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第18章

 ロザリーはテレビを観ている。自室ではなく病院へ戻された上で。

 爆発と事故により、全治二ヶ月の大ケガを負った彼女は、再び入院となった。前回と同じ病室で、窓からの景色は変わらない。唯一変化を楽しめるのは、テレビに映る画面。

 だが、どのチャンネルも彼女には刺激が強い。何しろ、ビセートル王国の終焉が映し出されているのだ。

「あっ、村長さんの家……」

見覚えのある場所が映る度、彼女は独りつぶやく。早くも彼女は、そこが遠い世界のように思えている。

「ワタシ、変なこと言った?」

自分以外誰もいない病室で、彼女はまたつぶやく。そして、深々とため息をついた。

 彼女は、王国が滅びた原因の一端を、自らが担ってしまったと考えている。アンヌに撮られたあの写真により、大衆を動かしてしまったのだと。実際は爆発事件のせいなのだが、彼女は自分自身を責めている。

「目の毒だよ。猛毒も猛毒」

部屋の前を通りがかった看護師が、テレビを消す。ロザリーは真っ暗になった画面の先にいる自分を、それからしばらく見ていた。


 ロザリーが普段話す相手は、医師や看護師ぐらい。ただ、ある日の午後は違った。

「もうじき退院だってな」

彼女のベッドのそばで、男性が言う。その男こそロザリーの父親だ。彼は男児を連れてきていた。ロザリーの弟に当たる三歳児で、彼女とは母親違いとなる。厚かましいことに彼女の父親は、ビセートル王国脱出後、法律を巧みに使い、離婚と再婚にこぎ着けた。そして、ロザリーがそれなりに有名(悲劇的な)になった時点で、彼は病室を訪れたのだ。サイドテーブルで、見舞いの白い花が虚しく生けられている。

「ウン」

ロザリーはそう返した。傷心した彼女に取って父娘の再会など、感動も怒りもない。淡々とやり取りするばかりだ。母親との暮らしから、王国での侘しい生活、大人にどう教えこまれたか、将来の展望までいろいろ話していた。しかし、どの話題でもロザリーは事務的かつ最低限の言葉ばかり。将来の話に至っては「何も考えられない」を繰り返す。とはいえ、これは当然な対応といえる。

 彼女は子供ながらアイデンティティと親友を失った身だ。たった何ヶ月かで癒えるほど、単純な少女じゃない。

「なあロザリー。たまに、いや時々我が家へ遊びに来いよ。義理とはいえ、このルイの姉なんだしさ」

彼女の父親は言った。空気を読んでか微笑む三歳児。ロザリーは瓜二つの父子を見比べた後、天井をじっと見上げる。彼女はそのまま無言で返した。

「……まあ、そのなんだ。気が向いたら来てくれ。一緒に食事を取ろう」

父親は気まずげにそう言うと、息子の手を引く。

 父親と義弟が去った後、ロザリーはテレビを点ける。幸い、自分とは無関係な話題が映し出されていた。厳冬により、家庭の電気代が上がっているという話題だ。彼女は独り、画面を見つめながら、それが自分にどう関係するのかをボンヤリと考える。




 リハビリを経て完治したロザリーは、例の自室に戻った。荷物を片付け、寂しげな部屋のベッドへ腰を下ろす。窓外からは車の走行音が聞こえる。

「…………」

壁にかかるカレンダーは去年の物だが、ロザリーが今後の予定を思い出すためには十分だった。

「明日は何もなくて、あさっては授業」

彼女はそう呟くと、仰向けに寝転がる。天井クロスの剥がれかかった箇所を見据えた。

「明日、行ってみよう」

彼女はそう決めた。気分転換しようと。

 電話の使い方をまだ知らないため、アポを取ることなど考えもしなかった。


 ――突然訪れた経緯もあり、父親宅への訪問は散々なひとときとなった。ロザリーのマナー違反はもちろんあったが、父親側の無理解や無神経も大きい。

 継母がロザリーを素っ気なく相手するのはある程度許容されるだろうが、まるで野蛮人扱いだった。「こぼさないでね」とか「手は洗った?」といった失礼な調子だ。継母はロザリーが皿を割ったりしないかと冷や冷やした。三歳の義弟の世話もあり、ロザリーが帰宅するまでの二時間半、継母は夫を時節睨んでいた。

 とはいえ、ロザリーにも非はある。ナイフとフォークを使わず、手づかみでチキンソテーを食べる失態を披露してしまった。三歳児(食べさせてもらっているにも関わらず)からも奇異な目で見られた。過ちに気づいた彼女は赤面し、食べかけの肉片を皿へ戻す。そして、見様見真似でナイフとフォークを使った。カチャカチャと鳴る、耳障りな音。しかめっ面を浮かべる父親の顔から、顔をさらに紅潮させるロザリー。結局、完食できなかった。


 帰り道、ロザリーは虚しさで一杯だった。家庭的で美味しい鶏肉料理を食べ切れなかった事を悔いているのではない。顔を伏せ、歩道を行くロザリー。黄色染みた陽光が足元を照らすが、彼女の心は暗いまま。今の彼女が感じ取れる光は、後方の父親宅から漏れる人工の光だけ。

 薄暗い寄宿舎に帰ると、管理人が玄関で掃き掃除をしていた。

「さぞイイ物を食べてきたんだろうね?」

分厚いレンズ越しに、ロザリーを見るババア。今やろくな話し相手がいない。

「ええまあ、美味しい鶏肉のソテーを」

「鶏かあ。どうせなら、牛を食べさせてもらえばよかったのに。大事な大事な娘がやって来たからにはさ」

ババアは半笑いでそう言うと、塵取りの中身をゴミ袋へ流しこんだ。

 ロザリーは部屋に戻るなり、再びベッドで仰向けに寝転がる。窓から差しこむ陽光が顔に当たるが、陽の温もりなど微塵も感じられなかった。

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