ容姿に自分とは異なり夕暮れに照らされ光っているかと見紛う程の美しい金の髪を靡かせて彼はそこにいた。
「また、会ったね」
この景色に一つだけ聳える大樹に腰かけ身を休めながら少年はシノンに軽い挨拶をした。
「なんでまた会う…?」
「なんでか…なるほど君は勘違いをしてるよシノン、この前言った条件は門を開くための条件なんだ。
門を通るくらいなら君が望めばいつでもできる」
「俺が、望めば?」
あんな出来事と一緒に出会ったんだ。こいつに罪はないとわかっていても嫌な記憶がぶり返して会いたくないと思うっていたはずなのにどうして?
シノンは訳もわからずトラウマを掘り起こした原因が自分にあると聞いて動揺を示す。
少年はそんな狼狽えるシノンを一瞥してから立ち上がりシノンの額を一度指先で小突いた。
「何するんだ」
「落ち着くんだシノン、僕の存在が君の嫌な記憶を思い出させてしまうのは申し訳ないと思ってる。
僕は君の精神の中にいるからそれくらいは伝わる。でも君は望んだんだ。
君は悩んでる。そして自分では限界を感じてこう思った。
僕ならわかるんじゃって、それこそ何人もいる候補の中の一人に過ぎないんだろうけど確かに君は僕との会合を望んだ」
「…」
シノンは小突かれた額を抑えながら少年の話に耳を傾ける。
少年の言葉はとても丁寧で、寄り添うように優しく、だが確信を着いていたい崩壊の記憶、一夜、いや一瞬にして塗り替えられた故郷の記憶。
そんな時のうのうと見ていた夢に現れた少年が今、目の前にいる。
自分と全く同じ容姿に自分とは異なり夕暮れに照らされ光っているかと見紛う程の美しい金の髪を靡かせて彼はそこにいた。
「また、会ったね」
この景色に一つだけ聳える大樹に腰かけ身を休めながら少年はシノンに軽い挨拶をした。
「なんでまた会う…?」
「なんでか…なるほど君は勘違いをしてるよシノン、この前言った条件は門を開くための条件なんだ。
門を通るくらいなら君が望めばいつでもできる」
「俺が、望めば?」
あんな出来事と一緒に出会ったんだ。こいつに罪はないとわかっていても嫌な記憶がぶり返して会いたくないと思うっていたはずなのにどうして?
シノンは訳もわからずトラウマを掘り起こした原因が自分にあると聞いて動揺を示す。
少年はそんな狼狽えるシノンを一瞥してから立ち上がりシノンの額を一度指先で小突いた。
「何するんだ」
「落ち着くんだシノン、僕の存在が君の嫌な記憶を思い出させてしまうのは申し訳ないと思ってる。
僕は君の精神の中にいるからそれくらいは伝わる。でも君は望んだんだ。
君は悩んでる。そして自分では限界を感じてこう思った。
僕ならわかるんじゃって、それこそ何人もいる候補の中の一人に過ぎないんだろうけど確かに君は僕との会合を望んだ」
「…」
シノンは小突かれた額を抑えながら少年の話に耳を傾ける。
少年の言葉はとても丁寧で、寄り添うように優しく、だが核心を突いていた。
確かに常に情報の手合いはジオに頼っていた。そんなジオでもわからないときた今、俺は他の誰かに頼りたくなった。
その対象は誰なのか…手当たり次第だったんだろうな。
考えないようにしていた人間にすら小さな希望を見出して縋ろうとしていた。
「君のその姿勢を悪いとは言わない。座って」
「…ああ」
少年は再び大樹に寄りかかるように腰を下ろし、自身の横に座るように地面を叩いて促した。
シノンは彼の慰めが真意であることを認め少年の横に座る。
シノンの眼に写るいつも少年が見ている夕暮れの景色は、今の心を忘れさせてくれる程綺麗だと感じた。
少年もその景色に視線を向けながらシノンとの対話を続けた。
「人の為に必死になるその姿勢は誇るべき物だ。だから君が悩んでいることを聞かせてくれないか?」
「…ジャンヌって言う女の子がいるんだ。彼女は人格が二つあるみたいで時々幼くなるんだ。
ただの二重人格なら良かったけど入れ替わった時に彼女はとても悲しそ顔をしていた。
だから俺は救いたい。自分が嫌いで暗いままの彼女に前を向かせてあげたい。でも、彼女の状況もわからない…何もできない」
少年へ自分の思いを語るシノンの手は、無意識の内に強く握られていた。
それは無力の怒りであり、悔しさからくるのだった。
「だから、何が起きているのか知りたかった?」
「そうだ」
「人格が二つあると言うより不安定と言った方がいいかもしれないね」
「不安定?」
「僕はその症状を知っている。でも言えない。
だからこれから言うのは全てヒントだ」
「待ってくれ!」
わかっているのに言えないって、それはジオも言っていたことだ。
どうしてそんなに秘匿したがる?俺に言えないこと?言いたくない事か?
「何か条件があるのか?」
「ある。本人や他者関係なくその本質に触れることを言えば症状は消える。
だけど同時に天命を失くす」
「天命?」
「天命とは神から世界の選定された人間が約定によって与えられた固定化された運命の中で果たす役割だ。
そして約定とは守ることを前提に結ばれる運命の固定化のことだ」
「ややこしいな」
天命や約定、運命の固定…急に新しい言葉が出てきて頭が痛くなる。
つまり、誰かが禁止されている言葉を言えばジャンヌさんが物語の中で与えられた重要な役割が失われてその結果物語の筋書きまできれいさっぱり変わってしまうってことか。
だからジオは核心が得れるまでは何も言えなかったのか。じゃなきゃ知らずの内に地雷を踏むかもしれない。
「約定は破棄できないのか?」
「言っただろう?既に運命は固定された。
変えれば大変なことになる?」
「じゃあ彼女の人格はどうなる?」
「それはわからない。僕はその事象の存在しか知らないから実際に選ばれた人間がどうなるかは知らないんだ」
「そうか…」
力ない返事、だが彼の心は欺瞞と憤慨に満ちていた。
そんなことを彼女は任されたって言うのか?ただ偶然選ばれただけで!
あまりにも不公平じゃないのか。なんで善人がそんな役割を押し付けられなきゃならない。
神は、救済を与える存在じゃないのか?
…わからないよ。
「じゃあどうやって彼女を救う?泣いてたんだ。
それを受け入れて気にせず邪魔しないでいろっていうのか?」
シノンは受け入れがたい現実を拒否し必死に感情を曝け出す。
少年はそんなシノンの手をそっと握り、優しく諭すような目でシノンを見詰めた。
「シノン、君は人を知ろうとする人間だ。
私とは違う。何も苦難から抜け出すことだけが救いじゃない。
救うべきは心でありその胸の奥にある存在の原点、その人の生跡だ。
進み続けろシノン、困難や絶望があっても君ならできる。だって君は英雄を目指す人なんだから」
「英雄を…そうだな。ありがとう」
「さて、時間だシノン」
「時間…!」
気付けばシノンの体はまたあの時のように消えかかっていた。
ゆっくりと体が夕暮れの光に溶け込むように光の粒子へと変わっていく。
残された時間は少ないと理解し、少年へシノンは別れの挨拶を済ませようと顔を見る。
しかし、彼は言葉に詰まった。
「ありがとう…えっと…」
「アルだよ」
シノンの戸惑いを察し、少年はアルと名乗った。
「ありがとうアル、また今度」
そう言ってシノンの体は完全にこの金色の世界から消えた。今この世界に残るのはシノンの光の残滓を名残惜しそうに掴みまた永久と悠久の狭間で眠りについた。
ーーー
シノンは来る時と同じ、ある線を越えて目覚めの世界へと戻る。
瞼の奥からもう眩しさは感じず、やさしい明るさを感じた。
まだ日は登っておらず夜のままなことを理解しつつも俺は目を覚ます。
目覚めて直ぐ気が付いたのは隣のベッドで寝ていたジャンヌさんがいなくなっていたことだった。
慌ててベッドから降り辺りを見渡しても部屋の中に彼女の姿は見当たらない。
ふと夜風が窓からシノンの髪を揺らした。垂れる前髪が目に掛かりそれをどかして風の吹く方を向く。
窓を見た時、あるはずのカーテンを見た。
自分の髪より一層長い優しい金の髪が星空に垂れる天幕のように少女の髪は揺らめく。
ジャンヌがバルコニーにいた。シノンはゆっくりと彼女の方へ歩いていく。
窓と部屋の境まで歩いた時シノンは驚かさない程度の声で彼女を呼ぶ。
「眠れないんですか?」
「シノン君…シノン君もですか?」
「いえ、僕は起きちゃっただけです」
何気ない挨拶を躱してシノンはジャンヌの横に立つ、しかしまだ育ち切らない身長のせいか手すりに腕を乗せれない。
シノンは軽く飛んで手すりに座るようにして星を見る。こうするとジャンヌを見下ろす形になり丁度前世と同じくらいの背丈になった。
「ジャンヌさん、なんで昼間すぐ答えられたんですか?」
「昼間ですか?」
「装飾店で店主に聞かれた時です。僕は躊躇いました。
たとえ理想を言わなきゃいけない時でも、その資格が自分にあるのかわからないから
どうして、あなたは迷わなかったんですか?」
シノンの質問にジャンヌは頬に手を当てて少し考える。
きっと、あの言葉は何かを思っていったことでもなかったのだろう。
心から出た言葉、当然だと思って出た言葉、そこに現実なんてない。自分が思い描く理想の景色だけがある。
「あの時思ったんです。シノン君ならなんて言うんだろうって」
「僕ならですか?」
「シノン君はとても真面目で堅実、でも現実主義ではなくて確かに理想を持っているんです。
当然のように人を救うし、困っている人がいたら助ける。シノン君は自分じゃなく人を先に考えるから」
確かに、人を助けることは当然のことだと思っている。
そこに限度は存在しない。自分の心や骨、肉や命で掬えるのならなんだってする。
でも自分の命でもどうにもできないことがある。それを俺はわかってる。
「どうにもできなかったらって思うんです。
自分の命じゃどうにもできなかった時、信じてくれた人を裏切ることになる。
人の為に振るう正しさとは理想であるべきです。でもそれと同じくらい現実も振るうべき物なんです。
でもあの人に言うべきかわからなくなって言葉に詰まりました。
怖いんですよ。夢を見続けてまた失うのが」
結局、俺は変われているんだろうか。
あの日確かに過去と向き合い間違いは犯さないと乗り越えた。理想を追い求めていたあの日が懐かしい。
「理想を見てもいいんじゃないですか?」
「でも…」
「言って実現できなくても、私は責任を感じるべきではないと思います。
何かに縋りたくなって安心させてほしくて大丈夫って言葉を求めるんです。
でも心の奥では理解してる。見ないようにしている現実があるんです。確かに罵倒や嫌な言葉をぶつけられるかもしれません。
でも私はその結果が自分の全てを賭して得た物なら何を言われたって負けないんです」
彼女の瞳は真っ直ぐだ。前世での生前の彼女は知らない。でもきっと同じような言葉を言っていたんだと思う。
そして同時にやっと理解できた。
「ジャンヌさん、あなたはタラスクを止めに来たんですね」
「…」
俺の問いにジャンヌさんが答えることはない。
どこまで言えば約定が破綻するのかはわからないけど、本質はそこじゃないんだと思う。
「答えなくていいんです。今のあなたの言葉を聞いてわかったんです」
「シノン君…私は」
「純粋で、心の中から出た綺麗な言葉でした。
まだ追い付いてないんですね」
「!」
シノンの言葉にジャンヌは目を見開いた。
ジャンヌ・ダルクの現在の症状をシノンは大体把握し仮説を構築させた。
だからこそ今彼女の核心に触れながら本質に触れないように会話を続けている。
「止めませんよ。止められないのもわかってます。
でも僕はあなたを救います。」
「シノン君?」
「理想を見ますよ。でも僕は現実を仕方ないで終わらせない。
英雄の道を歩む者としてその現実を打ち砕きます」
時折、シノン君を見ると知らない誰かの影を彼の後ろに感じる。
彼と似た顔をした黒い髪の貴族のシャツのような服を着た青年を見る。
それは決まって彼の言葉に心を動かされた時に見える。
私の運命は決まっているのに今もこうしてそれを捻じ曲げるなんて言ってしまう。
「全てが終わった時に、ちゃんと話します」
「はい、待ってます」
「それじゃあ寝ましょうか」
「そうですねかなり眠気がしてきました」
シノンとジャンヌはこれ以上の言葉を交わさず互いのベッドに入る。
再び瞼を閉じる時シノンは少しジャンヌに言った言葉を後悔しながら再び眠りへと落ちた。
そんなシノンの横顔を眺めてジャンヌはまだ思いに耽っている。
救う役目の私が、救われる。
天命も約定もあるというのに何故か彼の言葉には希望を抱いてしまう。
既に寝息を立てだしたシノンの寝顔を見ながらジャンヌは先程の自分とシノンの会話を思い出し後悔と嬉しさを込められた言葉を零した。
「本当に、あなたならできるかもしれませんね」
ジャンヌさんの事…説明したいけどまだなんですよ。
今はわかりづらいかもだけど我慢して




