第十九話「地下空間」
流石はリスティアの大都市ミラーナ人口が多い。どこを見渡いても人、人、人…これじゃ見つかる気がしないな。
聖剣探しを始めて数時間、未だに手掛かりすら掴めずシノンとジャンヌは一度休憩をして近くの広場にあったベンチに腰を下ろして休んでいる。
「見つかりませんね」
「魔力探知を最大まで広げてこれですからね。やっぱり誰かが拾ったか盗んでいる可能性があります」
「見つけにくくなってるんですね」
「ええ、拾われた、なら良いんですけど盗まれた、となるとかなり厄介ですね」
市民に拾われたのなら騎士団にでも届けるだろうが、盗まれたのなら話は別だ。どんどん持ち手が金と共に流されていき結局この国の外に出てしまうことだって有り得る。今日中に見つけ出さなければ諦めるしかなくなるだろう。
「さてどうしたものか…」
「聞き込みはどうですか?」
「落とした範囲が分かれば、とてもいいと思うんですけど…」
「ローランさん知らなそうでしたね…」
聞き込みは犯行現場が特定されているからこそできること、現状での策としてはあまりよろしくない。
大通りや目立つ道は一通り探し終えた所だ。ここは路地にでも入れば何か見つかるやもしれない。
「そろそろエリアチェンジといきましょうか」
「エリアチェンジですか?」
「はい。人目に着く場所は見終わりました。次は丁度あそこにある人目のつかない路地に行きましょう」
「わかりましたではすぐに向かいましょう!」
ジャンヌは元気な返事と共に立ち上がりシノンと共に狭い路地裏を見つけ中に進んで行った。
この街の構造は4つの大通りが中央の城へと繋がるように伸びている構造になっている。シノンに付いて来るがままついて来たジャンヌは知らないだろうが今ローラン、オリヴィエ、アストルフォはそれぞれ別の区画を捜索している。
誰がどこを探すか。3人は長年の関係で意思疎通ができたがシノンにそれはできなかったので全員の向かった方向で誰も向かっていない南方向に向かったという訳だ。
俺が事前にジオ学んだことの一つにミラーナも南区画についての話が一つある。
『頭のおかしい教徒集団や盗賊がいるから変な奴らを見かけたら気を付けて~』
あまり怪しい。盗まれた線で考えるのなら明らかにそいつらが黒だろう。それは行くしかない。
だがジャンヌさんがいることで行動の幅が狭まるのが痛いな。危険と判断した場合はジャンヌさんだけでも逃がすか。
「やっぱりどこか大通りとは違う空気がありますね」
「そうですね…私も少し嫌な気がします」
路地裏に入ってかなり進んだが段々と空気が悪くなっている気がする。汚いと言うよりまるで邪気のような感覚だ。聖剣探しをしたいが長居は良くないな。
「それにしても迷路みたいな路地ですねですねシノン君」
「そうですねきっと人口の増加で建物の密度も増した影響で路地も複雑化したんでしょう」
自分たちが来た道も忘れてしまいそうだと困りながらそれでも2人は慎重に路地の中を警戒しつつ進んで行く。
地図を握り直感で自身の位置を把握しながら虱潰しに南下していくが見つかる気配はない。
かなり進んでいるはずなのに怪しい人間すら見つからない。それなのに深まるこの気持ち悪さはなんだ?大通りでは決して感じることのなかったこの感覚…今すぐにでも彼女を帰らせるべきか?
ジャンヌの様子を確認し、やはり先程より顔色が優れない彼女を帰らせるか逡巡するシノン、そんな彼の心中を察したジャンヌが後ろからシノンの手を握る。
「ジャンヌさん?」
「私の事は、気にしないでください」
「…本当に危険と思ったらすぐに戻らせますよ」
「はい。大丈夫です」
確認をしたが消え切らない彼女への不安を抱えながらシノンはさらに先へと進むことにした。彼女の為にも早く見つけ出そうとシノンは探知の範囲を更に広げる。
多少頭に負担が掛かる範囲、しかし普段から生跡の影響を受けているシノンにとっては大した負荷ではない。
ジャンヌの体調と夜までの時間に焦りを感じ始めた頃、十字の路地を通り過ぎた時にシノンは一瞬だが左の通路になにか白い布が通り過ぎたのを目にした。
「いました」
「え!?」
見つけた瞬間にシノンは路地を走り抜ける。いきなりの事に一瞬動揺したジャンヌも出し得る速度でシノンの後ろを着いて行く。
あの布のはためき方、おそらく身に纏っている外套だ。真昼間に白い外套?怪しい事この上ないな。
それに一瞬だが見えたぞ。人の魔力では有り得ない異質な魔力…おそらく聖剣!
外套を纏った何物かを目にした場所に到着したシノンはどこに行ったのか探ろうと辺りを見渡すも相手の足が速かったのかそこには影一つ見当たらない。まだ離れていないだろうと魔力探知を再開しても引っかかるのは市民の魔力だけ…
「見失った?」
「し、シノンくーん」
あまりにも早すぎる相手の足に驚くシノンの下にジャンヌが息を切らしながらなんとか追い付く
「あ、ジャンヌさんすいません。少し飛ばし過ぎました」
「大丈夫です。何か見つけたんですよね?」
「そうなんですけど、見失ってしまって…?」
「シノン君?どうかしました?」
駆け付けたジャンヌの身を案じつつ敵の居場所を考えようとしたシノンはジャンヌの足元に視線を落とした。その視線に気づきジャンヌは首を傾げシノンに尋ねる。
「ジャンヌさんの足装備って足の裏も金属ですか?」
「そうですけど…なにか?」
「もう一度、その場で歩いてもらっていいですか?」
「?はい、わかりました」
訳も分からぬまま、シノンの言う通りにジャンヌはその場で歩く。当の本人は何をしているのか分からなくなっているが、シノンは何かを掴んだような顔になった。
「やっぱりだ」
「やっぱり?」
「この下、多分空洞です。おそらく地下通路か何か」
「地下通路ですか!?」
さっき俺が走った時には何も感じなかったが足底まで金属の装備が覆っているジャンヌさんが走った時にだけ聞こえた音の違和感、それは反響だった。
彼女の足音だけが地下に広がる空間に反響していたのだ。
シノンは自分の疑いを確かめるために地面に手を置き生跡を発動させた。
「再構築」
振れた地面が粒子へと変わり普通の通路であるならば小さく抉られた跡が形成される所、今回は薄暗く灯された空間が現れた。
やっぱりだ。地下空間は想定していなかった。なんとなく聖剣は地上にあるんだと思っていたせいで魔力探知を地上に絞っていたのが良くなったか。
「当たりですね」
「行くんですか?」
「聖剣と思わしき魔力も感じました。行くべきかと思います」
「じゃあ」
「ジャンヌさんは教会に戻って待機ですできればジオに会ったらこのことを伝えてください」
自分も一緒にシノンと地下に向かおうとするジャンヌをシノンは止めてジオへの伝達を反論する間を与えずに任せる。
「大丈夫なんですか?」
「危険になったら天井破って出てきます」
ジャンヌにあまり心配させないように笑顔を浮かべ空元気で答える。
「…待ってます」
「必ず戻りますよ」
不安を残しつつもシノンを信じて大通りへと向かうジャンヌの背中を見届けてから、シノンは路地に開いた穴の中へ視線を落とす。
魔力探知じゃ待ち伏せはされてないな。周囲100mにも誰もいない。都市内の犯罪組織なら所詮その程度の規模か。見かけた奴もきっとここを通って運んでいるはずだ。向かうなら都市中央、すぐに見つけてやる。
ジャンヌと別れたことで戦闘にも専念できるようになったシノンは粒子と剣を携えて穴の中へと降りた。
穴の中の空間は最低限の明かりでのみ照らされていてあまり狭くはない。大通りまでではない普通の通路程度の広さの空間、いつ何時どこから敵が来るのか分からない中、シノンは右手に剣を握ったまま年の中央方面へと進んで行く。
かつんかつんと歩く音が響く。視界が不十分なため魔力探知を普段より集中して使うことでどうにかつり合いを取ろうとするがそれでも視界が悪いのは大きい。
額に流れる汗にすら気付かない程集中しながら進むシノンの魔力探知が遂に前方に人を捉えた。
直ぐに剣を構え前方への警戒を高める。生跡と剣を構えながらじりじりと距離を詰めようとしたシノンは捕捉した者の動きになんとも間抜けな声を上げる。
「は?」
あまりにも速すぎる。感知してから一瞬しか経っていなのにもうこんあに近くに!?いや、もう来る!
速すぎる敵の進行速度にシノンが驚いた次の瞬間、深い暗闇の先から剣を構えた人間がシノンへとすさまじい速度切りかかった。なんとか防ぐも相手の剣の威力は凄まじく防いだはずのシノンの手にびりびりと衝撃を残した。
2撃目が来ると相手の方へ振り返った時、自分を攻撃してきた相手と目が合い互いに顔を見た2人は同時に固まった。
シノンの目に映る屈強な体に美しい赤の髪、裸までみたその姿を忘れるはずがない。
「ローランさん!?」
「シノン!?」
変t、ローランだった。そこに現れたのは聖剣捜索の開始と共に別れたはずのローランだった。
「どうしてここにいるんですか!?」
「迷った!」
「ま、迷った…」
ローランの存在に驚くシノンが尋ねるとローランは堂々と胸を張り答えた。
ローランさんは確か北側に行ったはず…迷っただけで南側、それも地下通路に来るとかどれだけ方向音痴なんだこの人。
「屋根から足を滑らせたと思ったら水路に落ちてな。いつの間にかここなんだ」
「いやそうはならないでしょう」
思わずシノンがツッコんでしまう程度には今のローランの説明には不足している部分が多すぎる。本人が理解しきれていないのだから仕方ないが、感覚派ではないシノンは納得し様にもできずに頭を悩ませる。
水路に落ちたらここにってことは、この地下空間は水路から拡張させたものらしい。水路と地下空間、いい思い出が無いな。
「ローランさんは僕とは逆方面からきましたけど何か見つけたりしましたか?」
「うろうろしながら来たからー曲がり角も多かったし…」
うろうろってまさか迷って南に来たんじゃなくて他の所にも寄ってから来たのか?それってうろうろで説明がつく速度なのか?
「なるほど、僕は一度デュランダルを見かけたんですど何者かが持っていてそれを追っていたらここに…」
「やはり盗まれていたか」
「僕は都市の中央がやっぱり怪しいと思います。個のこの都市の南って凹んでるので狭いんです。地下空間なら尚更、拠点にするには不向きです」
この都市は円形状ではない。南に寄った南西部分が港として使われているため凹んだ形になっている。
聖剣の捜索を始めた時に見たの構造を見たがこの水に埋まっている部分は都市中央の城を中心とした逆さ円錐状、必然的に都市の端に行けば行くほど地下の空間は小さくなる。それも理由の一つだ。
「少しの時間でそれまで…流石英雄を目指すだけはあるなシノン!よしお前の指示通りに動くとしよう」
「では向かいましょう」
シノンとローランが都市中央へと向かう。ジャンヌと離れたことで速度を上げても問題はなくなったためシノンは速度を大幅に上げた。しかし…
それでも速い。さっきの攻撃の時も防ぐのがギリギリの速度だった。もっと距離が近かったら防げたかどうか…やっぱりローランさんはレベルが違う。
ローランの速さに彼の実力を思い知らされるシノン、食らいつこうとするが魔力の強化だけではどうしても届かない。そんなシノンの心情を顔を見ずともローランは把握していた。
「シノン、生跡でさらに身体強化はできるか?」
「え?はい一応」
「なら使え。無理に俺に貼り合おうとするな」
「…はい。世写の四肢」
善意で言っているとも分かりつつ、シノンはローランの言葉に従い生跡で粒子を身に纏う。そのお陰でシノンはローランの横に並べる速度には達したが彼の顔はまだ腫れていない。
「あまり、急ぐなよ。シノン」
「!」
そこまでを見抜いていたかの様に横に並んだローランがシノンへ言った。
「俺も幼い頃は叔父…いや王の為に人を多く守る為に強くなろうと死に物狂いで鍛えた。誇りと名誉こそが騎士の証明であり、それを得るためには力がいると思ったからな」
「ローランさんも…」
「だがある戦いで名誉と誇りの為に殿を務めた俺は部下と共に死にに向かおうとした。だが結局オリヴィエが俺を助けてな。その後重症なのに散々罵られたよ。大勢を死なせた俺の行いは愚かだと言われたよ。
俺は名誉と誇りを求め過ぎて守るための力という原点まで忘れてしまっていた」
そう言いながら通路を駆け抜けるローランはそこに何か身に着けているのか、悲しみに満ちた顔で首の少し下にそっと触れる。
この話はきっと、ロンスヴォーの戦いを言っているんだろう。きっと別世界からの引用で歴史も変わっているんだ。確かにローランの行いを良く言わないオリヴィエは描写されている。
史実ではこの時にローラン本人も死んでいるので彼の心情が描かれることが無かったが、体験をしていれば俺の目の前にいるローランさんの様に感じるのだろうか。
真面目にローランの話を聞くシノンとは別に何も考えていないような顔で長話をし過ぎたと自身の頬をローランは叩いた。
「まぁ要は先を見すぎるなと言うことだ。先を見すぎれば足元さえ見えなくなる。お前は強い。
我らが十二勇士に勧誘したいくらいだ。丁度今1つ空席があってな」
「助言と冗談として受け取っておきます。そういえば、一つ疑問になっていたことを聞いていいですか?」
「お?どうした?」
「何故教会に逃げ込んだんですか?」
「ああそれか。実は教会につてのある奴と来ててな。あとで紹介するよ」
ーーー
「戻って来ちゃった…」
シノンに言われた通り教会まで戻ってきたジャンヌ、自分が言い出したのに返されたことに彼女は申し訳なさと不服さを抱えたまま教会の扉を開いた。
「おや戻ってきたようです」
「いやあれは私に仲間ではないぞランスよ」
「あなたは…?」
扉を開けた先にはランスともう1人、短く刈り込まれたロマンスグレーの髪をした神父と騎士を混ぜた様な服装の弾性が立っていた。
柔らかくもどこか威厳の感じる立ち姿にジャンヌは恐る恐る名を訪ねた。
「あの方はローラン様の尻拭いを手伝ってくださっているのです」
「なるほど、これは失礼ローランの失態と名乗りが遅れた事、お詫びします。
私はトゥルパン、シャルルマーニュ十二勇士の贖罪騎士として王に仕えるものです」
トゥルパン 50歳
ビジュアル:金の瞳、短く刈った白髪混じりの髪
顔つき:厳格だが優しさのある顔
スタイル:がっしりとした無駄な肉の無い年齢を感じさせない体、デカい
好きな物:仲間、正しくある者
嫌いな物:無意味な殺生、度を過ぎた神への冒涜、罪の無自覚




