表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/471

舞踏会—芽生える想い②

華やかな舞踏会の夜も、ひときわ落ち着いた空気が流れる時間帯へと移っていった。

ひとしきり賑わった後、音楽はゆるやかなテンポのワルツへと移り変わる。

人々が次々と相手を替えて踊る中――。

「……リュシア」

声をかけてきたのはカイルだった。

銀髪が燭火に照らされ、瞳に微かな揺らめきが映る。

「形式上、こういう場で一曲は踊るものだ。……君さえよければ」

言葉は理屈に寄せている。

けれど、その声音には隠しきれぬ緊張が滲んでいた。

「……はい」

リュシアはわずかに頬を染め、そっと手を差し出す。


二人の手が重なり、音楽に合わせて一歩。

リュシアの裾が舞い、カイルは真剣な面持ちでリードを取る。

「やはり……舞踏は形式だ。貴族にとって必要な……」

自分に言い聞かせるように呟くカイル。

だが、その声を遮るようにリュシアが小さく笑った。

「私も……勇者の伴侶としてではなく、ただの私として、あなたと踊りたいです」

「――っ」

カイルの足が一瞬止まりそうになり、慌てて軌道を戻す。

頬が熱くなるのを隠せない。

「リュシア、それは……」

「いけませんか?」

少し伏し目がちに、けれど真っ直ぐな想いを込めて。

カイルは答えられなかった。

理屈の鎧が音を立てて崩れていく。


曲が終盤に差しかかる。

旋律に包まれながら、二人の呼吸は不思議と重なっていた。

最後のステップを踏み終えたとき、カイルがそっと囁く。

「……形式ではなく、僕の願いとして。君とまた、話がしたい」

リュシアは一瞬、呆けたように彼を見つめ――次の瞬間、顔を真っ赤に染めた。

「……はい」

その小さな返事は、誰の耳にも届かない。

けれど、二人にとっては確かな約束となった。

煌めく舞踏会の只中で。

新しい想いの芽が、静かに息吹いた。


お読みいただきありがとうございます。

いけるところまで連続投稿! 準備でき次第どんどん載せます(更新は不定期ですが毎日目標)。

面白かったらブクマ&感想で応援いただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ