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「あ、亜麻弥さん・・・?」
「あら、三千重さんじゃないの。何か忙しいことでもあったの?」
「あったあっためちゃくちゃあった」
「お前には聞いてないわよ」
ふと、『姉御』の視界に少年が入った。
「この子は誰?」
「降ってきた」
「だからあんたには聞いてないって言ってんでしょ」
「降ってきました」
「ふぅん・・・降ってきたんだ・・・・・・マジでッ!?」
「だから言ってんだろッ、たまにはこっちの話も聞きやがれ」
「・・・ちぇッ、分かったわよ。で、その子の経歴とかそのあたりは?」
「本人から聞けよ」
「はいはい、分かりましたよぅ」
「えぇと、このおば・・・お姉さんは誰かな・・・?」
・・・今『おばさん』と言おうとした事には気付いていないようだ。まだまだピッチピチの20代前半だからなぁ・・・。
「あぁ、『姉御』だ」
「ちょッ、その呼び方やめてよ!!」
・・・姉御。昔、任侠もののドラマを見ていて、女組長のことを姉御と呼んでいた。だから、てっきり姉のことを姉御というと勘違いしてしまった。設定も悪い。部下が全員彼女の弟、妹という設定だったからだ。・・・で、どうも呼び方が癖になってしまい、・・・もう手遅れ。
「それでこの前の前の(前のが10個続く)前の前の彼氏に逃げられたんだから!! ・・・まぁそのあとニュースで結婚詐欺師だって分かって安心したけど」
「じゃぁいいじゃねぇかよ、それ以外で何も損害は与えてないだろ?」
「まぁ・・・そうだけど・・・はぁ、あんたと口ゲンカしたら絶対勝てんわ・・・」
「えっと、じゃあ話すよ」
「あ、すっかり忘れてた」
話が終わると、姉御の顔つきは険しくなっていた。
「・・・それって、・・・どこまでが本当・・・?」
「ぜ、全部だよ・・・」
「全部・・・? ・・・はぁ・・・あながち信じられないとは言えないけどね」
「あ、あがなち・・・?」
「アーク君には難しすぎたかしらね」
「で、このことなんですけど、どう思いますか、『芳養房組組長』さん?」
「さ、三千重さんも調子に乗らないでよね!!」
姉御はからかうと面白い。・・・まぁ『ツケ』がそのうち回ってくるが。
「まぁしばらくこいつは家で預かるから姉御はあまりこの情報が広がらないようにブロックしてくれ」
「分かったわ、AMAMI親衛隊が完全ガードするわ」
「あれってただの取り巻きとか追っかけとかじゃなかったのか?」
「そんなんじゃないわよ、あれは公式ファンクラブの精鋭たちよ」
「嘘ばっかりだな、そんな奴どこにいるんだよ?」
パンパンッ、と姉御が手を叩いた。
「AMAMI様、お呼びでしょうか?」
「でぇッ!?」
窓からずいっと顔をのぞかせた。こいつらは忍者かストーカーか!?
「・・・なんでもないわ、下がっていいわよ」
「了解です」またいなくなった。
「・・・特典とかは何だ?」
「先行予約チケット優先販売、月収100万円」
「セレブはいいなぁ・・・」
「親父も言ってたでしょ、金はどんどん使えー、って」
「はいはい、・・・で、用事があったんじゃないのかよ」
「あ、そうだ。・・・これ、ちょっと見てくれない?」
・・・それは、・・・紅いペンのようなもので書かれた『何か』。・・・鉄くさいし、パサパサしている・・・。
「!!」
血だ。誰の、何の血だ? いや、何の血か、なんてどうでもいい。内容が問題だ。書かれていたのは、何かの紋様、いや・・・『意匠』。オカルト風に言えば・・・『魔法陣』・・・。
「まさか、警察のお世話になるとわねぇ・・・」
「あれってAMAMIじゃない?」
「きゃー! 本物のAMAMIだー!!」
「弟さんとツーショットぉッ!!」
クールに手を振る。あぁ、うるさいなぁ・・・。・・・ここって本当に警察署?
「すみません、目黒警部はいらっしゃいますか?」
「目白ですよ・・・っと、これは芳養房さんじゃないですか。あなたはAMAMIさん! いやぁ、新曲聞かせてもらってますよ」
「どうも」
「で、今回のご用件は?」
「こちらです」
・・・茂が渡したものを見て、目が真剣になった。
「詳しい話をお聞かせください・・・」
・・・奥の小さな部屋・・・第二取調室と書かれていた・・・に入り、この紙について私は話した。
「この紙は今朝マンションのポストを見たら入ってたんです。こういうのは茂がよく知ってるんじゃないかと思って」
「あいにく俺にはオカルト知識なんてものは一切ありませんので」
「・・・あの事件と関係があるとは断言できませんが、可能性はありそうですね」
お茶をお持ちしました、と女性・・・東警部補・・・だったか忘れたが・・・は湯飲みを2つ置いた。
「東警部補殿ー、こっちの分はないんですかぁ?」
「ありません、気持ち悪い声出さないでください」
・・・気持ち悪いは少し言い過ぎではないかと言おうとしたが、・・・正直俺も気持ち悪かった。
「まぁ、鑑識さんのほうに回しておきますので、ご協力感謝します。と・こ・ろ・で、サインとかもらえますか?」
「年齢によります」
「・・・三十代半ば」
「親父より年下ならOK」
と、目黒さん・・・(目白さんだっけ?)・・・は、おもむろに警察手帳を取り出し、
「ちょ、ちょっとぉッ!! それにサインは出来ないわよッ!!!」
そして、家に帰ると家の前に張り紙が張られていた。
「ん? 何か貼られているみたいね」
「ちッ、誰だよ、こんなつまらねぇ悪戯するのは・・・」
・・・内容に目を疑った。
「・・・なぁ、姉御・・・今日って・・・何日だっけ」
「え? ンっと・・・確か、16日だったわね」
「・・・明日か」
「え? 内容見せてよ」
・・・黙って姉御はそれを丸めて捨てた。
「・・・帰るわ。・・・そんなの嘘に決まってるわよ」
「・・・だな。まさか、本当にそんなことになるはずは、・・・ないよな」
姉御はヘルメットをかぶり、バイクにまたがった。エンジンの音を聞き、三千重が家から出てくる。
「あれ、帰っちゃうんですか? 食事でもいただいてからでもいいじゃないですか?」
「ごめん、・・・そういう気分じゃないわ。んじゃ」
そして、そのまま行ってしまった。
「姉御、何か忘れ物とかしてないか?」
「・・・いや、してないみたいね」
「・・・ならいい」
「・・・あッ、誰が家の前にゴミなんて捨てたのよ、もう・・・」
・・・といいながらも三千重は丸めた張り紙を大きく振りかぶって、投げた。
・・・内容は、少しショッキングだったから、三千重は見なくて良かった。
・・・明日、午後3時に。・・・首相官邸を襲撃するそうだ。まさか、信じられなかった。
――――――まさか、・・・本当になるなんて、・・・信じられるはずもなかった・・・。
To be continued...