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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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69話 攻城戦


 張遼。それはかつて、呂布の配下として兵を率い、後の合肥の戦いでは、僅か八百の兵で十万の孫権軍を破った猛将。

 三国志における最強の武将は誰かと聞けば、間違いなく「張遼」だと多くの人が答えるだろう。


 その、最強の猛将が今まさに、夏口の城に迫りつつあった。

 郭嘉は数が多いことを良いことに主戦場を分散させ、こちらに注力する隙を与えないつもりなのだ。

 対策を講じる時間は、無い。


「雷豊殿、戻っていてくれ。何としてでも城を守らねばならん。すまないが、負傷兵をそちらへ運ぶと思う。医者を貸してくれ」


 糜芳は鬼気迫る表情でそう言い、部屋を出ようとする。


「お待ちくださいっ。たかが一介の商人なれど、私にもこの城を守らせていただきたいのです。麋竺様、糜芳様には、多くの恩が御座います」


「これは軍人の役目。申し出は有り難いが──」


「──この夜に襄陽から兵が出たという事は、恐らく烏林の戦も今まさに行われているものと。つまり、今夜、今夜だけ凌げばいいのです」


 頭を下げる僕を、糜芳さんは難しげに見つめる。


「根拠はあるのか」


「推測です。ですが、曹操本軍が動いてこそ、于禁軍、張遼軍の動きは真価を発揮します。そして、大軍と寡兵の戦。烏林の勝敗はいずれにせよ長くはかかりません」


「今夜だけで、良いんだな?」


「はい。劉備様の戦、烏林での戦、いずれかが敗れれば、すぐに城を脱さなければいけません。なので、戦うのは今夜のみ」


「……おい! 誰か! 雷豊殿に城の全体図を渡すのだ! 一時的に、この戦における軍師の権限を彼に与える!!」





 城内は慌ただしくなり、城壁に多くの兵士が布陣を始めている。

 そして麋竺さん、糜芳さんがそれぞれ直々に兵の指揮を取っていた。


 糜芳さんは文官でこそあれど、武芸の腕については非常に優れているとか。

 それも、軍人顔負けなほどに弓馬を操るらしい。


 ただ、守備兵は千人。対する相手は、一万。十倍の兵力だ。

 城攻めの際、守備側が圧倒的な有利であるとされるが、十倍の兵力差があれば城攻めは可能と言われる。

 それに恐らく、敵は精兵。こちらの主力は、調練もまだあまり済んでいない荊州兵であった。


「こちらが、城内の地図です」


 護衛兵が、地図を大きく机に広げた。

 細かいところまでよく分かる、精巧な地図だ。


「恐らく敵は速戦即決が狙い。下手に小細工はせず、正面突破あるのみだと思う。だとすればやはり、北門と東門」


 城は河に沿った地に築かれており、天然の要害だと言える。

 西と南は河が流れており、船を用いなければまず攻めてかかることは出来ない。


 だから一応、城内の船を使えば逃げることは難しくない。

 この城はそういう、何とも小賢しい造りをしている。決して、死守が目的の城ではなかった。


「軍師殿、曹操軍は官渡の戦いの際、霹靂車と呼ばれる投石機を用いていたとされますが、この戦においては」


「大丈夫です。張遼の進軍は異様に速い。そんなものを運ぶ余裕も、組み立てる時間もありません。戦いは、正面からの強行しかありえない」


 とにかく、集めれるだけの岩を手配し、煮えた湯や油も用意させる。

 いずれも登ってくる敵兵を落とす為に必要な武器だ。


「蝉!」


「はい!」


「雷華にすぐ伝えてくれ。雷氏の商品をすべて使っても良いから、負傷兵を受け入れて治療に当たらせる環境を作ってくれと。現場は、雷華に任せる」


「承知しました」


 とにかく、用意できるものは、用意した。

 ただ、一つだけ圧倒的に心許ないものがある。


 それが「士気」だ。


 籠城戦において最も重要なのは兵力でも兵糧でもなく、士気だとされている。

 士気が高ければ寡兵でも大軍に抗えるし、逆であればいくら兵や物資があろうと一瞬で城は落ちる。


「すいません、一つ質問なのですが、民を徴兵することは可能ですか?」


「城内の民を、ですか。今は非常時です。志願兵という形でなら、七百から八百は集められると思います」


「雷氏の金銭を投じれば、増えますか? それに、集まるのなら女子供を問いません」


「なっ……お、恐らく」


 民兵は、自らの生活の危機を脅かされる為、調練こそ出来ないが、異様に高い士気で戦うことが出来る。

 籠城戦において、これほど心強い味方はいない。


 そして金を投じるのは、民兵より、今の荊州兵達の士気を上げるためだ。

 兵にとってみれば、戦とは言わば「仕事」だ。

 高い報酬を見せれば、短期間での士気の向上に大いに役立つ。


「今、我らが保有している雷氏の家財を全て、勝利後の褒賞として兵士の皆様にお支払いします。戦死した場合は、遺族の方に必ず」


「ど、どうしてそのような。商家は、命よりも、金を重んじる人だとばかり」


「確かに金は大事ですが、私は今は軍師です。使える物は全て使います。ここに証文を書きましょう。それを全兵に伝えてください」


「あ、ありがとう御座います!!」


 本音を言えば、投資だ。

 この戦に勝てば、いくらでも回収出来る。

 劉備にとってこの防衛戦は、それほどの価値があると見た。


 さらには、負けてしまえばこの金銭はどうせ役に立たなくなる。

 没収されるか、それとも僕が殺されるか。

 だからこそ、いくら支払ったって痛くもかゆくもない。


 足りなければ、麋竺さんの金も全部投じよう。

 元は資産家だ。こういう道理もきっと分かってくれるだろう。



「あとは……あの人の力が、必要だ」



 これだけでもやはり、心許ない。

 相手はあの「張遼」なのだ。


「劉琦様の下へ、案内していただけますか?」


 今から、僕は酷な進言をしに行く。きっと、聞き入れてくれるはずだ。

 ただ、それが故にきっと、彼の寿命を削ってしまうことになるだろう。


「分かりました。どうぞこちらへ」


 兵士に促され、僕は席を立った。



合肥の戦いって、ほんとに、漫画にしても出来過ぎなくらい意味わかんない戦いしてますよね。

同じ人間だって言われても、信じることが出来ないっすよ(笑)


そりゃあ「遼来遼来」って言われるわ。



次回は、劉琦と士徽が対面。領主としての気構えとは何か。


面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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