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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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70話 選択の意味


 地に轟く、一万を超える兵の足音。

 ようやく標的である城が目の前に見えてくる。


「四千を東に回せ。同時に攻めかかるぞ」


 張遼が短く指示を出すと軍は一瞬にして分割され、夏口の城を囲み始める。


 城壁の上には既に兵が配備されていたが、情報通り、数は少なく兵装もまばら。

 慌てて準備をしたという様子がありありと見て取れる。


「盾兵前へ、土嚢で堀を埋めろ。弓兵は構えよ」


 一夜でカタをつける。


 主君の率いる二十万が負けるとは思わないが、自分は軍人だ。

 戦うこと以外の事を考えるべきではない。


 とにかく目の間の城を奪えばいいのだ。


「一瞬で終わらせる」


 戦の火蓋は、切って落とされた。



☆



 外はやけに騒がしい。

 恐らく、戦が始まったのだ。


 手の震えが止まらない。

 これほど全身が怒号や叫びに包まれた事などなかったからだ。


 しかも、敵は精兵。郭嘉の策、張遼の武。

 よく考えれば分かる。この戦はどうしたって勝てない。

 僕の小細工でどうこう出来るわけがなかった。


 今から帰って、僕らだけでも逃げた方が良いんじゃないか?

 どうして残って戦うことを僕は選んだんだろうか。



「こちらが、劉琦様の居室になります」


「あ、あぁ……ありがとう御座います」


 扉を開くと、そこには寝所に腰を掛け、腕を組んだ細身の青年が座っていた。

 士(シ)キン兄上と同じくらいの年だろうか。

 顔には精気がなく青白いが、その瞳は燃え上がり、まるで軍人の様な活力が漲っている。


「お前が、雷豊か。商人と聞いた」


「左様です。現在、曹操軍の一万が押し寄せております。この防衛戦でのみ、一時的に軍師の役職を頂いております」


「軍略も分かるのか。珍しい商人だ」


 これが病床に伏せる人の声なのか。

 そう思う程にキレが良く、ハキハキとした物言いだった。


 僕の想像する劉琦という存在は、もっと弱々しく、劉備を頼るしかないような、そんな人だった。

 しかし、逆だ。弱々しさはなく、その堂々たる気概は立派な群雄のそれだった。


 自分こそが、この荊州の主なのだと。劉表の後継なのだと。


 ただ、悲しいかな。

 その気概こそが、劉琦の生涯を苦しいものとしてしまっていた。


「師父(りゅうび)殿は今、襄陽からの軍を抑える水路に駐屯しているのか」


「はい。ただ、さらに陸兵で奇を突いてくるとは予想外でした」


「ここが落とされればどうなる」


「周瑜軍は背後を突かれ、劉備様は戦線の維持に意味がなくなり敗走。つまり、全体の敗北に繋がります」


「そうか……お前は正直で良いな」


 子供の様に劉琦は笑う。

 そして、言葉をつづけた。


「私を気遣って、皆、戦など起きてないという。調練だという。ここは、荊州は、私の土地だ。なのに、私は今起きていることも把握できていなかった」


 この人がもし、ハンデを抱えずに生きることが出来ていれば、荊州はどうなったんだろう。

 それは、分からない。現実を見る事しか今は出来ないからだ。


 ただ、民を守り、土地を守る。この人はそういう意味では、立派な領主であった。

 僕がもし同じ立場に置かれたら、この人のように強く在れるだろうか。


「それで、私の元を訪れたという事は、何か用があるのだろう? 言ってみよ」


「恐れ多くも、申し上げます。この戦、敗色があまりに濃い戦です。敵は歴戦の勇士、その総攻撃を受ければ兵士の士気が折れてしまいます」


「だろうな。張遼と言えば、天下に聞こえる名将だ」


「劉琦様に、この戦の指揮を執っていただきたいのです。どの兵士よりも前に立ち、敵を斬ってほしいのです。大将の奮戦は、兵の士気をこれ以上に無く上げるでしょう」


「ほぅ……私は、戦場に立っていいのか?」


 意外な反応だった。

 なんというか、別に何もしてないけどお小遣いをもらった子供みたいな。


「と、申しますと」


「いや、戦場とは縁遠い人生であった。それに私が前線に立つだけで、兵は本当に士気が奮うのか?」


「勿論です。軍の実権こそ劉備様にありますが、民が劉備様に従うのは、その上に劉琦様が居られるから。その大将が剣を振るうのです、兵も死に物狂いになりましょう」


「そうか、そうか……私が、大将か。これほど嬉しいことはない。民の、兵の為に戦う。これほど、私は自分の人生に喜びを感じたことはない」


 劉琦は笑い、そして泣く。

 僕はそれを見ることが出来ず、ただ、下を向いていた。


「雷豊」


「ハッ」


「お前は良い軍師になる。良い将になる」


「滅相も御座いません。私は、ただの商人です」


「これほどまでに、人を嬉々として死地に赴かせる策を編み出せるのだ。これは嫌味ではない。乱世において、何よりも大切なことだと思う」


「……申し訳ありません」


「謝るな。それは死地へ向かう人間への侮辱だ。胸を張れ。自分を誇れ。それが戦だ」


「はい」


 劉琦はその細い足で立ち上がり、鎧を持てと命を下す。

 鎧は、僕が用意させたものだった。


 まさに、人の上に立つ者にふさわしい、派手で高貴な鎧である。


「ハハハッ! 流石だ、雷豊! 最高の舞台に、最高の衣装。これで引き下がれば、男が廃るというものよ!!」


 嬉々として戦場へと進み、部屋を出る。

 居室には僕が一人、頭を下げていた。



 そうか、どうして僕が戦うことを選んだのか、ようやく分かった。


 僕もまた、この時代に生まれた男なのだという気概が、どこかにあったんだ。

 そして糜芳さんや、劉琦さんを始めとした、多くの将兵と触れあって、彼らの志を知った。


 どうにかして、彼らを勝たせなくてはならない。

 傲慢だが、真剣だった。

 頑張っている人達を、応援したい。僕の行動原理は結局、全てそこに行きつくのだ。


 ようやく、その意味に少しだけ、触れることが出来たのかもしれない。



スリキンの劉琦って、マジで死にそうな顔色してるからちょっと見てて痛々しかった。

誰かこの感覚分かってくれないかしらん(笑)


次回は、糜芳VS張遼。



面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[一言] 劉琦出ちゃう?すると皇族だったよね?これは公孫瓉の二の舞への道が出てくるわけですね。あくまでも漢の臣下ですから 続き楽しみにまってます!
[一言] 劉琦としてもお飾りのまま何も知らないでいるよりは、総大将として戦えるほうが本望でしょうね。
[一言] 一言。 大変面白いし、わくわくして続きが気になって仕方ありません。
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