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影狼の群れ—共闘の序曲

森の奥から、低い唸り声が幾重にも重なった。

黒い影が枝を揺らし、赤い光が次々と灯る。

「影狼……!」カイルが震える声で告げた。眼鏡の奥の瞳は鋭く、それでも汗が浮かんでいる。

「十匹以上か……初日からこれかよ!」ジークが斧を構え、唇を吊り上げる。「面白れえ!」

枝を裂いて飛び出した漆黒の狼たち。牙から滴る涎は瘴気を帯び、夜の闇そのものを引きずり込むかのようだった。

アルトが剣を抜き、反射的にリュシアを庇う。その手がわずかに震えた。

「退くしかありません!」リュシアの声が澄んで響く。「無理な討伐は禁じられているはずです!」

「……了解!」アルトは応えたが、足は止まった。剣を握る腕に力が入らない。

――見えた。

アマネの胸がざわつく。庵で見たことがある。“一歩を踏み出せない背中”。

「アルト殿下!」思わず声を張った。

「退くなら、私も支えます! 迷いは……後で考えて!」

ルシアンの言葉を真似ただけ。けれど、それしか思いつかなかった。

リュシアもすぐに重ねる。「殿下。今は命が最優先です!」

二つの声に、アルトは目を瞬かせる。迷いを振り払うように、剣を振り上げた。

「――全員、後退しながら円陣を組め!」

「おらぁッ!」

ジークが斧を振り抜き、二匹をまとめて弾き飛ばす。

「無茶しないで!」ミナが背から筒を抜き、笑顔で構える。「発明一号《閃光玉》――いっけー!」

白光が弾け、狼たちが唸り声を上げて目を細めた。

「効率は正義! 時間稼ぎは任せて!」

「ナイスだ!」ジークが吠える。

「前だけ見るな、ジーク!」カイルが杖を振り、後方に光の壁を展開した。「……後ろも来る!」

「ちっ!」ジークが舌打ちする。背後からの影を壁が弾き、黒煙のように散らせた。

だが、カイルの額には大粒の汗。制御は限界に近い。

アマネは深呼吸し、両手を前に出した。

「小さく……でも、確実に」

掌の光が散り、狼の足元に細かな粒が落ちる。赤い瞳が一瞬だけ揺らいだ。

「止まった……?」

「違う、気を逸らしてる!」カイルが驚く。「制御精度が……高い!」

その刹那、アルトが踏み込んだ。

「はああああッ!」

銀の閃きが闇を裂き、二匹の狼が地に沈む。

剣先は揺れていた。ほんの一瞬。けれど彼は、確かに前へ出た。

数分の交戦の末、群れは森の奥へ退いた。

「ふっ……逃げやがったか!」ジークが大きく息を吐き、笑う。

「完全には討てていません」カイルは呼吸を整えつつ冷静に告げる。「戻ってくる可能性は高い」

「でも……生き延びました」リュシアが小さく頷いた。その手は震えていたが、瞳は澄んでいた。

アマネはアルトを見た。汗に濡れた横顔。真っ直ぐ前を見ている。

けれど剣を下ろした手が震えているのを、彼女だけは気づいていた。

(……揺らいでる)

庵で見たあの背中と同じ。だからこそ、今は言わない。

アマネは小さく拳を握った。

森を撫でる風が、影狼の黒毛を舞い散らせる。

それは模擬演習が、もう授業ではないと告げていた。


読了感謝!戦闘は一段落。更新は不定期・毎日目標で続けます。よければブクマ&感想を。


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