APRIL
「ねえ、お母さん。」
「なーに?」
「この世界って誰が作ったの?」
「んー。それはねきっとずーっと遠くで私たちを見ている神様よ。」
「じゃあじゃあ僕って誰が作ったの?」
「それはね。きっと夢叶を私にくれたのは神様だけど、あなたを生んだのはお母さんよ。」
「ふーん。じゃあ神様はなんで僕をお母さんにくれたんだろうね。」
4月4日土曜日 入学式。
僕は机に置いてあった1年前の日記帳の1ページ目を開いていた。
『どうも!今日は入学式だよ!すっごい緊張する。一番の理由は中学の友達がいないからかな…
でも絶対新しい友達作るよ!あと、自己紹介遅れたけど俺の名前は浅井 夢叶だって!どんな夢でも絶対叶える。そんな思いを込めてつけたってお母さんが言ってた。じゃあそろそろ時間だから行ってきます!』
浅井 夢叶…
当て字にもほどがあるよな 笑
最近の親は希星とかいてキララとか七音でドレミってつけてるらしい。でもこんなのはまだ序の口な方で、もっと酷いのは雲子でウンコとか黒天使であくまとかもあるらしい。
一体何を思ってそんな名前をつけたのか。そう考えたら僕の名前はまだいいのかもしれない。
僕は高校2年生になっていた。日記にあった僕は今の僕に何を伝えたかったのかわからない。でも、一つだけ理解できたのは僕ならきっと、どこへ行っても友達を作れるはず、ということである。
高校2年になった僕は転校することになっていた。親の仕事の都合上らしい。
転校先は長野県松本市。とても以前住んでいたところとは比べ物にならないほど田舎だった。ちなみに僕が転校前に住んでいたのは神奈川県横浜市らしい。詳しくはわからない。
僕の家は少し古い一軒家だった。築15年くらいだろうか?リビング、和室、ダイニング、キッチン、洗面所などが1階にある。二回は3部屋しかなかった。これでもここら辺では普通な方だそうだ。庭は以前より広い。写真を見る限り以前の家に庭はなかった。
父と母は同じ仕事をしている。仕事の内容は僕にも詳しくは教えてくれない。
今日は僕にとっては初登校日である。本来ならば4月3日に始業式がありそこで登校する予定だったが、色々と準備が多く結局1日遅れになってしまったのだ。まあ、ある意味新入生ではあるからなんとなく場違いな感じはしない。
「行ってきます。」
誰もいないが一応習慣として挨拶はしている。やっぱり一人暮らしにしては少し大きすぎる気がする。
お気に入りのスマホで僕は学校まで案内してもらう。なんともまあ便利な世の中になったものである。ワンタッチで起動。ワンタッチで検索。考えることなく、知識や情報がわんさか手に入る。大人たちは知らないだろうが今の若者のメール返信速度は恐ろしいほどに速い。スーパーコンピューターといい勝負だ。それほどスマホは現代の我々にとって生活の一部であり、手から離せない存在になってしまっているのが現状である。これは決していいことではない。本来の生活に支障を与えかねないからである。かといって今更僕もスマホを手放すことができないのも事実だ。とても複雑な心境である。
「えー、皆さんはこの学校に何をしに来たのか。何を残したいのか、そんな目標を持ってこの一年間学校生活を送ってほしい。学習、部活………………………」
入学式ではあるが僕は後ろの方で先生方と一緒に見ていた。どこの学校へ行っても校長先生の話すことは同じように聞こえる。大人になってから聞くとまた違う風に感じるかもしれないが、正直我々生徒にとってはただの苦痛である。
「では、新入生が退場します。」
その言葉を待っていたかのように2、3年生はいかにも練習したという感じで校歌を歌い始めた。
「夢叶くんは何部に入る予定なの?」
先生にそう聞かれたが特に何も考えていなかったため
「帰宅部でいいかなと思ってます。」
と答えることしかできなかった。
教室の前に立つと今まで余裕そうにしていた自分が一気に硬直したのを実感するほどに緊張した。
「えーではみんな、今日から新しい仲間が増えました。じゃぁ、自己紹介自分で頑張ってね。」
「浅井 夢叶です。み、みんなとは早く仲良くなれるといいなと思ってます。」
「はい、じゃあ新井くん。夢叶くんの席案内してあげて」
案内も何も一番後ろの席にしか空いている席がない。当然そこが僕の席だということはわかっていたのだが……
仕方なく新井くんと思われる人物に手を引っ張られついていった。
「ここにカバン置いて。あと101が君のロッカーね。」
2年1組名簿番号一番。
苗字が浅井だから当然ではあるがなんとなく申し訳ないような気もした。
僕の隣は女の子だった。半分以上が女子を占めるこの学校では特に珍しいことではないという。男子にとってこれほどにまで嬉しいことはなかった。しかし、さすがに隣が女の子だと最初は話しかけにくいというのが本音である。
数枚のプリントが前から回された。そこには進路希望アンケートとある。そこで僕は重要なことにきずいた。筆記用具がない…
慌てた僕はカバンを探すふりをしてキョロキョロしていた。
「あ、あの…これよかったら使って?」
「…あ、ありがとうございます。」
正直これを狙っていないといえば嘘になるが結構驚いてはいた。
彼女の名前は川井 詩音。
シャーペンを借りたことをきっかけに僕は少し話しかけることができた。
名前、部活、そして自分にはあまり関係ないが進路についても少し聞くことができた。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ると今まで先生の声しか響いていなかった教室に雑音としか思えないほどの声で溢れかえった。
なにやら僕をジロジロ見ている。無理もない。自分が逆の立場だったら転校生は気になるものだ。ただ、それを理解していてもなおジロジロ見られるのは気分がいいものではない。目を合わせる勇気が出なかった僕はスマホへ逃げた。
「夢叶くん…あの…メアド交換しない?」
その言葉に僕はどれだけ救われたことか。彼女につずいて次々と僕のメアドを求める者が席の周りに集まってきた。
ピロロンッ
『これからよろしくね!
私のことわかる?』
家に帰って早速来たメールだった。一つ聞くが、この時点であることにきずかなければいけない。もし挨拶のつもりだけでメールを送ってきたのならば
『私のことわかる?』の後に名前を入れるはずだ。例えばこうゆう感じである。
『これからよろしくね!
私のことわかる?隣の席の川井 詩音だよ。詩音って呼んでいいからね!わからないことあったらなんでも聞いてね!』この後僕が返せる言葉はよろしくや、ありがとう、くらいである。つまりそこで会話は終わってしまうわけである。私のことわかる?で終わるということは僕に多くの答えの選択肢を与えてくれているということだ。つまり、返信に期待しているということだ。もちろん相手はそこまで考えているはずはないが、会話したいなと思う相手に対して人間とは自然にそうなるものである。これは僕がしょっちゅう転校するせい、でもあるし、おかげ、でもある。
これは人間関係で必要というよりは、あったほうが楽、という武器でである。
『わかるよ。詩音さん?であってるよね?』
返信。
ピロロンッ
『そうそう!よかったぁ。』
『うん。結構珍しい名前だからね。あと今日はありがとう。詩音さんのおかげで結構クラスの人と話せたよ。』
返信
ピロロンッ
『全然!夢叶くって結構フレンドリーなんだね!最初怖い人かと思ってた笑』
『うん笑フレンドリーというか早くみんなと仲良くなれたらいいなって。』
返信
ピロロンッ
『できるよ!夢叶くん結構話しやすいし何気かっこいいかもってみんな言ってるよ笑』
『そうなの?なんか照れちゃうな笑』
返信
ピロロンッ
『私もかっこいい方だと思うよ笑あ、ごめん。もう寝る時間だから、また明日ね!』
『うん。とにかく今日はありがとう。おやすみなさい。』
返信
ピロロンッ
『おやすみ(-_-)zzz』
フゥ〜
嫌いではないがあまり好まない。最初だから仕方ないとは思うがこういった会話に意味があるのだろうか?
まあ意味なんて必要ないか……
とりあえず、机にある日記帳を僕は開く。
『今日は友達がいっぱいできた。やっぱりみんな緊張してるみたいだったけど話しかけたらいい人ばかりですぐ友達になれたよ!これから楽しくなりそうだなぁ。よし!高校ライフ楽しむぞ!!』
この日記を見ると僕は少し切なくなる。思い出なんて残しても意味がないのに……
とりあえずこう書くことにしよう。
『4月4日。今日は学校へ行った。』




