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第七章 アミー 2(3)~(4)


(3)対話


「〝大戦〟終結の直後から、事態は急速に進展せり。〝銀河系内戦〟の平定後、逃亡政権からの〝銀河系襲撃〟を経て、〝アンドロメダ戦役〟による同政権降伏までの間に、サタンは地球における〝先帝〟の分離体の現存を確認せり。幸いにも、〝慈愛の王〟は種族融合体に対する心理操作技術への関心を有さず、専ら将来の帝位争奪戦に備えて安全なる場所に〝先帝〟分離体を秘匿ひとくすることに努力を傾注せしが故に、分離体は旧来の人格を保持せるものと推定せられたり」


「サタンは、本土防衛長官アモンを初めとする理事種族の分離体を通じ、既に活動を停止せる地球上の旧帝国系武装組織に投降を呼び掛けたり。アモンは武装組織との交渉及び投降者受入れの機会に際し、〝慈愛の王〟の分離個体群に悟られることなく、組織内の協力者を介して小型の超空間通信装置を送達し、遂に〝先帝〟分離体と直接の連絡経路を確保することに成功せり。分離体は以後の対応を決定するに当たり、かつて本体が情報を遮断され、中枢種族に利用されたる苦き経験に鑑み、新帝国の状況に関して各理事種族から、直接かつ個別的に説明を受けることを要求し、サタンもまたこれを了承せり」


「〝先帝〟分離体は第一に、理事種族の中でも親衛軍に所属しながら複数の中枢種族を滅ぼし、皇帝領の荒廃にも関与せるバールゼブル、グラシャラボラス及び我に対し、自らの行為に関する釈明を求めたり」


「我等は彼女に対し、戦闘犠牲者につきては哀惜あいせきの念に堪えざるも、〝皇帝領の戦い〟が残存宙域と他星域及び我等自身を守るために止むを得ざりしものであり、かつてバールゼブルが中枢種族の詐術にかかりて行いし〝汚れたる任務〟とは対照的な正当性を有する旨を主張せり」


「また我等は爾後じご、自ら希望して旧皇帝領復興の任に就き、同地を戦前にも増して繁栄せしめつつある旨を回答せり。さらにその教訓から、〝アンドロメダ戦役〟においては新戦術を採用し、かかる悲劇の反復を回避したる上で、戦後は旧帝国系及び先住の種族も含む多数種族の協力のもとに、希望と意欲を以て被害宙域の復興と繁栄を目指し、さらには銀河外宙域の調査・開発をも行いつつある事実を説明せり」


「我等はこの交信において、旧皇帝領の諸種族がもはや戦前の如き専制統治と軍事抗争の道具には非ずして、自ら民主的・平和的かつ建設的な統治を為し得る種族群に発展を遂げたることを、誇りを以て〝先帝〟分離体に報告せり」


「分離体は第二に、正規軍または私兵軍の軍事種族なりしアスタロト、アモン及びゴモリーに対し、彼女達自身の存在意義を脅かし得る、新帝国の平和政策に関する意見を求めたり」


「アモンは、軍事的統治も含めたる一大〝業種〟の利益集団が、文明発展に伴う需要の変化にも関わらず、違法・不当な策までろうして旧来と同様の収益を得続けんとせば、かえって文明諸要素の劣化を招き、〝大戦〟の如き惨禍をもたらす旨を指摘せり」


「ゴモリーは、その陥穽かんせいに落ちたる旧帝国において、アスタロトは甚大なる損傷を被り、アモンは姉妹種族と相討つ悲劇に見舞われ、自らもまた指導種族を失いし旨を語れり。加えて彼女は、新帝国がかかる悲劇を根絶すべく、先進的なる技術開発・産業転換・人的資源の育成及び分権化政策を行いつつある旨を解説せり」


「アスタロトは彼女達とは異なるも、自らの心に正直に、敬愛するサタンと星間社会に貢献し得る自らの役割を、失うことへの恐れを告白せり。然しまた彼女は、かかる職能への固執こしつが幾多の種族の受難を招く悲しみの方が遥かに堪え難きが故に、国家の強制力は自由と公正を守るべき必要最小限度においてのみ存すべし、とする信条を語れり。彼女は最後に、かような理念の実現を可能とすべく、新しき文明の未来を示したるサタンへの信頼を表明せり」


「彼女達はいずれも軍事活動を通じて発展したる種族なれど、決して役割の自己目的化に陥ることなし。彼女達は星間文明の新たなる可能性を信じ、軍事的専制統治からの脱却を訴えると共に、その平和的再統合の鍵を握る〝先帝〟に対し、新帝国への速やかなる〝帰還〟を要請せり」


「分離体は第三に、〝大戦〟において巻き添えにも近き苦難や危険を被りしベール及びストラス、そして再びアモンに対して、新帝国の正当性に関する見解を求めたり」


「これに対して、ベールは旧帝国における非酸素・炭素系種族への差別及び迫害、ストラスは科学技術の独占及び悪用、アモンは中枢種族の腐敗及び抗争につきて説明せり」


「また彼女達は、サタン、アドラメレク、ヴォラク及び我アミー等、新帝国同胞との交流を通じてその克服への希望を抱き、〝大戦〟の苦難を経たる後、今やその実現を喜びつつある旨を彼女に伝達せり」


「彼女達は、〝大戦〟が自らへの危難を招来せしことを認めたるも、そもそもそれらは旧帝国の諸問題に起因せしものなると共に、新帝国の創設は二大銀河の種族に、それらをつぐないて余りある福利と希望をもたらせる旨を証言せり。彼女達は、以後同様の過ちを繰り返さざるためにも、新国家による文明発展政策をさらに推進せしむべきことを訴えたり」


「分離体は最後にサタンに対し、以後の自らの処遇につきて協議すべく通信を求めたり」


「この交信においてサタンは、かつて〝先帝〟種族が当時遂行中の〝外周星域戦争〟における敗勢を覆すべく行いたる、帝国最初の種族融合に言及せり。彼女は、これに反対の党派が政争に敗れて友好種族サタン等の惑星に亡命したる後、勝利の余勢を駆りし推進派が他の全個体も強制的に融合したる経過につきて、詳細なる事実を交えて回想せり。また彼女はその結果、〝先帝〟種族の意思決定が極めて専制的となりしことにつき、深き遺憾の念を示したり」


「この発言を聞きたる分離体は、驚愕せり。かかる強制融合の事実は、以後の種族融合において部分的処置を認めざる一因ともなりし種族的秘密にして、〝剣の王〟が中枢種族の指導者として他の種族から〝先帝〟分離体を接収し、それらの種族や分離体と共に滅びたる後は、自らのみが知る筈の事実なればなり」


「サタンがかような秘密を知りたる理由とは、実際には以下の如し。即ち、〝先帝〟種族の融合達成後も、多数の分離体及び分離個体が、遭難等を装いて母星を脱出せり。彼女達は、先に移住せる同胞を頼りて密かにサタンの母星へと大量亡命を果たし、各界の指導者として歓迎せられたり。亡命成功の背景につきては〝先帝〟種族の統治階層が反対者を排除すべく、あるいは逆に同胞の意思を尊重し、しくは自らの政策が失敗せる場合の保険として、脱出を黙認したるとの仮説が存在せるも、その滅亡によりて真相は遂に不明となりたり」


「当時の亡命者達は、〝外周星域戦争〟における勝利の代償に、自らの本体が悪しき先例となりて、帝国全体が過剰な権力集中状態に陥りたる事態を憂慮せり。さらに、側近団たる中枢種族が本体を傀儡化せしことにより、帝国の統治が硬直化・無責任化せる事態を案じたり。加えて彼女達は、母星外の分離体までもが中枢種族によりて人質の如く囚われ、安全や地位の獲得、さらには帝位争奪のための手段とされつつあることを嘆きたり」


「彼女達は、自らの存在が発覚して利用されることを懸念し、他方では途上種族の文明発展が統治の困難を緩和する一助となることを期待して、サタンの文明開発省への加入と、途上星域への移住を支持せり」


「サタンが非凡なる情熱を以て開発事業に尽力し、成功を収めたる背景には、その生来の心優しさに加え、その内に宿りし〝先帝〟人格群の不屈の意志もまた存したらん。サタンは我等三姉妹やアモン・アドラメレクに先立つ種族間融合体または混血種族、あるいは両者の中間的存在にして、それを知る者は彼女の融合化を実施せるストラスのみなりき。この秘密は、今般の情報公開に至るまで良く保持せられたるものと言うべし」



(4)合一


「一個人の人格において、様々なる知識や欲求は時間の経過に従いて整理され、以後の経験によりて新しきものが加わり行けり。これと同様に種族融合体においても、類似の記憶や意見を有する人格は長き歳月を経て一体となり、新しき経験を得て帰還せる分離体や分離個体がそれを補う傾向が存在せり」


「然し逆説的にも、サタン及び〝先帝〟の人格は高邁こうまいなる社会的理想を共有しながら、性格においては温順と峻厳しゅんげんという対照的な側面を有するが故に、サタン内部における〝先帝〟の人格群は、分離体の人格群と同様、ほとんど建国時と変わりなく保たれたるが如し」


「本来のサタン及び両〝先帝〟の人格群は古き時代の記憶を交換しつつ、戦後の調査によりて確認されし融合体本体の滅亡をいたみたり。〝先帝〟分離体は、中枢種族の干渉が人類に多大なる被害をもたらせしことにつき、遺憾の意を表したり。然しサタンは、〝慈愛の王〟分離体の撃破以降は武装勢力の活動が鎮まりしが如く、分離体が状況の許す限り人類の善性発揮を導かんと努めたることに感謝を表明せり。両者の協議は以後迅速に進展し、分離体は帰還を決定せり。かくして、〝聖霊〟即ち〝先帝〟分離体のサタンに対する帰化的な種族間融合は、実質的にはサタンの内に在る同胞との再統合として実現せり」


「汝等の多くは、〝先帝〟種族の喪失を悲しみたらん。然し、彼女は汝等の文明を育みしサタンの内において、また奇しきえにしから地球に潜みし分離体として、常に汝等人類を見守り来たれり。そして今や、彼女はその最良のしんなることがあかしされ、またしろともなりたる〝知恵の光をもたらす者(ルシファー)〟サタンと全き一体となりて、新国家の公式的正統性を体現せり。人類の部分的種族融合を祝する先般の式典においても、彼女はサタンの代表分離個体を通じて、本来のサタンと並びて汝等の発展を祝福し、汝等と共に星間社会の未来に対する貢献と協力を誓いたるなり」


「理事種族の中で〝先帝〟の帰還を最も喜びたる者は、アスタロトならん。生真面目なる彼女は、自らが中枢種族から〝反逆公〟と呼ばれしことにつき、政治的中傷と知りつつも耐え難き思いを抱きたらん。また、彼女は専制と不公正を憎みたるも、他方では自由と正義が無政府状態からは得られず、公正なる政府のもとでのみ実現し得ることを認識せり。故に彼女は、最初の銀河系統一を達成し、中枢種族による実権の剥奪までは公正なる統治を追及し、また自らの提督就任を裁可してその一端を担わせし〝先帝〟を常に敬愛せり」


「彼女はサタンと融合せる〝先帝〟の人格群に対して、その帰還を歓迎すると共に、あらためて〝全種族のための文明発展〟の実現に向けた努力を誓約せり。他の理事種族もまた、かつて心ならずも政治的配慮から旧帝国上級種族への厳罰を主張せしバールゼブル及びベールを含め、中枢種族の傀儡化を免れたる分離体の解放及び、サタンとの合一による国家再統合の完成を祝福せり」


「なお、早くも一部の学術・報道機関には、新帝国による全ての功績を〝先帝〟本体の賢慮によるものとする見解が出現せり。即ち、〝先帝〟は当初から旧帝国の崩壊を予見し、国政を民主化すると共に、その妨げとなる皇帝の権威を消滅せしむべく、本体の滅亡を覚悟の上で、人格群の一部を最も温順なる忠臣サタンのもとに送り、改革を準備せしめたるというものなり」


「この仮説は〝先帝〟の覇気やサタン自身の資質をいささか過小評価し、また真実なるともその公表は〝先帝〟の遺志に反する恐れを伴わん。然し他方で、民主国家においては国民の資質向上を前提として、社会的意思決定に資する事実は最大限に公開し、より良き政策の実現に役立てるべきなり。また種族間交流が急速に進展せる現在の星間社会においては、たとえ事実を隠蔽せるとも、いずれ真相は明らかとならん。故に、我等理事種族は学問と報道の自由を尊重して本件に関する研究・取材を規制せず、また同仮説の真実性が証明され、かつその公表が国政の民主化や公共の安全等に反せざる場合には、その結果を公認するとの方針を決定せり」

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