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第七章 アミー 3

3 〝大戦〟の真相



(1)黒幕


「既に汝等も推察せるが如く、融合体の蜂起事件においては、〝啓示の王〟と〝慈愛の王〟を除き、全ての拘束されし融合体の量子頭脳が乗取り(ハッキング)を受け、〝慈愛の王〟はかかる技術を有せざるが故に、〝啓示の王〟が犯行に関与せるものと推定せられたり」


「我等は事件後の調査によりて、〝慈愛の王〟の本体においても、〝啓示の王〟が作成せるが如き不正演算指示コンピュータウイルスを発見せり。一部先住種族の反乱未遂事件につきては、ザドキエルの分離体の一部が逮捕時の自爆によりて失われしが故に、調査は難航せしが、同様に乗取りの痕跡が発見せられたり」


「〝啓示の王〟は新帝国政府の注意を先住種族の反乱へ引き付けし後に、背後から融合体を蜂起せしめ、混乱に乗じて銀河系外に逃れんと図りたるが如し。なお、旧帝国時代の〝先帝〟本体につきても同指示による感染の可能性が指摘されしが、発見されし記憶領域の破片は残念ながら損傷著しく、その確証を得ること能わざりき。過日、〝大戦〟時の戦争犯罪に係る軍事裁判に関し、公判期日が変更されると共に、彼女の拘束期間が延長されしことは、かかる事情によるものなり」


「詳細に関しては今後の捜査が待たれるも、〝啓示の王〟もまた旧帝国時代より、星間社会の安定による軍事活動の比重の低下を予見して、行政種族による統治への転換を図りたるが如し。彼女の戦略の巧妙なる点は、他種族を経由せる実権の獲得と行使にありき。彼女は親衛軍総司令官〝剣の王〟を介して他の軍事種族を操作しつつ、新興の産業・技術種族に対しても、民需省長官〝慈愛の王〟を通じて影響力を行使せり。さらに両者に対しては、腹心の内務長官ザドキエルを通じて連絡し、自らは情報省の機密の壁の背後から各種族の情報を収集しつつ、官房種族として隠然たる権力を振るいたり。彼女はかくして他種族を支配または淘汰しつつ、最終的には帝位を簒奪さんだつすべく図りたらん」


「彼女はこの手法を、帝位獲得時に正統性を提供する〝先帝〟分離体の確保に際しても用いたり。彼女は先帝の本体が失われし場合に備え、他の種族が拘束せる分離体を〝剣の王〟に破壊または接収・同化せしめる一方、〝慈愛の王〟が隠匿いんとくせる分離体は原状のまま予備となし、必要に応じて奪取すべく図りたるが如し。また、不正演算指示による他の融合体への操作は、その露見を防ぐべく、高位種族が重要事項を決定する場合に限り行われ、通常は相手方の利己心や攻撃性を巧妙に逆用して操縦せり。従って他方においては、彼女の新しき罪状の判明後も、他の被告人種族が〝大戦〟時の組織的かつ大規模な戦争犯罪に関し、その責任を軽減される程度は限定的ならん」



(2)情状


「然し、最近の捜査の進展に伴いて、〝啓示の王〟にも酌量しゃくりょうすべき事情のあることが判明せり。は、彼女が旧帝国の運営に関する使命感及び、〝先帝〟種族に対する深き情愛(ゆえ)にあえて内戦を招きたらん、とする仮説なり」


「〝啓示の王〟の記憶組織及び高位の人格群に対する取調べによれば、当時の帝国における軍事種族の過激化の傾向は、彼女の種族内においても憂慮すべき事象として認識せられたり。また、その暴走は〝先帝〟の名をもってしてもとどめ得ざるものならん、という悲観的予測が大勢を占めるに至れり。故に、彼女はむしろその暴発を意図的に誘導することによりて、粗暴なる軍事種族の選択的自滅を図りたらん、という推測が急速に有力となりつつあり」


すでにこれを受けて、新帝国における特別調査班が、〝大戦〟時における彼女の行動の影響を検証せしところ、恐るべき事実が判明せり。即ち、彼女による攻撃的軍事種族の〝淘汰〟なかりせば、現実の歴史の如く犠牲の少なき新帝国の成立は、客観的に見て極めて困難、あるいは不可能という判定結果なり。また、彼女の主観的な意図に関する仮説もまた真実なりとせば、先帝の弑逆しいぎゃくや〝選良エリート〟軍事種族の離反など、予期し得ざりし〝大戦〟の経過を最も嘆き悲しみたる者もまた、あるいは彼女自身なりたらん」


勿論もちろん、かかる事情は彼女の責任を全て消滅せしむるものには非ず。然し、これにより特別法廷及び新帝国政府は、彼女の処遇及び新国家の人的資源政策につきて、大幅なる見直しを求められつつあり」


「然しながら彼女が、サタンやストラス、アスモデウスの如き官僚種族や技術・産業種族の意見を容れることなく、自らを影の支配者とせる専制的軍事種族のみによりて国家を運営し、破滅に導きたることもまた事実なり。〝啓示の王〟の過ちを挙げるとせばまず、文明発展による社会の変化に対し、その健全性を保ち全種族の福利を図るため、各種族が如何に対応すべきかを考えて示し、導くことなく、専ら自らの主導権を維持するための秘密工作に執心しゅうしんしたることならん。またそれ故に、軍事的専制統治の国家方針自体は改め得ざるまま、上級種族間の淘汰や下級種族への収奪、他銀河への侵略を継続し、文明崩壊の危機を招きたることならん」


もっとも、軍事裁判を巡る我等の関心は現在、この〝大戦〟という科学・心理・組織技術の誤用による惨禍の責任追及のみならず、今や統治の責任を担う我等自身、即ち民主化以降には全ての知的種族が、今後は如何いかにせばかかる悲劇を根絶し得るか、という問題へと指向されつつあり」

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